第9話 竜輝石





 リューディアを迎えに行く前。




 リューディアとの結婚話がいきなりきて驚いた。


 エディク王子は新しい竜聖女を迎え、その竜聖女が新しい婚約者になるという。彼の結婚相手は、竜聖女だと決まっていたからそれは仕方ない。


 竜聖女が現れなければ、伯爵以上の令嬢との結婚相手になっただろうから。


 しかし……。




「リューディア様との結婚はお考え直しください。私のような無骨な人間と結婚させるなんて……いくら、婚約破棄をされようとも、彼女の功績を考えるとこのような仕打ちはあまりにも考えものです。その上、彼女は、まだ18歳ですよ? 私を何歳だと思っているのですか?」


「だから、ヴィルフリードとの結婚を用意したんじゃないか? お前は爵位もあるし、何よりも将軍だ。そこらの貴族よりもいいと思うんだが……だが、嫌なら仕方ないか……」




 竜聖女であるリューディアは18歳。俺は30歳。いくら俺が独身だろうと、彼女はもっと相応しい貴族の令息を探すべきなのだ。


 


「そもそもどうしてリューディア様が竜聖女ではなくなるのですか? 彼女になにか落ち度があったとはとても思えません」


「……光がなくなったのだよ。リューディアの竜輝石が光らなくなったのだ」




 言いにくそうにエディク王子がやっと打ち明けたことに驚く。


 竜輝石とは、竜聖女が現れれば光ると言われているもの。水晶のような物だが、竜の結晶ではないかという一説もある。保管場所は竜機関と呼ばれるところ。竜機関にある台座に鎮座するように安置されている。




 その竜輝石が、何十年も光を失っていたのに十年以上前に突然光ったという。弱々しい光は年々強くなり、それは竜聖女の光臨を示すものだと誰もが確信をもっていた。


 そして、国が混乱しないように密かに竜機関が竜聖女の探していた。そして、見つかったのがリューディアだった。




 黒緋竜グラムヴィント様の管理はエディク王子を筆頭に竜機関が行う。竜機関は秘密の多い機関で外には漏らせない秘密は多々あった。どうやってリューディアが竜聖女だとわかったのかは、竜機関しか知りえないこと。だが、黒緋竜グラムヴィント様に寄り添う姿は、幼いころから誰もが寝物語で聞いた竜聖女そのものだった。


 そのリューディアが、竜聖女でなくなることなど信じられないことだった。




「まさか……そんなことがあり得るのですか!?」


「わからない。竜聖女のことは、我々はほとんど知らないのだ。グラムヴィント様のお考えを聞こうにも、いつもリューディアと一緒だったし彼は冬眠に入られた。冬眠に入る前に竜輝石のこと聞いた時は、竜輝石に従えと言うものだったのだ」




 そして、新しい竜聖女の竜輝石にはリューディアと違う光が放たれているという。




「その竜輝石は、間違いなく竜聖女を示しているのですか?」


「リューディアの竜輝石はリューディアのものだ。リューディアが死ぬまで他の人間のためには光らない。竜輝石とはそういうものだ。だが、別の竜輝石が光ったのだ。ならば、その者が竜聖女となるのだと我々は結論付けた。しかも、リューディアの竜輝石が光らなくなってから、その光は現れたのだ……竜機関以外に竜に詳しいのはリューディアだが、彼女は何も言わない。報告書にも何の異変も書かれてなかった。ただ、グラムヴィント様の冬眠の時期だとは書かれていたが……それに、リューディアは、婚約破棄の時も何も言わなかった。グラムヴィント様がリューディアに何も言わなかった可能性もあるが、そうならもうリューディアは竜聖女に相応しいわけではない……」




 同じ時代に竜聖女が二人いるなど、信じられないことだが百年も竜聖女が現れなかったこともある。リューディアにしたって何十年ぶりの竜聖女だった。




 そのリューディアと俺との結婚を考え直すように、エディク王子に話している時にリューディアの義姉であるレイラ嬢がやって来た。




「ヴィルフリード様! まぁ、会えるなんて嬉しいですわ!」


「どうしてここに……?」




 嬉しそうなレイラ嬢に、思わず眉根が寄る。


 彼女は、俺に縁談を申し込んできたことがあるからだ。彼女と結婚するなんて考えられずに、断りを入れたが……エディク王子を見ると、レイラ嬢がここにいることになんの咎めもない。




「ヴィルフリード。レイラが新しい竜聖女だ」


「本当ですか?」


「えぇ。おそれながら、私が竜聖女となりましたのよ。そうだわ。ヴィルフリード様、どうぞ私の護衛になってくださいませんか? 私はこの国唯一竜聖女ですから、ヴィルフリード様のような将軍がつくのが好ましいですわ」




 満面の笑顔でそう言うレイラ嬢に、何故俺が護衛にと不愉快な気分になる。リューディアは、一度たりとも護衛など頼まなかった。




「リューディア様は、どうしましたか?」


「ブランジス子爵のところに出しましたわ。子爵様がリューディアを望んでいましたから……誰かに結婚を断られたようですが、子爵様はお金持ちだからリューディアは安心ですわ」




 その話を聞いて、背筋がゾワッとした。午前中に、グラムヴィント様のところから去ろうとしたリューディアに結婚を断りに行って、午後にはすでに実家から出されていようとは……!!




 その瞬間に、無言で飛び出した。


 帰って来た娘を実家が受け入れることもなく、それどころか俺までリューディアを見捨ててしまっている。そんなつもりはなくとも、彼女が傷ついていることは明白だろう。




 そして、あの街道でリューディアを見つけてそのまま、俺の邸に連れて帰ったのだった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る