第47話

 お姉ちゃんと向かい合い、マリアの雪が降る。

 そんな中で。


「……叩き潰す」

 

 僕は地面を蹴り、お姉ちゃんへと向かって行く。


「『時雨』」

 

 お遊びは抜き。

 殺すつもりで。


「危ないねっ」


 一直線に突き出した僕の抜刀術。

 それをお姉ちゃんは何処からか取り出してきた鎌でうまく弾いてみせる。


「『双龍』」


 それでも、僕は足を止めない。

 更に前へと突き進む。

 一度に二つの突きでもって、お姉ちゃんの両肩を貫き、その体のバランスを強引に揺らす。


「『天落』」


 更に一撃。

 今度狙うは握りが甘くなったお姉ちゃんの手にある鎌を強引に地面へと落とさせる。


「『八花閃』」


 何も守るもののなくなったお姉ちゃんへと僕は八連撃を叩き込み、その体に大きな傷を作る。


「あっはっは!ちゃんと強いねっ!動きに無駄がない」


「ゲームの知識を僕に授けた、ってことは……逆に言うと、ゲームの知識はないんでしょ。お姉ちゃんの記憶の中に、極まった羅刹っている?」


 羅刹の対人戦。

 その特徴は速攻だ。

 己のHPをすべて削り切る流れるようなスキルの連続使用のうちに敵を殺す。

 それこそが、羅刹の戦い方。


「焔」


 そんな僕へとお姉ちゃんは血だらけの体で魔法を発動。 

 黒き炎が僕の体を包み込み、一気に残っていた自分のHPが消し飛んでいく。

 だが。


「ハァッ!」


 HPがなくなった程度で負けるような僕ではない。

 黒き炎に包まれながらも、僕はお姉ちゃんとの距離を詰めて、刀を力強く握る。


「『無刀』」


 そして、僕は刀を振るう。

 羅刹の戦いの最後は自分のHPが消えるとようやく使えるようになる最高火力のスキルによる一刀で終わりだ。

 残っていたHPも、本人の命も、問答無用で奪い去って見せる。


「ガハッ」


 そして、それはお姉ちゃんも例外じゃない。


「……」


 僕の一刀は、確実にお姉ちゃんの体を斬り裂いた。

 とっくの昔にお姉ちゃんのHPはなくなっている。

 自分の攻撃を受け、生き永らえることは出来ないだろう。


「……やっぱ、HPなんてまともに機能していなかった」


「ははは。嘘の中にはブラフもあるのが……いいところでしょう?ふふ、弟の成長は心地いいねぇ。自分が鈍っている自覚はあったし、全盛期はとうの昔だし……それでも、ここまで何も出来ずに負けるとは思ってなかった」


「……」


「ハハハ……その姿、その瞳、その相貌。あの子まんまだぁ」


 今にも死にかけのお姉ちゃん。

 そのお姉ちゃんはこちらのことを眺めながら


「ごめんねぇ……ずっーと昔の、終われなかった二つの物語の果てに生まれてしまった死にたがりの最後に突き合わせて。あとは、自分の人生を生きてね」


「……クソッタレ」


 何だ、これは。

 虚無感だけが残った僕は言葉を吐き捨てた。

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