第10話
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううううううううう」
紫紺ノ狂人と呼ばれ、恐れられる見たこともないほどに美しき少年がまだ年若き少女と共に冒険者ギルドから出ていくのを確認した領主は深々と息をもらす。
「お疲れさまでした……グレンタール伯爵閣下」
アークライトの住む町の領主であるグレンタール伯爵の側で護衛として控えていた男性が領主へと声をかける。
「うむ……ほ、本当に恐ろしいな、あの少年は」
領主は心からの感想をつぶやく。
「……勝手な想像ですが、あの子が裏組織に入ったら最悪の事態を招きそうですものね」
「そうだな……あの少女が途中で話に割って入ってきてくれて良かったよ。本当に」
領主は自身の護衛である男の言葉に頷く。
実力的に言うのであればまだそこまでという評価になるだろう
しかし、その成長性と情け容赦のない残虐性は人類史の中でもトップクラス。
殺し合いと考えると、あまり相手にしたくない手合いであろう。
そして何より……見る者すべてを魅了するアークライトの美貌が厄介だ。
この領地内の冒険者の中でアークライトは容赦なくHPを全損させる悪魔というイメージが存在するため、恐れらえ、魅了されていないが、民衆は違う。
今回のダンジョン入場に関する年齢制限は民衆がアークライトをダンジョンに潜らせるなんて可哀そうだ!と声を上げたことから始まったのだ。
アークライトの美貌は容易く人をバグらせる。
たった一人の少年の美貌に心底心を奪われた民衆はアークライトが一人でダンジョンに入ること良しとしない。
常識的に考えて子供がたった一人、ダンジョンに潜るのはおかしいと。
民衆には『実力』という二文字を加味して考えれるだけのまともな思考力を既に失っていた。
民衆の中にあるおかしな愛情が暴走した結果、今回の話につながった。
今はまだ、かろうじて民衆に理性が残っている。
せいぜい一人ぼっちで危険なダンジョンに潜ることを忌避する程度で済んでいる。
これがもし……アークライトが他人を魅了するために己の容姿を全力で利用したら……と考えると領主は体の震えを止めることが出来ない。
「そうであるな……まぁ、話してみたところ。どこか危うい感じはあるが、悪の道を歩くような少年ではないだろう。私としても一人で潜り続ける彼には少し心配していたのだ。未来ある若者が志半ばで死ぬのは忍びないし、一人でいるよりも多くの人といた方があの子の危うい感じと世間知らずぶりも解消されるだろう」
何故かはわからないが存在するアークライトの危うさと徹底的にズレた世間との価値観。
それらが改善されることを望むのがアークライトを見守る大人として当然の考えだろう。
「仲間が出来たことが彼に何をもたらすか……良い影響だと良いなぁ」
祈るようにつぶやかれる領主の言葉。
それは領主のみならず、この場にいる全員の総意だった。
この場にいる冒険者並びに領主も……恐怖故に自分がアークライトに盲目的な愛を抱いていると思っていないが、それでも無意識化で強い影響は受けていた。
貴族としての立場を領主に忘れさせるくらいには。
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