白金貨使えない!? 両替だ! ーー満室です、と。
「申し訳ありません。白金貨ではお釣りの金貨が足りないので、両替をどこかでして来てください」
そういう目的の宿のカウンターで店員が申し訳なさそうに告げる。
地方の街で白金貨なんて流通しないから、使われたときの準備もしていないのだろう。
「え〜、そんなぁ」
がっくりと肩を落とすルミナリア。元気なく下がる緋色の髪が気持ちを表しているようだ。
「仕方ないね、両替ってこの辺だとどこでできるの?」
「近場だと、冒険者ギルドがありますね」
「ふーん、そうなんだね!」
「宿を出て、左にずっと歩いて行けば周りとは違った雰囲気の建物がギルドです」
「ありがと〜」
俺たちは店員の指示通りに店を出て左側に歩いて行く。背中に刺さる店員の視線が痛かった。
しかし、このまま行けば遅かれ早かれ食われてしまうだろう。
それだけはどうにかして避けないといけない!
体の関係はある意味一線を越えるわけで、呪いが解けたあと後悔しないか。
万が一五人全員妊娠した場合とか、みんなの両親になんて説明すればいいんだ。
五人一気に妊娠することなんてない、と思いたいが、うちには魔女がいる。
あいつなら百発百中にする魔法とか作りかねない。
「な、なあ。魔王の黒いもやのこともあるし、そういうのはちゃんと考えてからやらないか? な?」
しかし虚しいことに、俺にできるのは口でなんとか説得を試みることだけだった。
「……あの店員、ボクのシロにガン飛ばしてた……ころす」
俺の背後にぴたりと付き、集まる視線に睨み返す番犬のようなルカは俺の言葉など聞いていなかった。
「おいやめろばか」
「だって……」
「だってじゃない」
「でも」
「でもでもない」
「嫌い?」
「嫌いじゃない……そうじゃなくて!ーーわぶ」
機嫌を直したルカが俺の頬に自分の頬を擦り付ける。
すりすりと頬同士を擦り合わせ、首の匂いを嗅がれ、そして最後に耳をペロリと舐められた。
「んん〜♡ ……これで許す」
「マーキングされてる気分だったよ……」
人通りの多い道での熱烈な愛情表現に、俺は顔が熱くなり、下を向く。
おそらく顔は赤くなっているだろう。
「けど、本当に人が多いな」
腰に刀と呼ばれる片刄の剣をさげたカエデが鬱陶しそうに漏らす。
街は地方の片田舎と思えないほどの賑わいを見せており、作業服を着た人たちも多く街を歩いていた。
「なにか催し物があるんですかねぇ?」
「派手な演出のなかの情事……贅沢なハジメテだな」
「たしかにぃ」
「そ、そそそんなオープンな状態で!?」
「勘弁してくれ……」
いつからこいつらこんなにエロしか頭になくなったんだよ。
勇者パーティの頃の姿からは全く想像もつかないぞ!
ただ、全員美人だし、性格も良いのは長く過酷な旅で知っている。
だからこそ突き放せないし、彼女たちの意志も慮っているんだよなあ。
「あ、着いたよ!」
冒険者ギルドには通りとは違い、あまり人が多くないようだった。
「すまない、両替をしたいんだけど」
「はい、大丈夫ですよ」
ルミナリアたちが受付で対応している間、暇つぶしに酒場も併設されているギルド内を見回すと、知った顔を見つけた。
「よう、久しぶりだな」
「ん? ……あ、シロ!?」
「ああ。ここで活動してるとはな、アイ、フート」
「久しぶりだね!」
かつて、勇者パーティに参加する前に交流のあった二人組、冒険者のアイとフート。男女二人で冒険者をやっている少し変わった二人だ。
「孤児で身寄りのないお前が勇者パーティに参加させられたって聞いたときは、いいように利用されて死ぬだろうなって思ってたけど、無事で良かったよ」
「まあ、なんとかな」
勇者にはなかなか酷い仕打ちを受けたが、まあ別に伝える必要はないだろう。
「死に物狂いで明日の飯代を稼いでいたやつが、今じゃ世界の英雄様とはなあ。人気は一番なかったけど」
「一言余計だよ」
こいつらと話していると冒険者時代の自分に戻ったような感覚になるな。
「でもなんでここにいるの? 今日王都で凱旋パレードじゃなかったっけ?」
「あー……まあいろいろあってなー」
詳しく話す必要はない。
人の口に戸は立てられないし、こいつらも飯に困れば俺たちの情報を売るだろう。冒険者とはそういうものだ。
と、思っていたのだが。
「隠居するんです。もう心身共に疲れ切っちゃったので、今後は静かに暮らすことにしてるんですよぉ」
いつの間にか背後に立っていたマリアがおっとりと告げる。
「あ……そ、そうなんですね」
「むぅ!」
清廉な美女に頬を染めるフートの頭をアイが引っ叩く。
「あれ、二人付き合ったのか?」
「そうだよ! 他の女の人に見惚れないで!」
「いて、ごめんって」
当時は仲のいいだけだったが、俺が勇者パーティに入ってから付き合い始めたらしい。
フートが尻に敷かれているのを見ると、この二人はうまくやっていけそうな気がする。
「そういうことですので、わたくしたちはこれで。いきましょうシロくん」
「は、はい……。じゃあな」
「ばいばい」
「またな」
俺とマリアはその場を後にし、隣にいるのは笑顔のマリア。
「……で、あの二人は? 元カノと友達ですか?」
「違うって! 勇者パーティに入る前に交友のあった冒険者仲間だよ!」
マリアは怒ると特徴的な伸びる語尾がなくなるから怖いんだよな。
必死の否定が伝わったのか、マリアはほう、と息を洩らす。
「嘘は吐いてなさそうですねぇ。それじゃあ両替も終わりましたし、行きましょうか……遂に本番ですねぇ! そそります〜」
「う……」
妖しく輝く瞳に、俺は言葉が出なかった。
「なに!? もう埋まってしまった!?」
俺以外今まで見たことないくらいるんるんで帰宅すると、受付にそう告げられた。
「はい。明日が秋祭りということもあって、こういった宿にも多くの人が……」
「そうか……」
がっくりと項垂れるメンバーたち。
「……もし、俺と一発ヤらしてくれるなら特別に泊めてーー」
ベギィ、と聞いたことのない音と共に、受付の顔の真横をルミナリアの拳が撃ち抜き壁にめり込んでいた。
「二度とくだらないことを口にしないことだな。命を散らしたいなら別にいいが」
「は、はいぃぃ……」
顔を真っ青にして失禁する受付を無視して、俺たちは店を去った。
その後もそういう宿に連れ回されるも、悉く満室や六人が泊まれる部屋がなかった。
俺は平然とそういう宿に入っていくみんなの図太さにビビっていた。
「ぜ、全滅……」
「め、目と鼻の先に夢があるのにっ!」
「ぼ、ボクはどうやってこの気持ちを落ち着ければいいの……?」
「や……やっと心の準備ができたのに」
「残念ですわぁ」
結局俺たちは、一般人には手が出せない高級ホテルの大部屋を借りることとなり、期待に胸を膨らませていた彼女たちの気分は沈みきって今に至る。
「よ、良かった……」
民衆の魔王討伐によるお祭り気分と、秋祭りによって奇跡的にそういう宿が満杯になってくれたことにより、俺の貞操は守られた。
「でも見て! ベッド広いよ!」
「「「「……あ」」」」」
アルマダの言葉に何か気づいたみんなの視線が一斉にぐりん、と俺を捉えた。
「え……?」
俺は気づけばベットの真ん中に寝かされていた。
「はむぅ……っ。ん、んく、んく……」
左には俺の首筋から吸血をするマリア。
「ほらぁ、うごかないぃ……んっ」
「むぐぅ……」
右には俺の顔を掴んでキスをするルミナリア。
「いい匂い……♡」
お腹の上には一番小さいアルマダが顔を埋めていた。
ど、どうしてこうなった!?!?
俺はむしろ生殺しが朝まで続くことになったことに戦慄を覚える。
「んはっ、ち、血吸うのやばぃ……!」
「おいひぃいれふよぉ?♡」
「こっちにしゅーちゅーしてよぉ」
吸血鬼の歯には麻酔のような効果があり、人間には快感を感じるようになっていると以前マリアが言っていた。
それがルミナリアとのキスの感覚を高めて、非常にまずい。
「あったかーい」
腹に抱きつくアルマダの温かさも妙な安心感が生じて本当に溶かされそうだ。
「ゆ、ゆるひてーーんむっ」
「んっ♡」
逃げ場はなく、逃げる実力もなかった。
その様子を傍観することしかできない二人、ルカは羨ましそうに指を咥えて、カエデは顔を真っ赤にしながら手で隠して、指の隙間からガン見していた。
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なんか毎話いちゃいちゃしてるなあ?
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