第7話

 ダンジョン12階層。

 死者が徘徊する死の空間。


「な、なんでこんなところに……?」


「ご主人様……?」

 

 少女を受け取り、簡単な自己紹介をしてからすぐにここへとやってきた僕へとリーミャと奴隷の少女、マリアが不安そうな視線を向けてくる。

 奴隷の少女、マリア。

 前世の日本人を思い出す黒髪黒目を持った小さな少女。

 栄養をあまりとれていないのか、実年齢である15歳よりもはるかに幼く見える。


「なぁに……少し、確認するだけだよ?」


「え……?」


 僕の言葉にマキナが固まり……そして次の瞬間。



 空間が軋む。



 膨大な『力』がダンジョン全体を覆い尽くし、僕へとその力の濁流が向けられる。


「なにこれ───ッ!?奴隷はご主人様に攻撃出来ないはずッ!?」


「これは攻撃じゃないとも……ただのじゃれ合いだよ?」

 

 僕は慌てているリーミャを横目に腕を振るい、力の濁流を消し飛ばす。

 

「……雪」

 

 僕はぽつりとつぶやく。

 死の空間であり、美しさの欠片もないその空間に、美しくも儚い白い結晶、雪が降り始める。


「な、なにこれ……?」

 

 雪を見たことがないリーミャは困惑の声を上げる中、この奇跡を体現させたマリアへと視線を向ける。


「ふふふ……やはり君は良い」

 

 僕は良い買い物をしたと満足げに頷く。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。違うんです。そんなつもりじゃないんです。叛逆するつもりなんてないんです。殺すつもりなんてないんです。私はただの人間です。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 

 ぶつぶつと呟き続けるマリアへと僕はゆっくり近づいていく。

 さんさんと降り注ぐ雪は僕のHPをちょっとずつだが確実に削り取り、どこを歩いているのか、自分がどこにいるのか……空間把握能力を著しく下げてくる。

 だが……そんなもの僕に意味はない。


「やぁ……マリア。おいたはそこまでだよ?」

 

 僕はマリアの肩を掴み、俯いている彼女の顔を視線を持ち上げさせる。


「僕を見ろ」

 

 マリアの黒い……あまりにも黒い瞳と僕の瞳を合わせる。

 人間の闇。

 それは己よりも強き闇にひどく弱い。


「僕はお前如きには負けない……僕が上だ」

 

 僕は殺気をたたきつけ、マリアの意識を強制的にふさぐ。


「よし。おーわり」

 

 僕は己の能力によって得た情報をもとに行った手っ取り早い解決策を終えた僕は満足げに頷いた。

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