資料04

[1・大樹世界概要]


……ユグドラシルの根から上は"大樹世界たいじゅせかい"と呼ばれる。これは小世界と定義するなら、まず間違いなく、ネイズグにおいて最も巨大な小世界であろう……ここは天然の大自然の世界というわけではない。驚くべきことに、この広大な世界のほとんど全て、今や(このとにかく広大な領域に生きようと決めた、あるいは生きることになった)様々な生物群が変化させた世界と、そのための副作用ばかりである。

 ネイズグで(それだけですでに)最も巨大な、精霊たちの(物質生物もかなりいる。しかし後述するが謎が多い)都市国家(らしい)"巨人の地"。信心深い機械たちの移動要塞都市"ウィーズ"と"ニーケア"。より謎とされている、離れた距離で連動しているらしい2つの機械都市"ロード"1と2。第七のスフィア世界"レザフィカ"。確かなことはそれら全ては、最初からユグドラシルにあったわけではないこと……ユグドラシルすべてを繋げていると言えるたった1つの要素、メッセンジャー生物"ラタトスク"に関してすら、それは本来ユグドラシルに生きる存在でなかったという説が普通にある……もう1つ、この大樹世界に生きる者(知的生物)たちが共有しているのは、どこにでもいるかのような、謎の怪物たち……


《誰も知らないユグドラシル》

author.パリセダー・ウォーカー


──


[1・もうキャラクターじゃない]


 バーチャル生物は普通、召喚された後は、このネイズグという現実世界で生きていくしかない。

 バーチャル生物に特有なのかはわからないが、この世界で生きていくということ自体ひどく不安に思い、塞ぎ込んでしまうという症状は(言うまでもないかもしれないが、召喚されて間もない、あるいは、なかなかこの世界に馴染めるきっかけがない者に)よく見られる。"ワールドシック症候群"なんて名前まで……

……

 しかし、この世界に召喚されるまでは、いや召喚されてしまったという事実を理解するまでは、たいていどんなバーチャル生物も、おそらく自分が自然生物(魂を持つとか、機械でないとか、そういう意味ではなく、世界の中で生物として定義できる存在)のつもりなのである。仮に、その知性を持って、自分がコンピューターシミュレーション上に作られたキャラクターかもしれないと推測できるとしても(実際そのような例は数えきれないほどあるが)、たいていの場合は驚くべきほど(それは確実に生物的だと言っていいと思うが)楽観的だ。

 ごく簡単に言うと、たいていシュミレーション上にそういう生物が造れる場合(つまり召喚されるまでもなく、実は自分たちがシュミレーション世界の存在なのだと推測した場合)、自分たちをシュミレートした生物も全て機械的なのだろうと考えるのである。ようするに全世界が、情報が演出するバーチャルが本質だと考えてしまう。

 多くのバーチャル生物が、神だのなんだのといって上位次元生物(?)の概念を空想するが、そういうものですらない。魂を持っている自然生物がいて、自分たちがそうではなく、実は生物ですらなく、完全に機械なのだという考え方が、この世界にあまりにも普遍的であることを、召喚された者たちが知った時。投影された映像でない真の生物がちゃんと存在して、自分はそちら側でないと知った時、その恐怖は大きい。そういう事実を理解すると同時に、 自分がもうそういう存在(上位次元の存在というよりも、偽物の自身とは違う、本物の生物)のいない、居心地のよかった(?)キャラクターに戻れることがないことも理解してしまうのだから。


《機械世界の自然生物(エッセイ2)》

author.ヨッド・ヘンルト・スプゲジャ


──


[3・奴隷機械生物をどう考えるべきか]


 機械生物の奴隷問題を考える場合、どの立場の者からでも、「いったい、機械と機械生物の違いは何か。その境界がどこにあるか」という疑問は、重要な焦点であろう。

 ヨッド・ヘンルト・スプゲジャすら(これは彼自身がそのエッセイに書いているから確かなことだが)機械生物と分けることができる存在としての機械というものは、生物ではなく道具にすぎないことを認めている。だから誰かが機械を使うこと(酷使する事と言ってもいいが)に対して、少なくとも道徳的問題が生じることはないはず……


《機械の情報を運ぶもの》

author. リリンクス・キノウント・チャード


──


[キメラ]

……

〈ドラゴンメイド〉

 ヒトとドラゴンのキメラ。

 元々は制御可能なドラゴンとして創造されたらしいが、ヒトの性質は、意外なほどにドラゴンとしての有用性を弱めてしまったとも言われる。

 ただしこの種を人の亜種として考えた場合は、物理的にかなり強力な存在ではある。

 

[グレムリン]


 ヒト系の機械生物。亜種ともして分類する向きもある。

 ほぼ確実に"機械フェアリー"と思われるが、あまり知られていないヒトの亜種にモデルがいるという説もある。

 ただ、機械フェアリーの典型的特徴はだいたい持っているし、まずこの生物にはメスしか存在しないことを考えると、自然生物のヒトと考えるのは、普通は無理があるだろう……

 しかし機械フェアリーで、ヒトで、女性(それも成長システムの問題で少女)ばかりであるが、性的機能に乏しいという点が、奇妙と指摘されることもかつては多かった……


[ドラゴン]


 その創造の難易度と、知的生物としての驚くべきほどの性能のため、おそらくネイズグにおいて、亜種も含めると最も数が多いとされるヒトと同じくらいか、もしかしたらそれ以上に有名かもしれない存在。

……トカゲやヘビと似た姿ではあっても、この生物はあくまでもドラゴンであり、フェアリー種の中でも、特に独特な生体構造を有している……


[ラタトスク]


 大樹世界(ユグドラシル)の各種生態系(孤立生物圏)を行き来し、 長きにわたり、この(大樹)世界独自のネットワークにおける情報媒介(メッセンジャー)の役割を担ってきた謎の生物。

 リスに似ているが、大きさは中くらいのイヌ程度……機械生物ではないとされる。

 明らかに知的生物であるが……


《ネイズグ全生物事典》

author. ?


──


[予備知識・エンデナ大陸『ナフナドカ王国』]


 ナフナドカ。これは古くからの政治体制が残っている国で、ようするにナフナドカ姓の王家が、最高権力を常に握っている……

……

 今ではナフナドカは、エンデナ中東部地域において初期に一般的であった絶対王政が、現在にまで最も根強く残っている国家とされることが多い。しかしこの国は絶対王政国と呼ばれながらも、最初からその政治体制がかなり異質なものであったということはもっと考慮されるべきと思う。確かにこの国には古い王政が残っていると言えるが、それはあくまで、はなから独特なこの国の王政である。

 実際にはこの国は、絶対王政というより、絶対王族政である。生まれにも性別にも能力にも関係なく、15歳以上の王族内の者は、等しい権力を持っている。この国では権力の強さに関して王も王妃も王子も姫も、完全に同等なのである。そして、王族内の者同士の意見が対立した時に、どちらの意見が最終的に優先されるかは、国民の支持率が大きく関係している(特に武力戦になった場合に、兵として召集されるどの国民も、等しい権力者である王族の好きな者に味方できるから)。そのためにこの国は絶対王政と呼ばれながらも実質的な民主主義とさえ言われることもある。


《レザフィカ球体旅行記》

author.クルックス・クルークス


──


[5・知性化すること]


……"知性化"を行う者は知的生物しかいない。そして知性化を行う知的生物の理屈はいつも同じだった。「永久の暗闇から救いの手を差し伸べてやっている」という態度だ。それだけはいつも共通してきた……

 ある者たちは、知性化が可能であるということ自体が、機械生物の劣っている部分、あるいは恐ろしい部分だと考える……

 これの是非なんて考えたくないというのはわたしの本音だ。だがわたしたちは、それから逃げるわけにはいかない……

……

 アルカキサルで確かに行われていたことは、機械生物の機械生物による知性化の連鎖だったのだと推測できる。機械生物は我々に比べると迷信深いと言われている。実際には存在もしないと思われる神なる存在を信じたがる。だが本当にそうなのだろうか?

 彼らは本当は知っているだけなのかもしれない。この世界が無限であるなら複雑性の限界はない。複雑性がその知を、力を決める機械生物の限界は、それならどこにあるのか……


《アルカキサルの生物群》

author.ヨッド・ヘンルト・スプゲジャ

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