第38話
男の手によって改造を施されたであろう四つ腕のサイクロプス。
「……」
僕はその四つ腕から繰り出される圧倒的な運動量を持つ大剣を避け続けていた。
「ふー」
ここまで。
お姉ちゃんの元にやってくるまでの間でもかなりのHPを消耗し、持っていたHP回復薬のほとんどを使い果たしてしまっている。
そんな中……こいつを倒せるかどうか……いや、倒せるか倒せないかではなく倒す。ただそれだけ。
「シッ!」
HPを削ってしまうスキルの使用は控え、通常攻撃で確実にサイクロプスへとダメージを蓄積させていく。
「……厄介な」
僕はボソリと呟き、僕が与えた小さな傷をどんどん塞ぎ、再生していく。
「無駄だとも……とうとう私は再生能力の再現に成功してね。本来であれば君につけるつもりであった能力なのだけどね」
「そんなものいらねぇよ」
僕は男の言葉に対して吐き捨て、サイクロプスを見据える。
ちまちま攻撃しても意味はない。
サイクロプスを倒すことが出来るのは再生速度など追いつけぬまでの火力を叩き込むことだけ。
「ハッ。今更だ。元よりそれこそ本来の僕の戦い方」
刀を鞘へと納刀し、腰を低く構える。
「ほー。随分と様になっているじゃないか」
僕が構えるのは抜刀の構え。
万物を斬り裂く抜刀の構え。
「我は何ぞや。我は人界の忌み子なり。我は何ぞや。我は意思のなきただの刀剣なり。我は何ぞや。我はただ唯一の血を分けし者の守護者なり」
己が纏う者は紫電から紅蓮に。
ただ愚直に……火力だけを求める破壊の根源、紅蓮の炎へとその身を変える。
「秘剣・覇龍壱閃」
大地を蹴り……紅蓮が、殺風景なダンジョンを輝かしい真紅の色へと塗り替える。
灼熱と化した僕の手に宿る刀剣がサイクロプスの振り下ろす大剣を溶かし、その身へと迫る。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
サイクロプスの断末魔が響き渡り、 僕は刀を振り切る。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
まごうことなき全力。
それを叩き込んだ僕は息を荒らげ……そして、後方へと視線を向ける。
後方……僕が駆け抜けた紅蓮の道のりの半ばに上半身を消滅させられたサイクロプスがゆっくりと地面に倒れる。
「これで……」
残りのHPは一割に近い。
しかし、それでもサイクロプスは倒し切ることができた。
魔物を取り出す水晶は一人一つまでしか携帯出来ない……異なる魔物が眠る水晶同士を近づければ互いに食い合ってしまうがゆえに。
「まだ終わってないよ?アークライトくん」
「は?」
僕の言葉へと割り込んだ男の言葉に反応し、視線を向ける─────
その瞬間。
何かが立ち上がる気配を感じ、視線を後方へと戻す。
「クソッタレ」
そこにいるのは何事もなかったのように立ち上がり、その四つ腕を振り回すサイクロプス。
それを見て僕は一言……吐き捨てた。
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