贈り物に順位をつけるのは最悪な手でした。
「盛り上がってるねー!」
街には昨日は見られなかった屋台や露店が道沿いに立ち並び、愉快な音楽がそれを彩っている。
歩く人々も笑顔に溢れており、街全体が幸せな雰囲気を纏っていた。
「おっちゃん、この秋祭りって毎年こんなに賑わっているのか?」
人数分の串焼きを買うついでに、屋台のおっちゃんに尋ねてみる。
「いーや! 勇者様たちが魔王を討伐してくれたから、その影響で俺が今まで見てきたどの年も比にならないくらいの盛り上がりだよ! 魔物が消えた分、商人の行き来も活発になってコストも下がってウチもやりやすくなってるし、勇者パーティ様々だよ、まいど!」
魔物がいなくなったため、残るのは野生動物や、魔王由来でないモンスター程度になった。
その分移動の危険性が軽減されたため、商人が活発になっているのだろう。
それは道路の整備のしやすさにも繋がるはずなので、今後はより街から街への行き来が活性化するかもしれない。
死に物狂いで戦った結果、民衆に笑顔を与えられたのなら少しは報われた気になった。
「良かったぜ、私たちの戦いが無駄にならなくて」
その想いは俺だけではないようで、みんなも嬉しそうな表情をしていた。
「にしても人が多すぎるな」
「ボク人混み苦手なんだよね……いろんな人に見られるし」
「キモいとこ見てくるやつもいるよねー」
彼女らは街を歩いていても一際目立つくらいの美女たちではある。それだけ不躾な視線を送る輩もいるし、手を出そうとする愚か者も多いはずだ。
そのバカがどうなるかが心配なのだが。
「……まあ、そういう時は俺を使ってくれていいから……殺したり拷問とかヤバいことするのはやめろよ!?」
ちょっとオイタしたくらいの小市民が一生消えないトラウマを刻まれるか、一生を終えるのはかわいそうだ。
流石にそこまでやらないと思いたいが、俺は勇者パーティでの魔物を殺しまくる姿しか見ていないため、言い切れない部分があった。
彼女たちが人殺しにならないためにも、そしてバカが殺されないためにも俺が犠牲になろうじゃないか。
なんて格好つけてると、カエデが顔を朱に染める。
「わ、わわわ私たちの関係をおおっぴらにしていいってことか!?」
「あら〜ついに公認ですねぇ?」
「なんでそうなる!」
「だ、だってたとえ私たちにとってはまだ建前でも、周りの人からすればこ……こここ恋人同士って思わ……ふぁぁ……」
ぷしゅ〜とショートしたカエデ。
なんで耳舐めたりはできるのに、恋人とか結婚とかの方面に耐性がないのだろうか。
それよりも、俺はなんだかとんでもない自己犠牲をしたような……。
「……そう考えると、見せびらかすという意味で人混みはいいかもな」
「アピールしたら今後面倒なやつも寄ってこないしね!」
「今日は家を探す予定でしたが、これまでゆっくり催し物を回る時間なんてありませんでしたよねぇ。いい機会ですし、今日はお祭りを楽しみませんかぁ?」
「さんせーい!」
「シロとデートっ」
ということで、今日は祭りを楽しむという予定になった。
変なこと言わなきゃ良かった……。
とはいっても、やることは街の散策である。
来たばかりかつこれから長く住むであろう街のことを知ることや、長期間戦場に身を置いて忘れていた普通の生活に馴染むためには大切なことなのかもしれない。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「シロちゃん見て! この杖キノコみたい!」
「あーうんそうだな早く返してこい」
アルマダがよくない形の杖を持ってきたり。
「シロ、この服着てみて? わんちゃんみたいで可愛いし、触り心地も良くて抱き心地もいいと思うの。……これ着てケモノみたいな交わりしたい、な?」
「……着ないぞ」
ルカがフードに耳が付いた、肌触りの良いパジャマを持ってきたり。
「シロ、これ付けないか?」
「やだよ!」
ルミナリアが手錠と足枷を持ってきたり。
「シロくん、これ一緒に飲みません?」
「ピンクの液体なんて初めて見たぞ……。飲みません!」
明らかにやばそうな液体をマリアが勧めてきたりした。
「はぁ、はぁ……。散策でなんでこんなに疲れるんだ……」
「し、シロ……。お揃いの腕輪買ったんだけど、い、一緒に付けない……か?」
疲労困憊のなか声をかけてきたのはカエデ。気恥ずかしそうに俺に腕輪を差し出してくる。
そんな姿が今の俺には純情な天使に見えた。
「うぅ……カエデありがとうぅ」
初めてまともな買い物もといプレゼントを貰った気がして、思わず感動する。
「ど、どうしたんだよ!? ……そんなに嬉しかったのか?」
「うん……」
「そ、そっか……えへへ、よかった……」
「いや本当に、一番嬉しかったよ。初めての街の散策でなんで各々の性癖に刺さる物を持ってくるの……か……」
ぽん、と肩に手が置かれた。
最後には音がしそうな圧を掛けてくる四人。
「そうか。一番嬉しかったのはカエデの腕輪なんだな?」
「ふーん、そうなんだー」
「……可愛いのに」
「女の子に優劣を付けるのは愚策ですよぉ?」
「あ、あはは……」
その悍ましい光景に俺は笑うことしかできない。
「お、おい! シロが私のが一番いいって言ってるんだから文句ないだろっ!」
そこへ割って入ったのはカエデ。
俺と彼女たちの間に入るように立ち噛み付く。
「あー! 普通のプレゼントしただけで浮かれちゃってるんだ!」
「ち、違う! とにかくシロを困らすなよ!」
やいやいと口論が激化していく。
しかし悲しいことに、俺にはそこに介入する度胸も、口の強さもないんだ。
むしろ火に油を注ぐだろう。
ごめん、そしてありがとうカエデ。
手が出たり、本当に言っちゃいけない言葉が出そうになったら止めるから。
「おい、ルミナリィ! 久しぶりじゃないか!」
俺の心の謝罪と決意、そしてみんなの口論を止めたのは、馬車から顔を出す一人の男だった。
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