資料03

[第一部・基礎知識]

[1・分類学ことはじめ]


 一般的な生物を分類するための基準はいくつかある……おそらく最も古くからあるものが"形態分類"……

 分類において、どのような分類体系においても最も基本的なものとして、"ベース"、あるいはそれより一般的ではないが"エッセンス"という階層定義がある。ベース(基盤)は"ナチュラル(自然生物)"と"メカニカル(機械生物)"を分ける。ようするに魂を有するのがナチュラル、何らかの物質構造だけで生物になっているのがメカニカル。メカニカルはさらに、ネイズグ出身と、元々バーチャル世界の存在であったのとで"リアル生物"と"キャラクター生物"に分けられることがある。


[第二部・自然生物]

……

[3・魂]

……少なくともシステム的に、自然生物の本質、自然生物は何かと言えば、それは"魂"である。

……わたしは、慎重な生物学者なのだと思う。 多くの同業者たちが確信を持っている、自然生物が機械生物より絶対的に優れた存在なのだという説が、本当に正しいものなのか、ずっとわからないでいる。そんなわたしでも、機械生物と比べた場合の自然生物は、特別な生物であることは確かだと思う(だが見方は変えられないのだろうか。逆に機械生物も自然生物に対して特別なのではなかろうか)。

 自然生物が特別だとしたら、何が特別なのかは明らかだ。魂である。そして機械生物は、魂がないから、つまり物質的な説明のみで、その存在を理解することが可能だから……だがこうも考えられるはず、機械生物が(わたしは明らかにそうだと思うのだが)生物なら、それは魂が無いにも関わらず生物として存在できている生物……

 自然生物は、魂こそが生物部分で、物理的な生命体の物理構造も含めて、実質的に全ての物質(エネルギー)は道具とも言える……

……魂そのものに強弱があることは確かだが、それ自体の動力のエネルギー的なものがあるのかは諸説ある。強弱に関しては、単に物質機構とか環境とのリンク構造や、相性問題という説もある。

……

 自然生物は、機械生物の生体を機能させるための生体内部ネットワークを持たない、だから当然そのようなネットワークの情報背景、いわゆる"コード"のようなものを持たない。どんなハイテクコンピューターによる解析でも、そういうものを観測できたことはない。

……

 自然生物にとっての物理構造は、魂を入れた器と言えるが……物理構造を持たない自然生物は"スピリット(精霊)"という……物理構造を失ったが、霊として存在する場合の、言わば後天的精霊は"ゴースト(幽霊)"と呼ばれる……しかし普通は調整がないと、幽霊の魂は勢いよく劣化していく(その流れから、「物質世界に溶ける」とも表現される)……

 魂は単独では、物質世界の様々な影響に対して非常に脆い。精霊にしろ幽霊にしろ、たいてい実用的と考えられるような時間を安定し続けるためには、結局は世界(ネイズグ)の一部、つまり自然環境を利用する必要がある。幽霊は、意図的にせよ、偶然にせよ、物理構造のみを失った魂が適当な自然環境とリンクした結果である。

 精霊の場合は(いくらか秘密の奥義があるともされるが)基本的に、創造のための設計の中に、すでに魂とリンクする自然環境が想定されている。そしてそのような環境を"御霊代"と言う(よくバーチャル生物が好んで使う御神体という言葉は、特に(彼らにとって)特別な精霊の御霊代とされる)。

 幽霊にとっての御霊代や、(主に魔術師が、その特定の精霊の力を借りるため、呼び出すための方法の過程として新たに造られる)ある精霊の御霊代を再現した環境は、"依り代"と呼ばれている。

 リンクしている御霊代の破壊は、ある意味で物質生物の物質構造の破壊以上に致命的な精霊への攻撃となる。物質生物の構造は、御霊代になるような自然環境に比べ、(それが単純であろうと複雑であろうと)魂自体がその記憶装置にもなっているために、修復が容易とされる。もちろん存在安定のための基盤を失った魂の運命は、物質生物のものであろうと、精霊であろうと変わらない……

 御霊代にも基盤となる元素があるから、精霊も元素属性を有する。幽霊の依り代の場合、後天的にリンク可能な自然環境と元の物質構造との関連から、幽霊になる過程で元素属性が変化することはない……

……

 魂が駆動力となるために、その強さによって、普通なら物理的に絶対不可能な自然生物もある。もちろんそのような生物を、再現した機械生物もありえない。魂が非物質的と言われるのはそのため……

……

 自然生物の物理構造を維持しているのは魂であるが、その魂も含めた生物の全構造を維持するには、自身の構造の基盤となる元素(属性元素)を補給する(物理的には食事をとる)必要がある。もちろん強い魂であるならば構造の維持を長く続けることができるので、食べるのも長い間、我慢することができる。当然、様々な条件により魂がどのくらい弱っているかにもよる。食べ物を食べるということは自然生物にとっては魂構造の弱ったところの回復とも言える。ただしもちろん、魂そのものの劣化を修復するには、もっと特別な処置が必要……

 様々な味付けなどを行う食べ物の種類は、バーチャル世界由来と考えられている。複合の食べ物についている他の余計な元素などは、物理構造の余分なところに回されるか、あるいは排泄物として出される。この点は機械生物とほぼ同じ……

……

……当然のことながら精霊は物質的な欲を感覚的に持たない。だから自然生物のことを比較的愚かだと考えている精霊も多い……


《生物理論》

author. ヨッド・ヘンルト・スプゲジャ


──


[2・いつから生物なのか]


 バーチャル世界出身か、ネイズグ世界出身かという違いで、機械生物の分類を定義することが本質的に不可能であることはかなり間違いない。だが我々は、普通バーチャル世界から召喚されたことのないバーチャル機械生物を、ネイズグの機械生物とは別のものとして考える。ある意味でそれは当然であろう。あるバーチャル世界のみの機械生物というのは、その世界の背景にあるプログラムに完全に縛られていると言えるから。

 むしろそのことは、不可能なことよりも、可能であることを考えた方がわかりやすいかもしれない。ネイズグに召喚されてしまったどんな機械生物であっても、召喚されたその瞬間から、ネイズグの他の普通の生物たちと同じく、(好むと好まざるとにかかわらず)ネイズグの時間を生きるしかない。その行動にはプログラムというものが関わっていることは確かであるが、プログラムをいじくって、例えば意識が消滅した場合、それは死と考えられる……しかしバーチャル世界のみの生物は違う。そのバーチャル世界全体のシステムに組み込まれている限り、少なくともどんな生物学者も納得する意味での死と言いたいなら、その世界全体を消す必要がある。


《生物たちの楽しい架空世界(エッセイ7)》

author.ヨッド・ヘンルト・スプゲジャ


──


[1・四元素の者たち]


 わたしには理由がわからないが、バーチャル世界において、機械生物が自然発生した例はないと思う……

 自然生物は、様々な部族ごとに創造の起源を有している。この、自然生物にとっての常識は、たいてい最初バーチャル世界出身の機械生物を驚かせる……

 簡単には、モノ元素系の無生物物体(原理的にテク元素でも可能なはずだが、難しすぎて実質不可能らしい。もし可能なら元素属性がどうなるかは興味深いだろう)を必要な形に変質させ、魂構造、つまり自然生物を造るが、動植物のすべての部族がそうして生まれた。そして全ての子孫種は、最初に生物となって発生した時からあり、祖先を共有する……

……

 機械生物と比べればマシなものの、自然生物の分類も多い……重要な違いとして、自然生物の方の分類は客観性が強い……魂の構造が、生物ごとの境界をはっきりさせているから……

 一般によく知られるものとして……自然生物の元素属性ごとの分類が"元素族(エレメント)"、魂とリンクする物理構造ごとの分類を"種族(カテゴリー)"、原型の創造者(製作者)による分類が"一族(クラン)"、共通の始祖ごとの分類が"氏族(リネージ)"である……属性とか生まれは関係なく、共通の文化的背景を共有する者たちは"民族(ネイション)"と呼ばれる。もちろんどんな条件にも関係なく、特別な契りを結んだ者たちを、我々は"家族(ファミリー)"と呼ぶ。それらも分類と言えるなら、機械生物だって含めれるものだろう……

……

 普通には、元素族は〈火のもの〉、〈水のもの〉、〈風のもの〉、〈地のもの〉と、4族だけである。

 種族は、魂とリンク可能な物質構造の数なので、数えきれないほどある。ただし、物質生物に限っては、(これの区別も曖昧だが)高水準の知的生物は難しいらしく、派生種族(亜種族)を含めても(せいぜい100種くらいと思う)それほど多いとは言えないだろう。そうした知的種族(の存在が可能な種族)として知られているのは、ヒトとその派生種族、シェイプシフターとその派生種族。ドラゴン、クジラ、ヴァンパイア、そしてキメラ。

 純正種のヒトとクジラ以外はすべてフェアリー、すなわち機械生物の存在しない(機械テクノロジーで全性質の完全再現が成功したことのない)種族である……


《創造された生物、創造されなかった生物(エッセイ4)》

author. ヨッド・ヘンルト・スプゲジャ


──


[フェアリーとは何か]


  "フェアリー族"という名称が定義する範囲は、普通かなり広い。簡単には、再現宇宙内で完璧に再現することが不可能とされている自然生物全てをそう呼ぶ。「テク元素系において完全な再現が不可能な性質や能力を有する自然生物」と言ってもよい。


《フェアリー学》

author. ヤン・リリー


──


[キメラ]

……

〈ハーピィ〉

 通常は、腕の代わりに翼を持ったヒトの女の下半身に、鳥の下半身を持つヒトキメラ……

 起源はともかく、この種の最初の原型の容姿が非常に醜かったという噂は、かなり古くからあったようだ。しかし最初の創造者が不明なヒトキメラにおいて、そういった話は珍しい……

 ローデアの一部地域では、"風を司るもの"として崇拝の対象となっている……


[シェイプシフター]


 性質として変身能力を持っている種族。ただし純正種に関しては(そんな生物がいるのかどうかも含めて)謎。一応は交配可能性の統計解析から、いくつか有力とされる説もある……

 普通はフェアリーに属する。

 種族ごとに、変身のきっかけは様々。完全に意識的に思い通りの種は少ない……

 ところでシェイプシフターというのは、かなり一般的であって便利でもある(だから本書でもこの分類を採用している)が、実際は様々な種族群を含んでいるかなり恣意的な分類ともされる。ただし、この分類の基準としてある、物理的姿のある程度以上の自由性、そのための構造は、創造技術的には確かに同じような系統だとする魔術師や魔術研究家は少なくない。

……

〈ウォーターホース〉

 妖精馬と呼ばれることもあるが、ネイズグの一般的な意味でのフェアリーであるからでなく、これは地球世界で一般的な伝説が関係している……

 この種は全て水属性のウマ族の亜種とされるが、ほぼ例外なくヒトに変身する能力を有し、ヒトの時はその神経系(すなわち高い知的能力)まで含め、驚くべきほどヒトに近い……

……いずれにしても陸に上がることができるとされている。

 獰猛とされるウォーターカウに比べると、基本的にはおとなしい品種が多いようである。

……

〈アッハイーシュカ〉

 主に冬の時期に水から出てきて、砂浜や野原を疾走するとされる……

 陸にあがる時期に水辺から遠ざけて、飼いならすと、名馬になるという伝説もある。

……

〈ケルピー〉

 おそらくウォーターホースの品種の中でも最も有名。生きる場として湖や海を好むウォーターホースが多いが、この種は川によく出没する。

 人間の姿が、たいていの場合、毛むくじゃらの小汚い男だが、このために美意識の違いが推測される向きもある。ただし、少なくとも人間状態である時の彼らは、自分たちの容姿が、一般的にあまり好ましいものでないと自覚していることが珍しくない。

 全ての水属性の生物の中でも かなり珍しいが風物質に対する感覚能力が非常に優れている。

……

〈エンカンタド〉

 エンカンテとも呼ばれる。水中の楽園に住むとされるシェイプシフター。

 本来の姿は、体色が桃色のイルカとされる。ヒトに近い生物であり、(おそらくこの生物にオスしかいないのだが)ヒトの娘にだらしないようである……

 いくつかの性質から、古くは、ヒトとイルカのキメラという説もあった。

 フィーアルのいくつかの地域で伝統的に語られてきた話によるで、エンカンタドは、水辺で暮らす漁師の友ともされ、嵐の時などに船を守ってくれたりもする。溺れている者を助けることもある。

 しかし一部地域では大切な誰かや、子供を、水中の国にさらっていくらしいと、矛盾している。


[スライム]

 液体(普通は水)塊に、魂構造を維持するシステムを備えさせたフェアリー。

……単純な生物構造に、非常に複雑な変化パターンという、 他にほぼ例の知られていない矛盾性を示す。

 いかなる意味での部分的な神経系も持てないとされているから、知的生物ではありえない存在ではあるが、色や形の変化は環境と同じくらい、感情に影響しているという説もある。


《ネイズグ全生物事典》

author. ?


──


[エミレニスによる後書き]


……キナトは、ナフナドカ王家のウィルミク王子の義弟で、従者で……

 ある朝のこと。大事な会合を無断欠席したらしいキナトに対して、ウィルミクはかんかんに怒ってて(当たり前)、それで、ちょうど客として招待されてたわたしも(なぜかって言うべきだよね? あの王家のヒトたち、いろいろ自由すぎだよね)探すの手伝うことになって、それで見事にわたしが最初に、電気もつけてない地下室で、持ち込んだらしいランプの明かりに照らされながらうつむいていた彼を見つけたのですよ。

 薄明かりの中で、わかりにくくはあったけど、その顔がかなり疲れてるように見えたから、わたしはまず、「何か悲しいことでもあったのか」と心配になり、同じくらい「ウィルミクに怒られることを恐れてるのかな」とも考えました。で、見事にどちらも違ってました。

 彼は自分の主人の怒りなどまったく知らず(つまり会合のことなど完全に忘れていて)、確かに疲れてはいたのでしょうけど、しかし満面の笑みを浮かべて、1冊の本を手に、口早に語りだしました。

「これ、ヨッド・ヘンルト・スプゲジャの最後の本なんだ。『気高き生物』。これは、ぼく的には最高傑作だったよ。この本はぼくにとってまるで最高の座右の書で、ようやく、ついに見つけたんだって感じだ」

 本当に、それはもう生きてて楽しすぎる、というような雰囲気で、正直、自分が彼を探しにきた理由を言うの、ちょっとかわいそうに思うくらいでした。


《「気高き生物」について》

author. キナト・ゼッカノエ & エミレニス・ナウタ・ルキル

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