第2話

「ゴブリンは無視ー」

 

 一階層に生息している最弱の魔物と呼ばれるゴブリンを無視して僕は駆け抜け、

 時折僕の方に向かって石が投げられたりもするが、僕のHPがそれをすべて弾いてしまう。


 HP、自分の体力を現す数値であるが……たとえ、これがゼロになったとしても死ぬことはない。

 HPとはバリアのようなもので、相手から受けた攻撃から身を守り、痛みから自分を守ってくれるもの。

 相手の攻撃をすべて避けれるのであればたとえHPがゼロでも何の問題もない。


「10階層到達」

 

 現在の僕が縄張りとしている10階層に到達した僕は一旦足を止め、息を吸って吐き……息を整える。

 それから歩き始める。

 

「グルゥ……」


 1分も経たない間に迷路となっているダンジョンの角から狼の魔物、ファングウルフが姿を現す。


「一匹だけなら楽勝」

 

 僕は腰に下げている刀の柄へと手をのせる。

 

「ガァッ!!!」

 

 床を駆け抜け、僕に噛みつかんと跳躍するファングウルフ。

 

 一太刀。

 

 するりと抜いて振るわれる僕の一刀はいともたやすくファングウルフの首を落とす。

 首を落とされたファングウルフは光の粒となって魔晶石を消えていく。

 僕は床に落ちている拳サイズの魔晶石を拾って背中に背負っているリュックへと入れ、歩き出す。

 

「30体くらい居ないかなぁ……それくらい居ないと効率が悪いんだよねぇ」

 

 僕は自身の狩場であるダンジョン10階層を歩き出した。

 

 ■■■■■

 

 少し開けたダンジョンの一角。


「ちょっと多すぎじゃない?」

 

 30体くらいのファングウルフに囲まれることを願っていた僕は100体近くのファングウルフに囲まれていた。


「残りのHPポーションはこれだけ……まぁ、いけるよね」

 

 僕は刀を抜き、構える。

 どこから飛んできてもいい様に。


「グルァ……ッ!」


「ガァ……ッ!」


 次々と突っ込んでくるファングウルフ……その首を一つ一つ確実に僕は落としていく。

 それでもあまりにも数が多く、被弾は避けられず、どんどんHPが削られていく。

 僕はHPポーションをがぶ飲みし、残った空き瓶をファングウルフの方へと投げる。


「まだまだァ……ッ!」

 

 最高速による抜刀……一撃でHPを刈り取る斬撃。

 圧倒的な火力でもって僕はファングウルフの数を確実に減らしていく。


「ガァ……ッ!」

 

 僕の視界から姿を隠していた光の粒を切り裂き……回避不可能なタイミングで噛みついてくるファングウルフ。


「……っ」

 

 僕の腕に噛みつき、ごっそりとHPを削ってきたファングウルフの腹に膝蹴りを一発ぶち込んで退け、拳を叩きつけて潰す。


「せいッ!!!」

 

 さっきの一噛みで崩れた僕を狙ってくるファングウルフを一刀の元に返り討ちにし、背を向けて逃げ出す。


「ガァ……ッ!」

 

 ファングウルフは僕のあとを追いかけ、口から涎を垂らす。

 素早さはあちらが上……逃げられる道理はなし。


「ふんッ!!!」

 

 急速反転した僕はスキルを発動させ、刀を振り下ろす。

 自身のHPの一割を削る代わりに強力な前方向への一撃をぶつける技。

 一直線となって僕を追いかけてきていたファングウルフはそれだけでゴミのように吹き飛び、光へと変えられる。

 残りは……あと、10くらいだろうか?HPもまだ一割以上ある。


「ラァ……ッ!!!」

 

 残ったファングウルフに向かって僕はスキルを使って抜刀。

 これまた自身のHPを一割削る代わりに膨大な火力を出してくれるスキル……移動を伴う五連の抜刀術が進行上にいたファングウルフも、斬撃を受けたファングウルフも確実に吹き飛ばして光へと変える。


「ふー……終わり」

 

 僕はほっと一息つき、最後のHP回復ポーションを口に含んでHPを回復させる。 

 残りHP半分で、ポーションの残りもなし……引き際だろう。


「帰るか」

 

 僕はパンパンに詰まったリュックを背に、地上を目指して歩き出した。

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