状況悪化したのに貸しいち!? いいから早く家探そう!な!
「あ、エクスが死んだことが新聞になってるね」
翌朝、メガネを掛けて新聞を読んでいたアルマダが何気なく呟いた。
「ほう? どれどれ……『勇者、死闘の末仲間を守り殉職! しかし彼の悲願は果たされた』か。随分好意的に書かれてんだな」
「複雑だけど……死体蹴りはしない」
「そうですねぇ。不摂生でクソ不味そうな血の匂いでいつも不快でしたけどぉ、亡くなった方を悪く言うつもりはありません」
「そうだな」
俺は酷い扱いを受けており性格もクソだったが、勇者として魔王を倒すということだけは揺らぐことなく芯の通った男だった。
そこだけは評価できる。
彼女たちが勇者に守られたわけでもないが、英雄には多少の脚色は付くものである。自分たちがそれで害されるようなことがない限り、俺たちは文句を言うこともないだろう。
「……それ、付けてくれてるんだ」
「え? あぁ、そりゃカエデからのプレゼントは付けるだろ」
そっけなく指摘したのは俺の腕に付いている腕輪。昨日彼女からプレゼントしてもらったものだ。
「ずるいぞ! 私の手錠も付けるんだ!」
「いやだよ! なんでわざわざ拘束されなきゃ行けないんだ! 外も歩けないだろ!」
「ボクのわんちゃん……」
「寂しそうにしてもダメだ!」
「気持ち良くなりましょ〜?」
「ならない!」
強く否定するも、俺を囲い込むようにジリジリと迫る彼女たちから逃れる退路はない。
「お、おい、近づくなよ……。手錠されて媚薬飲まされた犬のコスプレした俺なんて見たくないだろ? だ、だからそれ以上近寄るな!! ーーてなんで速度上がるの!?」
一瞬想像して、頬を染めた彼女たちは先ほどの倍の速さで詰め寄る。
「カエデぇ〜……はダメだ、嬉しそうに悶えてる……アルマダ! 助けて!」
カエデに泣きつこうとするも、お揃いの腕輪を嬉しそうに撫でていて聞こえていなかった。
そこで唯一俺に近寄っていなかったアルマダにヘルプを求める。
「うーん。そういえば、早く家探しに行かないと、ずっとお預けだよ?」
「……そうですねぇ。ここで媚薬飲ませても生殺しで終わっちゃいますねぇ」
「犬の姿をボクたち以外に見られるのはイヤかも」
「そうだな。早く家を買いに行こう」
そういうと、彼女たちはせっせと外出の準備を始めた。
もしかすると、状況は悪化したかもしれない。
「貸し一個だよ?」
「嘘だろ……」
アルマダにこんなことで貸しを作ってしまい、ただ絶望した。
そして俺たちは今日こそ不動産屋にやってきた。今日は祭りも落ち着き、面倒な貴族にも見つからなかった。
「ええと、六人で住めるそこそこの広さの家ですか」
応対する女性が俺たちを見て引いていた。
特に俺を見る目は絶対零度の冷たさである。
違うんです。別に俺が言うことを聞かせてるわけでもないし、五股したわけでもないんです、むしろ被害者は俺なんです。
「……まずは予算をお聞きして、それに該当するところを紹介しようと思っていますので、不都合なければ予算をお伺いしても?」
「王国白金貨なら百枚は出せる」
「ひゃ、百枚!?」
サラリと言ってのけたルミナリアに不動産屋さんはびっくりしていた。
まあ、確かに百枚なんて一般人なら人生何回できるんだくらいの金額ではあるが、魔王討伐の報酬としてもらった数はそれの比ではない。
「信じられないなら少し見せよう」
「そうだね!」
アルマダが虚空から白金貨を十数枚テーブルに出す。
「ひぇぇ……わ、わかりましたからそんな大金すぐにしまってください!!」
あまりの大金に不動産屋さんは顔を青くして叫ぶのだった。
「え、えっと……それでしたらこの以前領主が使用していた館はどうでしょう」
「うーん……ちょっと大きすぎるかも?」
「でしたらこの高名な作家が住んでいた、東方様式の家はどうでしょう」
「カエデはともかく、ボクたちは馴染みがないから住みにくそう」
「うーん……そうですか……」
気を取り直して始まった物件探しだが、なかなかうまく行かなかった。
莫大な金があると知ってより素晴らしいところをおすすめしてくれている感じだが、彼女たちは無駄にデカい家や豪華な家などは望んでいない。
そのギャップが今の状況を生んでいるのかもしれない。
「もっと小さくていいよ! 六人が不自由なく住めるくらいのとこがいいな!」
「そうですか……それで白金貨百枚……」
「白金貨百枚も忘れてくれて良い」
「あ、はい。それでしたら……」
と言いつつも、なかなか決まらなかった。
なんだかんだ彼女たちにもこだわりのポイントはあるようで、それらを満たす物件が無かった。
「最近は冒険者のギルドも物件を売りに出していたりするので、割とたくさん紹介させていただきました。このなかにご希望に添えるものがないとすると、私たちでは力不足かと……」
結局、女性陣の要求を満たす物件はないらしい。
もう家建てた方が早いんじゃないかとは思うが、数ヶ月待つのは違うらしい。
「そうか……」
「他に不動産屋ってあるの?」
「あるにはあるんですが、規模で言うとウチが最大なので、希望の家があるかどうかは……」
「あー! この家良くない!?」
残念な雰囲気に響きわたるアルマダの声。
物件集をペラペラとめくっていたアルマダが取り出したのは、奇跡的に彼女たちの要求を満たした、ちょうど六人が住めるような家だった。
「あら、いいですねぇそこ」
「和室もあるじゃねえか!」
「お風呂も完備されてる!」
「庭も広いな!」
情報が載った紙を見た五人はゴーサインを出す。
「そ、そこはお勧めできません!」
しかし、それを止めたのは他でもない不動産屋さんだった。
「そこは幽霊が出るという噂があるんです。数年前に女性千人に振られてついに心が折れて自殺した男の霊が出ると! 実際に住まれた方も幽霊を見たとすぐに退去してしまって……。とてもじゃないですけど勧めることができません!」
とても親切に伝えてくれる不動産屋さんだが、終始俺を見て言うのは何故なのか。情けない男一人で守れるはずがないと思われているんだろうな。
その通りです。
「そうか……ご忠告ありがとう。だが心配には及ばないさ」
「……え?」
「私たちはこれでもそこそこ名の通ったパーティだ。これまでの戦いに比べれば、幽霊など恐るるに足らない。なので、そこを契約したい」
「……そう、ですか」
凛、とした雰囲気に信憑性があったのだろう、不動産屋さんも止めることはなかった。
「で、ですが! 内見に行く際には私もついていきます! 大切なお客様に何かあってはいけないので!!」
「分かった」
俺たちは不動産屋さんと一緒に、幽霊屋敷の内見へと向かった。
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