第14話 宮廷の魔術師⑤
ヒロが目を覚ました場所は、寝心地の良いベッドだった。
見渡すと綺麗に磨かれた木材の屋根と壁、そして白い絨毯が敷かれている。朝日が差し込む窓を覗いた先には、ドンと構える巨大な城と、その周りに建てられたレンガ造りの家屋が広がっている。石畳の敷かれた道を、子供たちが笑い声をあげながら駆け回っていた。
「俺……どうなったんだ?」
サリエラとの戦いに引き分けて気絶した後、プロキア王国の城下町に運ばれたらしい。しかし理由がわからなかったヒロは、着せられていた寝巻きから備え付けられた白い服に着替えてドアに手をかけようとした。
「おはよう、腹が減ったぞー!!」
「うわ、うるさっ!?」
突然、満面の笑みで銀髪の少女がドアを勢いよく開けて元気の良い挨拶をかました。
「なんなんだよ、色々と意味がわからないんだけど」
「ふっふっふ、そのつもりだったからな。あとワタシは腹が減った!」
「え、普通この流れで飯炊きを頼む?」
「あの村の皆が、王国兵の炊き出しを『ヒロのほうが美味い』とぬかしたものでな。そんなに美味いなら、とな!」
「まあ、毎週ペースでご馳走してたしね……」
ヒロは思わず、皆の口を肥やしてしまったことを反省するように頭を抱える。
「むぅ、うるさい……」
サリエラのモーニングコールに起こされたからか、寝巻きを着たミライが目を擦りながら部屋に入ってきた。そして、先日殺し合いを繰り広げた相手同士が談笑している様を見て、急に覚醒したかのように目を丸くした。
「え。サリエラとヒロ……え?」
「おはよう、ミライ」
「相変わらず寝癖がすごいな!」
「だって、昨日二人とも殺し合って……」
「む、ミライは理解が追いついていないようだ。言ってやってくれ」
「俺も城下町に居る理由はわからないけど……」
頭をポリポリとかいた後、続ける。
「サリエラは、灰の村を滅ぼす気は全くなかったんだ」
「……まあ、なんとなくそんな気はしたけど」
そう目を細めるミライを横目に、サリエラが眉と口角を上げる。
「では理由が聞きたいな」
「まず本当に滅ぼす気なら、予告なしに第五位以上の魔術で村ごと焼き払えばいい。道徳的にそれが出来なかったとしても、村人たちを捕らえてからそのまま何もしていないのもおかしかった」
「あ、たしかに」
「捕虜になってた村の皆の健康状態がすこぶる良さそうだったのもおかしい。普通は緊張で眠れないはずだし」
「ふむ。仮にワタシ達が敵意を持っていなかったとして、何故ミライに伝えなかった?」
「これは俺の直感だけど」
小さく息を吸い、答えを吐き出す。
「知恵を絞ってサリエラを打破すること。それこそが、先生の最終試験だから」
「はははは! 正解だ、それをバラしてしまっては試験の意味がないからな!」
「先生、凄いところにまで顔が効くんだろうなって思ってたんだよ。転生届の申請って、本人が即座にやらないと基本ダメって聞いてたし」
「うむ、そこまで観察できているのなら合格だ! ゲオルク師の教えを、こうも吸収して実践できていたのだからな!」
「終わるまで、わからなかった……」
ミライは、後輩の成長力の高さに肩を落としてしまう。
「まあ実際、武杖術を使ったあたりからはワタシも殺す気だったしな」
「俺も死にたくないから、全力で応えるしかなかった」
「二人とも頭おかしいよ」
ぶっ飛びすぎている二人の考えに、ミライは思わずドン引きしていた。
「さて、では何故君たちが城下町に居るのか話そう」
すぅ、と息を吸い、バンと机を叩いて叫ぶ。
「それは転生届の猶予期限が、もうすぐ終わってしまうからだ!!」
「はぁ!?」
「一ヶ月ごとに猶予の更新をしてたんだが、それをミライがヘマしたのだ!」
「やっぱミスってたのかよ!!」
「てなわけで、はやく行ってこーい!!」
「わかった、行ってくる!」
「あと、ついでにパン買ってきて」
「お金持ってない!」
無邪気に手を振るサリエラと使い走りを頼むミライに見送られながら、ヒロは急いで宿を飛び出した。
「本当に気持ちがいいな、ヒロは!」
「うん。友達になってくれた」
「おぉ、本当か!? ついにミライにも友達が出来たのか!」
「近い近い」
目を輝かせながらサリエラがミライの手を取り、振り回す。
「その前に、ミライには話しておかなければな」
そう、ヒロが去った後の部屋で、2人は真剣な面持ちで話し始める。
「近いうちに、凶悪な転生者を手にした隣国『バサナ共和国』がプロキアに攻め立ててくるやもしれん」
「……戦争になるってこと?」
「可能性は高い。そして、それを率いているのが」
サリエラが発した名前を耳にした瞬間、ミライは戦慄した。
「キョウヤ・シノハラ。奴への特別な対抗策を考えねば」
「え――」
ヒロと因縁の深い相手が、アルテンシアに転生していたのだった。
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