第40話 元婚約者にできること
「リューディア。陛下にあのような態度をとってはダメだ。向こうも強行手段に出るかもしれないんだぞ」
「あなたはっ……エディク王子は、いつも国のことばかり! 私のことなど一度も考えたことなどなくて……!」
興奮したままで責める私をエディク王子は、静かに聞いていた。
「……当たり前だ。私はずっとラウル兄上を抑えねばならなかったのだからな。陛下は高齢。国はこんな状況だ。何より大事なのは、民のいるこの国だ。リューディアが何よりもグラムヴィント様が大事だったように私はこの国が大事なんだ」
エディク王子も陛下も国のためなら、私をフリードさまと引き裂くことなど気にしない。
きっとそうだ……。
「部屋に帰ります……今夜もきっとフリードさまが帰って来ますから……」
フリードさまに話さないといけない。陛下たちは、私の話なんか聞かない。その上、世間知らずの私には、解決法を提案することすらできない。
竜聖女の私は、ただのこの竜の国の象徴なのだ。そこに、私の意志など関係なかった。
グラムヴィント様のことだけ考えていればよかった頃は、もう戻らない。
「ヴィルフリードは、今夜は野営になるのではないのか?」
「帰って来ると言いました……きっと帰って来ます」
足早にその場を立ち去るけど、エディク王子も「待て」と言って付いてくる。
それを振り向きもせずに走った。城に用意されていた部屋に着くと、驚くことに私の荷物が運び出されている。
「お嬢様!」
「ミリア? これは一体どうしたの?」
フリードさまの邸で私の髪を結わえてくれていたメイドのミリアが慌てて駆け寄って来た。
「いつものお嬢様の服を持って来たら……急に部屋が変わったと言って荷物を運び出されているんです!!」
「……っ最初からこうする気だったな」
私のあとを追ってきていたエディク王子が、背後で舌打ちをしてそう言っている。
嫌な予感がした。
「……部屋はどこに変わるの? フリードさまの部屋はこの部屋の側でしょう? 私だけどこに……」
おそるおそるミリアに聞くと、彼女はエディク王子を見ながら緊張した様子で告げる。
「エディク王子様の続き部屋にと……」
その言葉にカッとした。
「ひどい! 最初から話し合いなどする気はなかったのですね!!」
「私の意志ではない! ヴィルフリードも話し合いには応じなかったからだ! だから、陛下たちは……!」
「……フリードさまは知っていたのですか……?」
「知っていた……ヴィルフリードにずっと婚約を破棄するように通達していたからな。でも、ヴィルフリードは一度も応じなかった。誰にもリューディアは渡さない、と言って強引に話を終わらせていたんだ。だから、」
「だから、フリードさまのいない時に私に話をもってきたのですね?」
「ヴィルフリードも、リューディアも頑固な姿勢を見せるから、もう陛下たちは穏やかに説得しなくなる。私が、なんとかなだめて、解決法を模索していたのに……!」
毎日毎日私のために帰って来ていたことが分かった。忙しいはずなのに必ず私の姿を見て安心した様子になっていた。彼は、今日も私がいると安堵していたのだ。
「リューディア様。部屋の移動を願います。このまま、エディク王子の続き部屋へとご一緒ください」
「嫌です!」
いつの間にか、言い合っている部屋の前には女官たちがおり私にそう告げた。
エディク王子は、その女官たちを一睨みした。
「リューディア。その使用人はすぐに邸に帰らせるんだ。君は私の部屋へくるんだ」
「エディク王子!?」
「いいから言う通りにしろ!」
命令するエディク王子に連れて行かれそうになると、ミリアは必死で止めようとしてくる。それを、女官たちが抑え始めた。
「お嬢様!? 離してください! お嬢様が!!」
「ミリアを離してください! 彼女への乱暴は許しません!」
威圧的に女官たちに言い放つと、ミリアを抑えていた手を離して彼女が私に駆け寄って来た。
「お嬢様……っ」
「大丈夫ですよ。ミリアは、このまますぐに邸へと帰ってください。私は……フリードさまと帰りますから……」
ミリアを抱き寄せてそう言った。
それを見ているエディク王子が、「使用人は関係ない。荷物を持って来ただけだ。すぐに帰すんだ」と女官たちに告げた。
抱き寄せていたミリアを離すと、彼女は何度も振り向きながら邸へと帰って行った。
私は、そのままエディク王子の部屋へと向かう。女官たちは、私を見張るようにエディク王子の部屋に入るまでついて来ていた。
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