第21話 レイラ視点
使用人たちにグラムヴィント様の掃除を任せて、城にいる友人とお茶を済ませて戻ると使用人たちは、竜聖女の部屋の前で身を寄せ合いながら固まっていた。身体は震え怯えている様子になにがあったのか。わからないけど、仕事をさぼっていることは明白だった。
「一体こんなところで何をしているの!? 仕事は済ませたの!!」
「む、無理です!!」
「グラムヴィント様が、私たちを見たんです!!」
「竜聖女じゃない私たちがいるから、お怒りなんですよ!!」
「恐ろしくて……! もう何も出来ません! お体を拭いてないこともバレているんですよ!!」
見た!? グラムヴィント様が!?
しかも、体を拭いてない!?
使用人たちは、この巨大な竜が恐ろしくていつも近づくことができずに、檻の中の、しかも出入り口付近だけの掃除だけしていたと白状した。それでは、ただの草引きレベルの掃除だ。近づくことすらできなかったらしい。それよりも目が覚めたことが気になる。
震えが止まらぬまま泣き叫ぶ使用人に、「一体いつ!?」と焦り問い詰めた。
「先ほどです! オズニエル将軍がお帰りになったあとに、こちらを睨むように目が開いていたんです!!」
感謝と尊敬。それと同時に畏怖の念をもたれているグラムヴィント様に睨まれることは、恐ろしいことだ。使用人たちは、震えあがったまま必死でそう訴えた。
私だって、こんな巨大な竜は恐ろしい。でも、いずれ王妃になるならこの竜に私は認められないといけない。竜輝石を光らせても、この竜が私を側に置かなければ……あのエディク王子なら、きっと私を調べるはずだ。グラムヴィント様の怒りを買うわけにはいかない。
恐る恐る籠の檻に近づくと、いつもと変わらずにグラムヴィント様は眠っている。それに、ホッとした。使用人たちは、きっと見間違えたんだ……。だから、怒りは買ってない。
とにかく、早くエディク王子と結婚しないと私は王妃になれない。結婚さえしてしまえば竜聖女なんてどうでもいい。
その間も使用人たちは、グラムヴィント様に睨まれたことが恐ろしくて「もう許してください……! 私たちにはできません……!」と泣き叫んでいた。
「レイラ! なにをやっている!!」
後ろからいきなり名前を叫ばれて、思わず身体がびくりと揺れた。まるで、いたずらを見られた子供のようにバツが悪く、ゆっくりと振り向いた。
「あ……エディク王子……」
「この女たちはなんだ!? 君は、ここでなにをやっている!? どうしてグラムヴィント様の側にいない!?」
震えながら寄り添い泣いている使用人たち。私が籠の檻の外からグラムヴィント様を見ていることに、憤慨したように詰め寄ってきた。
「グラムヴィント様の側に一般人を近づけているのか!?」
「ち、違います! この者たちは、私の部屋の掃除に来ていただけで……!」
焦り、言い訳をしようとすると思わず語尾が上がる。それに、エディク王子の眉にシワが寄る。
「た、助けてください……!」
「わ、私たちは……っ!」
腰を抜かしているのか、エディク王子の前だというのに座り込んだまま、使用人たちは号泣しながら訴えて始めている。しかも、使用人が軽々しく声もかけられない王太子であるエディク王子に助けを求めてしまっているのだ。
「私の許可なく、一般人をグラムヴィント様にお目通りさすわけにはいかん! すぐに女たちをここから出すんだ! 連れて行け!! 全員だ!!」
エディク王子が、後ろに控えている側近たちに叫ぶように指示を出している。後ろに引き連れて来た側近たちは、腰を抜かしたままの使用人たちを支えながら起こし、この場から連れ出した。
その間も、私とエディク王子は睨み合うように向かい合っている。
リューディアと婚約している時は、夜会でも穏やかな王子だと思っていた。こんな怒気を発することなどなかった。だからこそ、私にあっさり乗り換える単純な王子だと思っていた。
不真面目だという噂はなかった。むしろ真面目な方だと誰もが思っていた。
それは、間違いないけど……!
「レイラ! 一体なにをやっているんだ! 何故、女たちがこんなところで泣き叫んでいる!? しかも、あの使用人の女たちに世話をさせていたのか!?」
「……私一人では……大変だと言いましたわ!!」
こんな雑用など私のすることではない。モップを持ち、どこが汚れているのかわからない竜の体を拭く。そもそも、寝ているのだから汚れるはずもない。会話すらできない。
グラムヴィント様は、言葉を交わせる竜だったはずなのに!
「……今日から、私が竜聖女の仕事を確認する。今すぐに仕事を始めるんだ! 籠の檻の中を整えることも竜聖女の仕事だ! すぐに、綺麗にしてもらおう!」
それは、まさしく雑用だ。しかもあの使用人たちがグラムヴィント様に恐れをなして、ほとんどなにもしてなかったおかげで、草はざっくばらんに伸び、グラムヴィント様の周りには落ち葉が溜まっている。確かに、籠の檻の中の見栄えが悪くなっている。でも、寝ている竜に見栄えが必要なの!? 誰のために!?
でも、エディク王子は、私を__竜聖女の仕事を確認すると言って、すでに座るための椅子を手配し始めている。
それは、まさしく見張りではないの!?
これでは、使用人にさせることができないじゃないの!!
何考えてるの!? この王子はーー!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます