第35話
僕とお姉ちゃん。
名も知らない組織で生まれ、共に生きてきた僕たち。
生まれたばかりの頃、僕は実に歪だった。
その身に宿したのは莫大な『力』と戦闘の才能……しかし、戦いの申し子と言えるような強さを生まれ持っていた僕にはHPが生まれながらに0という欠陥を持っていた。
これでは戦えない……それを無理やり解消したのがその組織であり、その実験は僕たちの何もかもを変えた。
別に、僕だって前世の記憶とか抜きにして、痛みへの恐怖がないわけじゃなかった。
人体実験を躊躇なく行い、人間をただの消耗品として見ていなかったクソ共たちは僕たち姉弟に行った実験。
過程は知らない。
しかし、結果は知っている。
お姉ちゃんは正常なHPと視力を失い……僕は一切の不足のない完璧なごく普通のHPを獲得した。
レベルが上がれば、それに応じてHPの値も上がるごく普通のHPを僕は手にした。
お姉ちゃんに暗闇の世界とどれだけレベルを上げても上昇しないHPを与えると言う最悪の結果の代わりに。
醜悪で許されざる実験。
しかし、その実験は僕とお姉ちゃんの間に強固なつながりを作り、お姉ちゃんの位置がすぐにわかるという大きな恩恵をもたらした。
「邪魔ァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
紫電を纏い、加速し続ける僕は立ちふさがる魔物どもを体当たりでただの肉塊へと変えて突き進む。
階層を降りて、降りて、降りて、降りて。
立ちふさがる魔物を引いて、斬って、潰して。
追って。追って。追って。
「ふー、ふー、ふー」
返り血を浴びてボス階層であるダンジョン30階層に立つ僕。
「……」
醜い魔物、単眼の巨人、ダンジョン30階層の守護者……サイクロプス。
「……」
物言わぬ巨人はその大きな腕と……その腕に握られているこれまた巨大な棍棒を構える。
遥か高所から巨大な醜い単眼が僕を見下ろす。
「ふー、邪魔だよ。お前」
僕は刀を握り、大地を、天空を駆け抜けた。
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