バサナ共和国編

第25話 共和国軍の来襲①

 断崖地帯の神殿から帰還している最中の荒地にて、バサナ共和国の転生者を名乗る褐色の少女『サラ・アルバレス』が急襲してきた。

 彼女の要求は「プロキアの全てをブッ壊す」という抽象的なものだったが、プロキア王国軍に武器を抜かせるには十分だった。


「全軍、射撃用意!!」


「は、弓矢? そんなカス武器、アメリカじゃあ誰も使ってねえよ」


 一斉に横へ展開し、号令と共に放たれた弓矢を、サラは真正面から受け止める。

 飛び交う矢尻の一部が彼女の身体へと当たるが、全く刺さらず、むしろ超硬質な金属に当たったかのようにひしゃげていった。


「む、無傷だと……!?」


 そして狼狽する王国軍に身体を向け、姿勢を低くする。


「アタシをブチ抜きたきゃ、マシンガンでも持ってこいってんだ!!」


 そのままスタートを切り全速力で駆け抜ける。一歩大地を踏み締めると共に土煙が立ち昇り、そして荒地が割れてゆく。

 逃げ惑う王国軍の部隊に到達すると同時に上空へと飛び上がり、着地点の全てを吹き飛ばすほど強烈なスタンピングをお見舞いした。


「ぐぁああああああーーっ!!」


「まるで、砲弾みたい、だ……!」


「そうさ、アハハ! これでオマエラの全てをぶっ壊してやる!!」


 ボトボトと地に落ちた敵兵をまるであざけるように、サラが高笑いしてみせる。

 ……だが。


「いや……全てをぶっ壊す、って」


「具体的に何をぶっ壊すんだ?」


「あ?」


 平静を保てなくなる兵士とは違い、ヒロ達は冷静に敵国の転生者へとツッコミを入れていた。


「えーっと……ほら、お前らの装備とか、骨とか……あとはそうだ、全財産とか!!」


「全財産は戦場に持ってこないだろ」


「う、うるさいうるさいうるさーい!!」


「あ、誤魔化した」


 論破されたサラは、腕を振り上げて怒りを露わにする。

 対する一行は「コイツのオツムは『究極の肉体』では強くならないんだな」という評価を下していた。


「アホ。相手のペースに乗せられてどうすんねん。俺が代わりに説明したる」


「ぐぬぬ……」


 悔しさを露わにする少女を庇うように、刈り上げた青髪の青年が前に出る。


「俺は共和国のトシキ・ヒムラっちゅうもんや。まあ、プロキアの敵っちゅうやつやな」


「その敵が何しに来たの。解答によっては、正義の名の下に断罪させてもらうけど」


「おー怖。まあ今日はちょっとした挨拶や。プロキアの皆さん息してますかー、ってな」


 そうニヤリと口角を上げながら告げると同時に、ヒロ達を囲み込むようにして敵国の軍隊が姿を表した。

 彼らは全て曲剣や弓矢、そして防具の類は殆ど見られないようや軽装備をしていた。

 だが彼らには他に見ないような身体的な特徴があった。

 その全てが犬、鳥、カエルといった、獣と人間を混ぜたような姿をしていたのだ。


「犬や猫の顔をしてる!?」


獣人ニュートだ。バサナ共和国の半数以上を占める、獣と人の混血種族だ」


「手強いよ。身体能力は、普通の人間よりも上だからね」


「せや。挨拶のつもりやったが気が変わった、全員ここで終わってまえや」


 トシキが指示を出すと、獣人たちは雄叫びを上げながら残った王国兵へと襲いかかる。

 襲いくる脅威に応戦しようとするが、獣の身体能力が合わさった戦士たちに段々と押されてゆく。


「クソ、強え!」


「必ず二人以上で連携しろ! 一人で戦おうと思うな!!」


 だが彼らもプロキア王国を守るため鍛え上げられた歴戦の軍隊だ。

 すぐに他のプロキア兵と連携を取りながら応戦し始め、戦況を五分へと戻していった。


「あぁー、獣人はチーム行動苦手やからな。個々の力ばっか重視してはるから、しゃーないんやろうけどな」


 あーあ、と言いたげに額を抑えているトシキに、ヒロは違和感を感じ、叫ぶ。


「っ、まずい何か来る。逃げろ!!」


 それを聞いたミライ、サリエラ、ジークは、すぐさまヒロと共に後ろへと飛ぶ。

 予感は的中しており、青髪の転生者の周りをブヨブヨとした亜空間が囲い始めた。


「せやけど息してはるんやったら、速やかにお引き取り願いますわ、ってな!!」


 そして亜空間が急速に前方へと展開され、プロキア、バサナの両軍を包み込んだ。

 ヒロ達も巻き込まれてしまうが、サリエラが作った球体状の魔術防壁に身を覆わせながら距離を取っていたおかげで、何とか無事で済んでいた。


「な、なんだ……!?」


「身体が、重くなって……」


 だが、防壁の中に居ない兵士たちは別だった。

 身体がみるみるうちにシワだらけとなり、腰は曲がり、そして痩せ細ってゆく。


「老化した!?」


「あれが敵の能力……範囲も相まって、相当厄介」


「まずいね。人間と獣人は寿命が違う。味方ごと老化の能力をかけても問題ないってことか」


 屈強だった王国軍は瞬く間にみすぼらしい姿へと変わってゆき、共和国軍の凶刃によって一方的に刈り取られていった。


「くっ、一度このブヨブヨ空間から出るぞ。ミライに掴まれ!」


「掴まってなくても私が掴んどく。『浮遊しろ!』」


 意図を読めず反応の遅れたヒロとジークをミライが掴み、浮遊する。

 それを見たサリエラもミライに掴まり、球体状魔術防壁の外へと炎魔術を噴射し、地面を転がりながら脱出した。

 外へ出たのを確認するとそのまま防壁を解き、水魔術を唱えて共和国軍の戦士たちを押し流していった。


「雑兵はワタシ達に任せろ!!」


「露払いなら、私の能力も効果的!」


「グエエエエーー!?」


 ミライも着地すると同時に、亜空間の中を目掛けて風魔術を放ち、攻撃する。

 彼女らにとって雑兵は大したことはなく、次々と戦闘不能にしてゆく。


「ま、転生者相手じゃ無理だわなぁ」


「ワタシは転生者ではないぞー。ただの天才だ!!」


 亜空間を狭めて魔術を防ぐトシキに、サリエラは自信満々な笑みを浮かべながら叫んだ。


「身体能力を高める能力に、相手を老化させる能力……老化のほうが厄介そうだな」


「ヒロ。僕は女のほうをやる。君は男のほうをお願い」


「え。俺に強い方押し付けてない?」


「そう言われたら何も言い返せないな……だって」


 勇者は、ふと勝ち誇ったような笑みを浮かべて告げる。



「マジか!? なら任せるわ!」


「任された。勇者の為す正義、特とご覧あれ」


 そのまま武器を抜き、疾駆してサラへと剣戟を浴びせにいった。

 ヒロもそれに続き、亜空間を練り上げているトシキに向き合う。


「なんや。勇者サマじゃなくて、お前が相手するっちゅうんか」


「その前に教えろ。なぜプロキアを攻めた!」


 ヒロは命を取り合う前に、悪意の是非を問いかける。


「んなもん知らんわ。俺はただ、クングルーはんに『行け』言われたから来ただけや」


「なら行ったフリして引けば良いだろうが。戦争になるんだぞ!?」


「まあ、そうやろなぁ」


 綺麗事を述べる王国の転生者に、トシキは呆れたような溜息を吐く。


「けどなぁ、俺が戦争反対せんそうはんたーい思ったって、しゃーないやろ。兵士は上の指示に従うだけ、そんなもんとちゃうんか?」


「人がたくさん死ぬんだぞ!?」


「ぐちぐちうっさい、さっさと構えろや。ジジイなって死にとう無いやろ」


「……ならお前は若いまま逝かせてやる」


 対話は不可能と判断し、代行者ギルドで買った剣を抜いて殺意を発露した。

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