第5話

 ランク1の新人冒険者である私、リーミャは道を歩いていたら突然男たちに体を掴まれ、裏路地へと引きずり込まれてしまった。

 

 助けて。

 

 そう叫びたいのだが、口を塞がれているため、喋ることが出来ずに私はただただ助けを求めて体を震わせる。


「何をしているのかな?」

 

 そんな中。

 一人の少年の声が響き……私は固まった。

 裏路地に、私の前に姿を現したのは絶世の美少女にしか見えない一人の少年……紫紺ノ狂人。


「返答次第じゃ……ちょっと黙っていられないかもよ」


 彼の発言を見るに……私を助けに来てくれた。

 そう見ることが出来る、彼は私を助けてくれようとしてくれるのもわかる。・

 しかし、すべての冒険者から恐れられる紫紺ノ狂人を前に私は体の震えを抑えることが出来なかった。


「おいおい……ガキが、その刀一本でどうするつもりですかぁー?」


「ひひひ……随分と可愛いじゃねぇか」

 

 私を捕まえた男たちは紫紺ノ狂人を知らないのか、舐めた口調で近づいていく。


「うーッ!うーッ!うーッ!」


 このままじゃ……!このままじゃ……!紫紺ノ狂人が……解放されてしまうッ!?

 口がふさがれ、何も言えない中……必死にもがき、口を開こうとする。


「ケケケ……テメェはあの少女がぶち犯されるところを見ているが良いさ」

 

 私の口をふさいでいる男は全然見当違いのことを口にし、私の神経を逆なでする。

 よく考えてみればこいつらは自身を捕まえてきた男たちなのだ……私が警告する必要などこれっぽちもない、怪物に蹂躙されてしまえば良いだろう。

 

「うーん……叩き潰しちゃっていいよね?」

 

 自分のもとに迫りくる男たち……それを見た紫紺ノ狂人は刀を振るう。

 それだけで男たちのHPの半分以上が消し飛ぶ。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


「HPがァ!!!HPがァ!誰か!?誰か!?」


「お助けを!!!」

 

 狂乱状態となっている男たち。

 次々と人が宙を舞い、何十人もいた男たちは蹂躙される。

 

「君たちにかける慈悲なんてないよ。普通に削り切っちゃうよ」

 

 紫紺ノ狂人はさも当たり前のようにHPを削り切り……男たちを激痛で泡を吹いて気絶させていく。

 なんて恐ろしい、この世界の誰であってもHPをすべて削るなんて真似はしないだろう。


「……?」

 

 そんな光景を前に首をかしげている紫紺ノ狂人は恐怖以外の何者でもなかった。


「……ぇ?」

 

 いつの間にか。

 私を掴んでいた男は泡を吹いて倒れ……紫紺ノ狂人が自身の隣に立っていた。


「大丈夫ですか?」


 紫紺ノ狂人が笑みを浮かべ、私の方へと手を伸ばしてくる。


「……は、はい」

 

 自身に差し伸べられる手……自身に向けられる万人の心を奪うであろう少年の笑顔。

 少年に見惚れ、恐怖し……固まってしまった私はただただ壊れた機械のようにぎこちなく頷き、少年の手を取った。

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