17・神の可能性を知るもの
WA8712、3月7日
管理者のひとり、ヒト族のメリーメノア。その彼女について、かつて彼女と義理の兄妹であったというキナトから、レディミルが聞けた情報の内、さらに詳しく調べる足がかりになりそうと思えた唯一の情報。彼らが王族として生きていたという、ナフナドカという亡国。
(ひどいもんだ)
ほとんど雪に埋もれているが、隠されているわけでもないので、機械を介せば簡単にわかる。かつては都市を構成していたのだろう瓦礫の山。
一般的に知られている記録では、王族の何らかの実験により、その崩壊という被害がもたらされたとなっていたが、キナトは、それが完全に嘘の記録であることも、レディミルに語っていた。
いったいどういう存在なのか正確にはわからない、ただ、シャルクナという魔術師が、(そいつ自身の話を信じるなら)ナフナドカ王族に受け継がれてきたロストテクノロジーを狙っていた。そして、それが兵器として使われた場合のサンプルデータのために、一国をほろぼしてしまったのだと。
(あいつ、本当に目的は復讐じゃないのか)
そうでないと言ってはいたが、しかし、彼が奪われたものの大きさを考えるなら、その憎しみも半端ではなかったはず。
ナフナドカ城にやってきたのはいいが、実は、あまり何かを期待しているわけではなかった。少なくともその宮殿で、彼女自身に遭遇したことは、レディミルとしてもかなり予想外だった。
「トカゲくんが、こんなところに何か用?」
いつからか、宮殿内の広間で、彼がやってくる前に気づいていたらしい少女。かなりキナトから聞かされていた通りの容姿。
「別に考古学者てわけでもないんでしょ? ねえ、もしかしてタカのお嬢様連れた、クセの強い銀髪少年の関係だったりする?」
「じゃあ、やっぱりあんたが、メリーメノア」
「そうね。わたしがメリーメノアよ」
あまり警戒している感じはなかった。ただ少し、安心感のようなものが感じれた。
(こいつは)
なぜかわからないが、多分彼女は彼の行方をつかめてはいない、にも関わらず、彼の無事をほとんど確信しているような印象があった。
「あいつは、なんか、あんたに嫌われてるかもって不安がってたみたいだが、実はそうでもなかったりするのか?」
「彼、悲観主義なのよ、昔からそう、正直そういうところ、わたしは嫌い。だけど、総合的にはそんなに嫌いじゃないの、本当はね。本当は」
"まあ、家族だしね"と聞かせるつもりはなかったろう小声での付け足し、実際聞こえはしなかったが、口の動きから、レディミルには読み取れた。
しかし、とにかく彼女は、何を言うべきかというよりも、考えを表現するための言葉選びに迷っているようだった。
「で、本当のところ、あなたは何者? 彼のことを調べるためにここに来たの?」
「メリーメノア、あんたのことも含めてな。調べようとしてた。あいつは、あんたと最後に会ったのもここ、と言っていたしな」
「あなた、レイジェの?」
その推測は別に予想外ではない。リザードマンという種はレザフィカではかなり珍しい。この
「おれは、クリキズウェに所属している、兵士のレディミルだ。キナト、あれは
「ビジネス的にはきっと正解の選択ね。それなら、あなたにちょっと依頼してもいい? 報酬は弾むわ」
レディミルにとっては、理想にかなり近い流れだ。
「ああ、どんな頼みだ?」
「その前に」
レディミルには、まったく気づけなかった。キナトたちの物理空間の中でのごまかしとは違う。魔法による物理情報の透明化。
しかし方法などどうでもいい。彼は見事に跡をつけられてしまっていた訳である。同じ組織の同僚である魔女のひとりに。
「い、いったいどうやって」
実際にはすでにその場にいたのだが、まるで突然出現したようあったエリシェノーア。
「この世界で、あまり管理者をなめないことね。
「エリシェノーア、おまえ」
どうも、メリーメノアが何らかの(管理者のための)力を使い、エリシェノーアの存在を隠すための魔法を無効化したらしいことは、一応レディミルにもわかる。
「多分、自信は失わなくていいんじゃない、もし外だと気づけなかったと思うわ。やっぱり、クロバナ出身の魔女は厄介」
「あれに所属していたことがあるのは、わたしの師匠だけどね。そしてわたしは師匠と同意見、あんなイカれた連中と一緒にはされたくないわ」
(クロバナか、じゃあ噂も)
レディミルとしては、エリシェノーアと、秘密結社クロバナとの関連自体、今知ったことなのだが、管理者であるメリーメノアが、そのことを知っていたのは、おそらくクリキズウェの方でなく、そのクロバナ側の情報としてなのだろう。管理者にとっても、かなり警戒すべき敵。
クロバナは、非常に強力な力を持つ魔女たちが、全てを牛耳っているという秘密結社。管理者のシステムを狙っているために、管理者たちと敵対関係にある組織の中でも、最も強力なひとつと噂されているが、つまり、その通りだったということだろう。
「まあとにかく、話は聞かせてもらったわ、レディミル」
「そうか、それで?」
「安心しなさいよ。わたしもどっちかって言うと、あなたよりと思うわ。外から来た特殊魔法使いに、管理者のお友達なんて、面白そうじゃない。儲け話の匂いがプンプンするわ」
「それなら結局あなたも、そのトカゲくんと一緒で、わたしのお役に立ってくれるって事でいいの?」
メリーメノアは、後から現れたばかりの魔女のことも、意外なほどあっさり信じてくれたようだが、実際のところは単に、最初からどちらも半分信じていないということだろう。
「ええ、ちゃんと相応の報酬をいただけるならね」
「それなら、ふたりで、ちょうどいいわ」
なんとなくだが、つけている仮面の厚さは、義妹である彼女が上という印象をレディミルは抱いていたが、その時に少しだけ見せた楽しげな笑みは、表に出てきた素の彼女かもと思えた。
「トカゲくん、あなたはスパイ。魔女さんは二重スパイね」
ーー
「ここは国境線? 機械で?」
「おまえ、知らなかったのか」
「知らなかった。ぼく自身は、公共の乗り物を使わないで、国を超えた移動をしたのも今回がはじめてだし」
それをシェイルークは知っていたが、キナトは知らなかった。
ユム・ミリ雪原地帯と、キッカオン国の領土との境目。明らかに自然にできたものではないだろう、灰色の金属の地面ばかりに、それらもおそらく機械だろう植物群。ようするに機械の平原。
「だが、ここはもうキッカオンの領土だ」とシェイルーク
「これも、おそらく空質というのを使ってますわね」
「多分、少しだけな。興味深いけど、今はじっくり調べてる場合じゃないよな」
その機械平原は、雪原地帯の気候に対する障壁の役割もあるのだろう。透明な壁でもあるかのように、雪は、平原の方に入ってきそうで入ってこない。
「それじゃあ、もうひとまずは大丈夫なようだし、おれは」
「待って、シェイルーク」
精霊様でなく、その名を出して、もう去ろうとしたのだろう、彼を一旦引き止めたキナト。
「きみの、その呪い」
「おまえの国を滅ぼしたシャルクナとかいう魔術師とは、多分関係ない話と思うが」
「アルカキサルの名称や、機械生物の無限可能性のことを知ってたろ。そういう話を知ってる特別なバーチャル生物が知り合いだって」
そこで、彼が自分たちの事情をさらに話そうとしていることを察したお嬢様タカが、意味深に相棒と精霊の間に姿を見せて、微妙に反対の意思を示す。しかしキナトは構わずに続けた。
「正直に言うと、ぼくらがきみの呪いを解くための力になれる可能性はかなり低いと思う。でも、それでもいいなら、きみを改造したって奴らに関しても教えてほしいんだ」
「なぜだ? お前たちがここに来た目的と関係があるのか?」
「あると思う。ぼくらは、正確にはぼくらをこの世界によこしたフィオミィて機械生物がね、その機械の可能性が本当に生み出してしまったかもしれない、機械の神の存在を見つけたらしんだ。だけど、わからないことがまだ多いから、それを調べるのに、ぼくらは、この世界のシステムを利用するために来たんだ」
なかなか、サイボーグ精霊という、世界全体でも珍しいような存在であるシェイルークからしても、信じられないような話ではある。しかしだからこそ、逆に嘘ぽさもすくないと思った。
それに……
「昔な。もう何千年、いや何万年も前かもしれない。おれは世界ルゼドで、長く対立してた2つの国の片方で、兵士として作られたんだ……」
シェイルークは、その遠い過去の話を、もう二度と戻れない時を、彼がたったひとりで呪いを解くための旅に出ることになるまでの悲しい物語を、簡潔にではあるが丁寧に話してくれた。
それもまた恐ろしい機械のための話。しかし、恐ろしい自然生物と、それに立ち向かった優しい機械生物と、そして互いに大切な友達同士になれた精霊とゾウの話。
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