人って目を隠すと他の感覚が敏感になるらしいですねぇ♡
「ということなので、ここにしますねぇ?」
「は、はひ……」
あまりに早すぎる一連の流れに目を白黒させつつもなんとか首を縦に振る不動産屋さん。
「今すぐにでも住みたいのですが、大丈夫です?」
「あ……はい、お金さえ支払っていただければ大丈夫です」
「はい」
「受け取りました」
アルマダが虚空から白金貨を一枚取り出して、不動産屋さんに渡した。
そうして契約や注意事項を聞き終わり、無事に俺たちの拠点が手に入った。
「ふぅ、これでやっとくつろげるぜ」
「わたくしも不潔な中年を握り潰して疲れましたぁ」
カエデとマリアはどさり、と倒れ込むようにソファにもたれ掛かった。
二人に加えてアルマダもイスでだらだらしており、三人は完全にリラックスしていた。
一方でビビり二人は……
「しろぉ〜、本当にもういないかぁ?」
「うぅぅ……」
もういない幽霊に対してぷるぷると体を震わせていた。
「もういないぞ。マリアが倒してくれたのちゃんと見ただろ? 安心しろ」
ぴとりとくっ付く二人に、いつものえっちな雰囲気はないため、俺もさせたいようにしている。
普段からこれくらいなら可愛いのになあ。
なんて考えながら緋と緑の手入れされた髪をなでていると、アルマダと目があった。
「? どうしたアルマダ」
「ん〜……」
彼女は顎に手を当てて何か考え事をしている。
「……むふっ」
「……おい、なんだその笑みは」
ロクなことを思いついてなさそうな笑みに若干警戒していると、アルマダは右手を突き上げて言った。
「よし、お風呂入ろ!!」
「がくっ」
セクハラでもされるのではないかと構えていた分、拍子抜けするほど普通のことを言われて思わずこけた。
「いいじゃんか」
「久しぶりにゆったり入りましょう〜」
「水場は出るってさっき言ってたよな!?」
「引き摺り込まれたらどうしよう……」
しかしルミナリアとルカは相変わらずの様子。
「五人で入れば何かあっても助けてくれるよ。入っておいで」
二人は家に来てから冷や汗で背中が濡れている。
汗をかいたまま何もしないのは風邪に繋がるし、今は野営中でもないのだ。
「ぼ、ボク今日はいい!」
「だめだ。風邪ひくぞ」
「私も野営で慣れてるから……」
「二人とも……」
頑なに風呂を拒否する二人に呆れていると、女性陣から援護射撃が飛んでくる。
「お風呂入らないとお肌痛んじゃうよー?」
「うっ……」
「髪もべとべとになりますよぉ」
「そ、それは……」
アルマダとマリアの言葉は存外効いたようで、二人は視線を彷徨わせる。
「シロは肌荒れても愛してくれるよな!?」
「一日くらい大丈夫だよね!? しろっ!」
「う、う〜ん……」
縋るような視線が苦しいし、別にルミナリアの肌が荒れててもルカの髪が多少汚れてても気にしないが、風呂には入ってもらいたい。
どう返答しようか悩んでいると、マリアが言葉の槍で二人を突き刺した。
「そんな汗掻いたまま一日過ごしてると、臭くて汚くなりますよぉ?」
「「ゔっ!」」
二人の頭の中で"臭くなる""汚い"という言葉が反響し、心を抉った。
女性にとって、意中の人に臭いと思われる衝撃はどれほど大きかったのか。
「……私、お風呂に入る」
「ボクも」
慌てて俺から距離を取った二人は、風呂場へと向かって行った。
「効果的面ですねぇ」
「臭いはかわいそうじゃないか?」
「あのくらい言わないと、お風呂に入らないでしょ〜?」
「まあ、確かには否定はできないな……」
マリアの言うことももっともな気がする。
「それじゃ、私たちも入ろ!」
「お先にどうぞ」
「「「……?」」」
「……え? なに?」
信じられないものを見たように俺を見つめるカエデ、アルマダ、マリア。
女五人の中に俺が入るとでも思っていたのか?
「入らないぞ?」
「ううん? 入るんだよ?」
「いや、入らないって」
「シロくん?」
「に、逃げるが勝ち!」
前みたいに囲まれて追い詰められるとどうしようもなくなる。
俺は三人に詰め切られる前に逃亡を図った。
「カエデっ!」
「おうっ!」
「うげぇっ!?」
そして部屋を出る前に一瞬で確保された。
かちゃり、とルミナリアが持っていた手錠を後手に掛けられる。
「ちょ、なんでお前が持って……!」
「そ、それは…………。へ、へへへへ変なことをさせないためっ!」
「顔真っ赤じゃん! 変なこと考えてるのはお前だろっ!!」
「うるさい!! いいから風呂行くぞ! わ、わわわわ私のは、裸見たら殺すから!!!」
「理不尽すぎーーお、押すな! 風呂場に連れてくなぁ〜!!」
俺の悲鳴は敷地を出ることはなく、誰にも届くことはなかった。
脱衣所に来ると俺は目隠しをされた。
結局踏ん切りの付かなかったカエデがごねて、こういう形に落ち着いていた。
そして俺は腰に巻いたタオルと目隠しという変態のような格好になっている。
「へ、へぇ……お、おお男の人の身体ってこんなにえっち……」
「男の人っていうか、シロちゃんが鍛えてるだけだよカエデ」
「目を隠されていると、他の感覚が敏感になるという話がありましたよねぇ」
「うひっ!?」
「うわぁ、で、でこぼこしてる……」
「うっ……」
「れろっ♡……ここ弱いんだねっ」
「〜〜っ!」
「ちゅっ」
「んんっ……」
目が見えないせいで、いつ何をされるか予想ができない。そしてその分他の感覚が鋭敏になり、普段以上に身体が跳ねてしまう。
「ゆ、ゆるして……」
カエデに腹筋を優しくなぞられ、アルマダに胸を吸われ、マリアに啄むようなキスを落とされ、俺はもう臨戦態勢だった。
「わ……すご」
「シロくん……素敵です♡」
「こ、ここここここここ」
うん、カエデのお陰で少し冷静になれた。
「な、なあ、こんな形でして満足なのか!?」
苦し紛れの説得。
「はい♡ 後から合意があればそれはらぶらぶせっせですからぁ♡」
「ごくり……私全部入るかなあ?」
「う、お……!?」
足を払われ体制を崩されてゆっくりと地面に寝かされる。
「じゃあ、はじめよっか♡」
まずい、もう逃げる方法なんてなにもーー
「早く入ってーーってなにしてるんだぁぁ!!」
「ぼ、ボクたちを差し置いて抜け駆けは許さないよ!!!!」
「きゃっ!」
「あらぁ」
どしーん、と俺の上にあった重みが消え、女同士で言い合う声とどたどたと揉めるような音が聞こえる。
「に、逃げないとっ!」
俺はうつ伏せになって目隠しをずらし、キャットファイトに夢中な彼女たちの隙をついて逃走した。
「て、手錠を解かないと!」
「ほら、動くなよ」
「カエデ……?」
リビングで手錠を解く鍵を探していると、いつのまにか背後にカエデがいた。
「手錠取ってやるから、じっとしてて」
「あ、ありがとう……」
少ししてかちゃ、と手錠が外れ、手が少しぶりの自由を手に入れた。
「助かった……」
「い、いいよ。私もいいもん見せてもらったし……それに、私はその、ちゃんと付き合ってからやりたい、し…………言わすなばか!!」
「えぇぇ……」
「ま、まあ、今後は気をつけるんだぜ? あ、あと……早く私を娶ってくれ……」
「え? なんて?」
最後の方が声が小さく聞き取れなかった。
「も、もういいあほ!!」
「わっ!?」
顔を真っ赤にしたカエデが俺の胸に張り手をし、体制がよろける。
ぱさり……
「酷すぎるだろ……」
「わ、わ、わ…………きゅぅぅぅぅ」
体制を立て直してカエデを見ると、ルミナリアの髪くらい赤いんじゃないかというほど顔を紅潮させ、気を失った。
「大丈夫か! ……あ」
倒れないようにカエデを抱えて、そこでようやく俺は自分のタオルが地面に落ちていたことに気がついた。
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