勇者エクスの婚約者は○○を許せない

 シロたちが家を買って騒いでいた頃。


 フランク王国王城で行われている会議が揉めに揉めていた。


「これからは我々勇者パーティを輩出した国が主導でやっていくべきだ!」


「私たちの国民が最前線で命を張って魔王を討ったのだから異論はないな!?」


「いいや、それは認められない! 勇者パーティの御仁が国に残って要職を務めるというのならそれもいいだろう! だが、あなたたちは彼らに見放されたではないかっ!」


「そうですぞ! 英雄に見限られた国に主導権は渡せまい!」


 会議は大きく二つの派閥に分かれている。勇者パーティを輩出した国と、そうでない国である。


 ルミナリアたちが想定通り国の顔になるのならば、そうでない国々は仕方なく従うつもりだった。


 だが、そうでないならば従う理由もなくなる。


 彼らは、属国になるきっかけを作るような事態を避けるべく、必死に抵抗をしているのだ。


 会議は延々と続き、日を跨いでも主張は平行線を辿った。


 自国を留守にするのもそろそろ限界が近づいており、どうにかして話をまとめる必要があった。


 そして、この中で唯一他と違う境遇を持つ国があった。


 出身である勇者が死んだ、フランク王国。


「……唯一の勇者輩出国であり、殉職した勇者エクスの祖国、フランク王国がひとまず主権を握らせてもらう」


 疲労も溜まり、時間も押している状況を見計らっての発言。


 美味しいところを全部持っていくような言葉に、平常時ならば反論も出たはずだった。


「一旦の形としてなら……」


「まぁ、とりあえずは……」


 しかし、何時間も白熱した舌戦を繰り広げていたのだ。精神的にも肉体的にも限界が近かった参加者は、心のどこかで早く終わりたいと願っていた。


「よし、ならば次回の会議まではフランク王国がひとまずまとめ役を担わせてもらう」


 彼の言葉に反対する者は出ずに、会議は解散となったのだ。


 しかし、この時代の変革期における将来の世界情勢を決定づける会議を雑な形で終わらせてしまったことで、大きな損失を被る国も生まれることとなる。


 そんなこととなるとは誰も思わなかった。


「……ふぅ、なんとか手に入れたぞ」


 一方で結果的に全てを勝ち取った結果となったフランク王国。


 果たして次回の会議はいつ開かれるのだろうか。


「お父様! どうでした?」


 自室に戻ると、娘であり皇女のメイが不安げな表情を浮かべて待っていた。


「一旦、主権を取ることができた」


「ほ、本当ですか!! 良かったですね!」


 満面の笑みを浮かべる娘に国王ピーンは安心する。


「うむ……。婚約者である勇者エクスが亡くなり落ち込んでいたようじゃが、大丈夫か?」


「……はい、まだ現実を受け入れられていないような感覚もありますけど、今は落ち着いています」


 フランク王国の第二皇女であるメイは勇者エクスと婚約していた。


 二人は愛し合っており、魔王討伐を無事に終えたなら盛大な式を挙げようと誓い合っていた仲だった。とメイは勇者パーティでの行いを知らずに信じている。


「そうか……。お前ももう一つの勇者パーティのメンバーとして活動していたんだ、今はゆっくり休むと良い」


「はい……」


 そしてメイは聖女である。


 というのも、"勇者"という存在には二種類あり、一つが勇者という宿命を背負って産まれてきた者。もう一つが優れた実力から、国や連合などから勇者という称号を授けられた存在である。


 勇者パーティを二つ作るということは、神聖な"勇者"に失礼だというような声もあったが、リスクヘッジも兼ねてここ数十年はこのような形となっている。


 そのうちエクスは前者であり、メイは後者の勇者パーティに参加している。


 またメイは人間の聖女あり、マリアはシロたち以外は知らないが、魔族の聖女なのであるという違いがある。


「では、私は疲れたから少し休むよ」


 そう言って国王ピーンは愛娘の頭を撫で、寝室へと向かって行った。


 残されたのはメイ一人。


 しーん、と静かな室内で彼女は一人呟いた。


「……これであいつらを殺しやすくなったわ」


 メイの勇者はの愛は重く深かった。


 小さい頃からの付き合いであり、みてくれがよく王城内では人当たりも良く、武芸に秀でたエクスに淡い恋心を抱いていたメイは、彼に釣り合うように必死に努力をして聖女に選ばれた。


 そんな努力の末ようやく結ばれる目前まで来たというのに、が死んでしまうなんて。


 勇者パーティが全滅して、魔王を討ち倒したというのなら納得はできずとも理解はできた。


 しかし、愛しのエクスだけが死んで、他の連中がのうのうと生きていることがメイには許せなかったのだ。


 メイは子飼いの使用人にどこかへ消えたシロたちの居場所を探し出すように命じる。


 そして再び一人の部屋で自分を照らす大きな月を見て祈った。


「ああ、勇者様……仇は必ずとりますから…………!!」


 その少女は勇者を殺したに違いないシロたちへ復讐する決意を固め、英雄殺しに身を落とした。








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