第24話 伝説の煌龍⑤

 ヒロが新たに発現した装備は、神樹に遣える神官を彷彿とさせる緑と白の装備だった。


「本当に出たぞ、新しい最強装備が!!」


「ああ。エリーゼ風に言うなら」


「『癒師装備グリーンフォーム』……!」


「意外と元気だなアイツ」


 ジークが妹の寝言へツッコミを入れる。

 それを聞き届けたヒロが、世界樹を模した杖を掲げると同時に、煌龍の身体から魔力が吸収されてゆく。

 対する龍も必死に抵抗しようとするが、吸収のスピードが早すぎて、巨体を支えられなくなり地に伏してしまう。


「光が弱まってる!」


「ヒロ! そのまま撃ち抜いてまえー!!」


「チャージ完了。言われなくても!!」


 サリエラの愉快そうな号令に合わせ、ヒロが翡翠色の光を先に圧縮した杖を敵に向け、力を解放しようとする。


「って、ちょ、おわぁああ!?」


 だが杖の先に溜まった光が暴走し、持ち主を振り回してから味方の方へと放射されてしまう。


「ああああああ!? みんなごめん避けてーー!?」


 ヒロが焦るも時すでに遅く、一行は翡翠の光を浴びてしまった。

 だがダメージは無く、むしろ体力どころか魔力をみるみるうちに回復させてゆく。


「あれ、力が回復してく?」


「凄いぞ、こんなに調子が良いのは初めてだ!」


「どうやら『癒師装備グリーンフォーム』は、敵の魔力を味方の回復に使う装備のようだね」


「よ、よかった……」


 心なしか、ヒロも疲労が抜けていく感覚に包まれていた。


「だけど今なら、アウレオラの耐性もかなり落ちているはず!」


「総攻撃だな。それに、詠唱も殆ど無しで行けそうだ!!」


「うん。私もフルパワー以上でいけそう」


 ジークは煌龍の放つ光が弱まっているのを見逃さなかった。

 魔力への抵抗力が落ちていると踏んだ一行は、トドメを刺すべく全力以上の総攻撃を仕掛ける。


『神風よ吹け!!』


第六位水魔術ケルヴィ・ヴァッサ!!」


 二人の魔術が合わさり、雷雲を纏いし大嵐がアウレオラを上空へと吹き飛ばした。

 悲鳴を上げながらも両翼を広げて立て直そうとするも、既に上空を制している者が居た。


「正義のもとに、天罰を下す!!」


 そしてジークが雷を振り下ろし、伝説の龍の心臓を穿った。

 断末魔と大量の血の雨が降り注ぎ、アウレオラの身体は神殿の床に墜落した。

 今ここに、太陽にも同一視された伝説の龍は、プロキアの勇者によって討ち倒された。


〜〜〜〜〜〜


「ハーッハッハー! 我々の勝利だー!!」


「モンスター、討伐完了だね」


 帰り道。魔導四輪の中で、サリエラが満面の笑みではしゃいでいた。

 それに対し、ジークが子供を見守るような温かい目で返す。


「これもモンスターなの?」


「人間に害なす存在はモンスターでしょ?」


「そうなのかな」


 勇者の純粋な瞳に、ミライは首を傾げることしかできなかった。


「にしても、煌龍の遺体がマナにならないのは驚いたよ」


「これは研究のしがいがあるな。帰ってからが楽しみだ!!」


「確かに。私も気になるかも」


「あ、あのさ?」


 すっかり戦勝ムードになっている途中で、ヒロが恐る恐る手を挙げる。

 そして、四輪に引かせた龍の遺体を乗せた台車を指差して、口を開く。


「今さらだけど、これ天罰とか降らない? 仮にもプロキアの守護龍だったんでしょ?」


「む、確かに。これも研究するか!!」


「今さら生贄とか古いんだよ。時代に合ってないし、なんなら僕のほうが国を守ってる」


「というか、ヒロも途中からノリノリだった。人のこと言えない」


「そ、それはそうだけどさ……」


 人差し指を下に向けながら、乾いた笑みを浮かべていた。


「おぉい、ヒロ!」


 そうこうしている間に、解放された人質を送り届けている最中の王国軍と合流した。

 昨日背中を預けあったアゴの割れた兵隊長が、馬に乗りながらヒロに手を大きく振る。


「あ、兵隊長さん。無事だったんですね!」


「そりゃこっちのセリフだ。昨日あんなことがあったのに、まさか煌龍まで倒しに行っちまうなんて凄すぎだろ!!」


「倒したのはジークですけどね」


「おぉ、流石は勇者様だな!」


「また英雄譚が増えちまったなぁ!!」


 他の兵士たちも、プロキアの勇者へ羨望の眼差しを向ける。


「勇者、か……」


 それを見たヒロも、少し俯きながら笑みを作っていた。


「いつか、俺もそう呼ばれたいな……」


 幼い頃からの夢が叶う日まで、出来ることからやっていこう。


 そう決意した、そのとき。

 空から何者かが飛来し、魔導四輪ごと王国の人々を吹き飛ばした。


「な、なんだぁ!?」


「ワタシ達を相手に襲撃など、よほど度胸があると見た!」


 一行は吹っ飛ばされながらも臨戦態勢に移行し、舞い上がった土煙の中へと魔術で攻撃を仕掛ける。

 しかし、土煙の中に仁王立ちしていた褐色の少女には、傷ひとつ付けられなかった。


「へぇ。オマエラが、プロキアの最強部隊か。いきなりエースと当たっちまったってこったな!!」


「サラはん、感心してる場合ちゃうやろ。地雷原に頭突っ込んでどないすんねん」


「おぉっと、そうだったな」


 関西弁を話す青髪の青年に『サラ』と呼ばれたツインテールに結んだ深緑の髪を持つ少女は、堂々と平らな胸を張りながら叫ぶ。


「アタシは、サラ・アルバレス!! この『究極の肉体』で、オマエラの全てをブッ壊しにきた!!」


「アホやわ。名前と国、それに能力までバラしてまった」


 ついにバサナ共和国による、プロキア侵攻が始まろうとしていた。

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