第6話

 何故か涙目でがくがくブルブルと体を震わせていた衛兵に少女を裏路地へと引きずり込んだ男たちを引き渡し、これまた何故か震えていた少女に別れを告げてから家の方へと帰ってくる。


「ただいま」

 

 僕は玄関を開け、リビングにいるであろうお姉ちゃんに向かって声を届かせる。


「おかえりなさい」

 

 家に帰った僕にお姉ちゃんが声を返してくれる。

 リビングで作りたての料理を机に並べているお姉ちゃん。

 腰まで伸びた黒い髪の僕とは対照的な真っ白な髪を持っていて、小さい僕とはこれまた対照的に背もおっぱいも大きい女性だ。

 そんなお姉ちゃんの瞳は固く閉じられている。

 お姉ちゃんは生まれながらに目を開けちゃいけない……そんな病気を持っているらしい。


「今日もおいしそうだね」


「でしょう?自信作なのよ……あなたから聞いていたころっけと言うものを完全再現してみせたわ!……ちゃんと出来ているかしら?」


「お姉ちゃんが出来たと言っているなら出来ているよ……手を洗ってくるね」

 

「えぇ」

 

 僕は洗面所の方に向かい、刀を壁に立てかけ、魔晶石を動力源に作られている洗面所で手を洗う。

 疫病の一つや二つくらい持っていそうな男たちに触れちゃったからね、今日は。

 ちなみにダンジョンをうろついている魔物らは疫病なんて持っていない……キレイキレイ状態だ。


「手を洗ってきたよ」

 

 手を洗った僕はリビングの方に戻る。

 動くときに邪魔になるため、防具をつけずに潜っている僕は刀を適当なところに置くだけで武装解除だ。

 他の冒険者のように鎧を脱ぐなんて面倒なことはしなくていい。


「じゃあ、食べましょうか」


「うん。そうだね」

 

 僕とお姉ちゃんは向き合って座り、手を合わせる。


「「いたただきます」」

 

 この世界にはない習慣……しかし、僕が前世の癖で無意識に行っていたのをお姉ちゃんが真似てから我が家では食事前にいたたきますを言うのが当たり前になっていた。

 

 目の前に並んでいる料理。

 僕の語る前世の料理を器用なお姉ちゃんが再現してくれた味噌汁とコロッケ、キャベツがお椀と皿にのせられている。

 ちゃんとソースも自家製産済みだ。

 まぁ、お米は未だに見つけることが出来ていないんだけど。


「どうかな?」

 

 コロッケを一口、口へと運んだ僕にお姉ちゃんが恐る恐る尋ねてくる。


「うん。しっかりとコロッケになっているよ。お姉ちゃん。相変わらず凄いね」


「それなら良かった」

 

 僕の言葉を聞いたお姉ちゃんが嬉しそうに破顔する。

 父親と母親は少し前のごたごたのせいでいないが、お姉ちゃんと二人。

 優しいお姉ちゃんと暮らしながら、趣味でもあるダンジョン探索を仕事として潜る……異世界で僕は楽しく生きていた。

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