第23話 伝説の煌龍④
二人チームに分かれた一行は、合図と共に飛び出して攻撃を仕掛ける。
「想見・構築・焼却……
「せあァッ!!」
サリエラが周囲の植物を焼き払い、煌龍までの道を拓いてゆく。
「どうして先生を見てくれないんだ!!」
「お前の相手は僕たちだ」
『吹き飛べ!!』
すかさずタケルが加勢しようとするも、ジークとミライが分断しようとする。
そしてプロキアの勇者が目にも止まらぬ蓮撃を放つが、光合成により急速に成長する植物により阻まれる。
『追い風よ吹け!』
「加速したか。魔術をこうも自在に操るのは厄介だ」
「おっと、僕は脅威ではないと?」
「君が厄介だからだよ」
そう言いつつも、まだタケルには余裕が見えていた。
一方のヒロ達は、煌龍の堅牢な巨体に苦しめられていた。
「爪も牙も厄介だな!?」
「今は盾で防げているけど、こっちの魔力が切れたらヤバい!」
そう言いながらも、攻撃をかわしつつ煌龍の懐まで飛び込んだヒロは、剣に炎をまとわせながら突撃する。
「斬ってダメなら……突き刺す!」
「グルル……」
「手応えがない!?」
体勢を崩したところをタックルで吹き飛ばされるも、何とか受け身を取り対処法を模索し出す。
「なんだよこれ、まるでサリエラの礼装みたい、だ……?」
瞬間、ヒロに閃きが走る。
「サリエラ!」
「なるほどな。ヒロ、何でもいいから塩をくれ!」
「食塩なら!」
「それでいい!!」
仲間の考えを即座に理解したサリエラが、投げられた食塩のビンを受け取る。
「あのコケ……ユーレイゴケは外からの衝撃を受け流す性質を持つ」
そのまま魔術陣の中央に置き、フタを開けて杖を掲げる。
「だが、海水に漬ければすぐに剥がれて、上質なコーティング素材になる!」
実際に、サリエラの礼装には素材としてユーレイゴケも使用されている。
そのため水属性を付与した際、炎の剣を受け流せたのだ。
「想見・錬成増幅・大放出……
サリエラは食塩を触媒に、疑似的な海流を創造して放出する。
ダメージこそ無いものの、煌龍を覆っていた膜のようなコケが洗い流されていった。
「これで終わりだ!!」
海流の流れに乗り、
だが、コケの取れたウロコを削ぎ落とそうとした瞬間。
「え、あれ――」
ヒロの装備が解除され、そのままフラつきながら倒れていった。
「まずい、間に合わな――」
「いいや、間に合わせる!!」
サリエラの焦りを感じ取ったジークが、無防備になったヒロめがけて向けられた爪の間に割って入り、鎧の背部を大破させながらも助け出した。
「うぅっ!!」
「ジーク、ごめん……」
「いや、気にしないで。それよりも」
背中に走る激痛を我慢しながら、ジークはヒロの背中を指差す。
そこには、人間の肌に根付いたキノコが生えていた。
「人間に寄生する冬虫夏草だ。魔力や血液を吸って成長する」
「それが教師のやり方か!?」
「生物の教師だからだよ!!」
抗議する勇者を根で吹き飛ばし、愛しの生徒を抱きかかえ、そのままうつ伏せで寝かせてキノコを掻っさらう。
「中嶋君から生えたキノコだから!! これは中嶋君を食べているってことだ!!」
そう力任せにむしり取った冬虫夏草をゆっくりと口に入れ、噛み締め。
タケルは、光悦な表情を浮かべながら絶頂した。
「はっハァ! 中嶋君のキノコだァーー!!」
「ひ、ひぁぁああぁぁ……!」
ジークは、もはや畏怖していた。
この変態教師が次にしでかす行動を考えようとするも本能が拒絶し、震えて手が出せなくなっていた。
「アハハァ……は?」
タケルが気がついたときには、オレンジ色の液体が足元を這っていた。
それは地に伏していたヒロの口へと入り、そして喉を通ってゆく。
冬虫夏草が減ったこともあり体力が戻ったため、ヒロは教師を振り払い体勢を立て直す。
「いつの間に回復薬を?」
「エリーゼがくれた。もしものときはお願い、って」
ジークに問われたミライが光球を指差す。
その中で意識を取り戻した金髪の村娘が、息苦しさを感じながらも親指を立てていた。
「でもビンを下に向けて零してるじゃん……」
「結果オーライ。うん、結果オーライ」
変態教師の奇行で心を乱したせいで起きたミスをカバーするように、ミライは無表情で青ざめながらも、震える親指を立てていた。
「先生。もう、やめてください……!」
「何故だ?」
「俺は、植草先生と戦いたくない!!」
「この期に及んでもか?」
「それでも、です。煌龍を倒せば、先生は解放される……」
実際、今にもヒロは狂いそうだった。
煌龍のせいだと思わないと、正気を保っていられなかった。
「私に剣を向ければいい。なのに何故だ!」
「先生は、斬れません。優しい心を知っているから」
「私は君の敵だ。私を見ろ!!」
「それでもです」
それでも、尋には彼への大恩があった。
「先生のおかげで、真央と一緒の高校に行けた。全力で応援してくれた。だから一線は越えられません」
命の線引きを絶対に越えられないほどの、充実した時間を与えてくれた。
だからこそ、狂った相手とはいえ戦わない選択を選びたかったのだ。
「狂乱したアウレオラは俺が倒します。だから」
「やめろ。私の目は再び閉じてしまう。中嶋君の可憐な姿を脳に刻めなくなる!」
「だったら俺が光を与えます!」
「っ!?」
「それができる呪文を開発できたら、『
無茶苦茶を言っていることは頭で理解していた。
だが、それ以上に無理を通さなければ気が済まない。
「それくらいの恩返しは、させてください!!」
〜〜〜〜〜〜
「中嶋君は、もし私の目が見えていたら同じことをしていたか?」
「……わかりません。多分、適当な係に就いていたかもしれません」
「そうか。なら、盲目で良かったかもしれないな」
「色々と不便でしょう。それに、こんなに苦労することも無かったでしょうし」
「なら、中嶋君が猛勉強して医者になって、目が見えるようにしてくれるのを待とうかな」
「無理ですよ、無理無理! 俺、成績全然ダメですし……」
〜〜〜〜〜〜
「……あの中嶋君が、ここまで自信に満ち溢れるなんてな」
少し寂しげな笑み浮かべる。
「きっと、良い先生に出会ったのだろう」
「はい。アルテンシアに転生してからですけど……」
対する少年は、目に光を浮かべながら答える。
「『自分を信じ抜け』って、教わったんです」
「道理で、成長しているわけだ。それなのに、私は」
納得したように笑うと、タケルの両眼が輝き始め、そして爆発した。
「なっ……!?」
「アウレオラに埋め込まれててね。少しでも反抗的なことを考えればこれだ。だが!!」
頭が吹き飛びながらも口角を上げ、自らの心臓部に腕を入れる。
そして、ブチブチブチィ、という音を立てながら抜き取った
「っ!?」
「遺物がヒロに吸い込まれた!?」
「ぺーしろ、ぺー! 身体に悪いぞ!?」
球根のような遺物はヒロの身体に当たると同時に溶け込み、そして緑の輝きを放つ。
魔力の質が格段に上がった様を感じ取った教師が、最後の教えを生徒に託す。
「さあ行け! その
その言葉を最後に、タケルの身体は大気へと溶けていった。
「……植草先生」
涙は、とうの昔に済ませてきた。
墓前で高校への合格を報告したときに。
「最期の教え、受け止めました」
だからこそ、今は想いを繋ぐ。
そのための手を伸ばし、目を閉じる。
「イメージしろ。あらゆる傷を癒やし、あらゆる理不尽を壊す、司祭の装備を!!」
煌龍の光よりも強い、翠の輝きが辺りを包む。
光が収まると、ヒロの装備は見たことのないものとなっていた。
白と緑で彩られた聖職者を彷彿とさせる帽子と僧服。
そして、世界樹を彷彿とさせる枝と葉の杖。
「この悲劇を……ここで終わらせる!!」
神官を彷彿とさせる新たな最強装備が、ここに顕現した。
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