第25話 夜会 1

 グラムヴィント様は、リューディアと心中のように寿命と共に連れて行く気かと思っていた。それが、リューディアと子作りができるとは思わなかった。

 番になるということは、言葉の通りその通りだったのだ。

 

「……ウル。グラムヴィント様の様子はどうだ? 竜機関には異変はないか?」

「異変があるわけではなさそうですが……ただ、レイラ嬢の竜輝石はリューディア様の竜輝石よりも小さい物のようで、竜機関も不審には思っているようです」


 騎士団の執務室でウルから、竜機関に潜入させていた様子の報告を受けている。

 グラムヴィント様の世話も、レイラ嬢はエディク王子に見張られて逃げられず、泥まみれになってやっているらしい。


「一度だけ目が開いていたと言っていたらしいですけど……」

「いつだ? グラムヴィント様は、起きていたのか?」

「先日、ヴィルフリード様が、グラムヴィント様とエディク王子に会いに行った時ですよ。入れわかりでレイラ嬢と使用人にお会いになったのでは? ヴィルフリード様が帰ったあとに目が開いていた……と報告があったそうです」

「起きている感じではなかったが……」

「では、やはりグラムヴィント様に恐れをなした使用人の勘違いですかね?」


 あの時は、グラムヴィント様はピクリとも動かなかった。とても起きていたようには思えなかった。檻が揺れるほどの力で叩きつけたのに……。


「それよりも、今日はもう仕事を上がってください。リューディア様がいらっしゃいますよ。先に行って待っていないと……」

「わかっている。誰かに声をかけられては困るからな……悪いが、これで行くぞ」


 すでに日は暮れている。今夜は、王妃様主催のチャリティー目的の夜会。貴族からの寄付を集めるためのもので、我が伯爵家からも寄付金や店の商品も出している。

 その夜会にリューディアと出席することになっている。


 執務室で着替えを済ますと、急いで夜会の馬車乗り場へと向かっていった。

 馬車乗り場では、すでに多くの貴族たちが行きかっている。その中で、オズニエル伯爵家の馬車が到着する。


「リューディア」


 彼女の名を呼びながら、停止した馬車の扉を開ける。その先には、目を奪われてしまうほど美しくドレスをまとったリューディアが窓際で小さくなって座っていた。


「どうした?」

「私……変じゃないですか?」

「そんなことはない。その……とても綺麗だ」


 ワイン色の赤に、流行りの黒のシースルーをあしらったドレスは、可愛らしさだけでなくリューディアを美しく引き立てていた。目を奪われてしまう。


 自分に自信がないのか、恥ずかしがってなかなか馬車から出てこないリューディア。人と……ましてや夜会に出ることがなかったから、戸惑っているのだろう。

 「おいで」と両手を伸ばすと、恥ずかしながらもその手を取ろうとしてくる。その彼女を、両手で持ち上げて馬車から降ろした。


「私、本当に夜会に参加していいのですか?」

「俺の婚約者はリューディアで、一緒に参加するのはあなただけだ」


 竜聖女で、グラムヴィント様がリューディアを離さなかったおかげで、夜会など縁のなかったせいか、照れながら降りて来ていた。その照れている様子が、何とも言えないほど可愛らしい。


 心細いのか、腕をそっと掴んでいるリューディアに腕を組むように手を回した。


「ずっと一緒にいるから、安心しなさい」

「はい。信じてます」


 リューディアをエスコートして夜会会場に入ると、会場は騒然とする。

 夜会に出ない元竜聖女と、誰もパートナーを連れて来たことのない将軍が寄り添って夜会にやって来たのだ。驚くことこの上ないことは自分でもわかっている。

 ざわつく会場にビクついているリューディアは、さらに身体を寄せて来ている。


「リューディア。大丈夫だ。俺がいつも夜会にでないことと、パートナーを連れて来たことが無かったから皆が驚いているだけだ」

「私が変だからじゃないのですか?」

「それは違う。リューディアは誰が見ても可愛い」


 自分が可愛いということを全く信じてないようなリューディアだが、ほんのりと頬が染まっていた。

 陛下たちがやって来る前には、側にいた貴族たちに話しかけられるが、緊張しながらも一生懸命に挨拶を交わしている。

 その彼女と、陛下たちがやって来るのを最前列で出迎える。将軍であるから、最前列で出迎えることになると、さらにリューディアは注目の的だった。


 陛下たちの挨拶が終わると、リューディアを連れて挨拶に行く。その彼女を見て陛下たちも驚いていた。

 高齢の陛下は、リューディアとは孫ほども年が離れており穏やかにリューディアと言葉を交わしている。彼女にすれば、知らない貴族と話すよりも少なからず面識のある陛下と王妃様と話すほうが慣れている感じだ。


「……まさか、リューディアがヴィルフリードと婚約するとは思わなかったのう」

「はい、陛下。でも、エディクと結婚できないのは残念ですけど、オズニエル伯爵なら安心ですわ」


 陛下は高齢。王妃様は、身体が弱く線の細い方だ。エディク王子が陛下になる日は近いだろう。

 

 挨拶が終わり、リューディアとのダンスをする。お互いに度々していたものではないが、俺は伯爵家で騎士だったからダンスはたしなみの一つとして習っていた。リューディアは、いずれ王妃になる予定だったから、彼女もたしなみの一つで覚えていた。


 それでも、慣れないながらも軽やかな足取りのリューディアは、ここでも注目の的だった。


「……緊張しました。人前に出ることは久しぶりでしたし」

「すぐに慣れる。俺はあまり夜会にもでないから、必要最低限になってしまうが……」

「はい。次も必ずフリードさまとご一緒します」

「うれしいよ……」


ダンスが終わり、会場の中央から離れるとリューディアとそう話す。可愛い彼女の手を包むように取り、その指に口付けをした。






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