同棲!? 逃げよう! 逃げた先にはそういうお店
転移した先は、フランク王国の片田舎のとある街。
王都やその周辺の大都市に比べると規模は小さいが、活気があり賑やかな街並みだ。
「な、なあ。本当にあんな別れ方してよかったのか?」
癇癪起こして俺に攻撃してきたのは見逃せないが、長年思いを寄せてきた婚約者に手酷い振られ方をして自棄になってしまうのは理解できた。
むすっとしながらも口をもにょもにょさせているカエデは、こちらを睨む。
「いいんだよ! 仮にも婚約者が命懸けで戦ってるなら、戦えずともそこに行こうとかそういう気概も見せれないやわな男なんてぜっっったい無理っ! …………し、しろは弱くても守ってくれたりするし……」
「? そ、そんなもんか……」
尻すぼみになって最後の方が聞き取れなかったが、女の子の気持ちはそういうものなのかと頷いておく。
顔を真っ赤にしたカエデが照れを隠すように強めに俺にぶつかり、俺の服で顔を覆った。
「女の子はね、どんな時でも、どんな無理難題でも必死に向き合って努力して、泥臭くても成し遂げる、それとピンチのときに怪我してでも守ってくれるカッコいい男の子が好きなんですよぉ」
「……耳元で囁く必要ある? あとそんなやついないだろ、どんだけハードル高いんだよ」
俺の身長は男にしては低い。シーフのときには役立つことも多かったが、今はこの身長のせいで簡単にこういうことをされる。
「うふふ、シロくんは自分の価値を分かってないですねぇ。普段はあんなに視野が広いのに」
「うひっ!? ちょ、ここ街中だぞ!」
マリアはそう言ってマシュマロを背中に押し付け、背後から回された手はお腹や胸をなぞる。
「そぉんな大きな声出すと、もっと注目されちゃいますよぉ?」
「くっ、殺せ!」
ただでさえ美女が五人いることで周りの目を集めている。
知らない人に見られながら羞恥プレイなんて考えたくもない。変な扉開きたくないし。
「ちょーっとストーップ!!」
ぴょん、と飛んでチョップするようにマリアを引き剥がしたのはアルマダ。
「それ今する必要ないよ! まずは住む家とこれからの生活方針決めないと!」
「確かにな」
「そ、そうだよな! いろいろ決めることあるよな!」
内心でナイス! と言いながらアルマダの提案に乗っかる。さっさと金の分配済ませて解散しよう。
一人でゆっくり暮らしたいし、タロウの件のように俺が目をつけられると厄介だ。
それに俺は孤児で、身寄りもない、人気も実力も平凡なただのシーフで、運良く? 魔王討伐を生き残っただけの人間だ。五人と釣り合わないだろうし、俺の未来が予想できない。
あと本能が避けてる。
「まずはお金を……ほいっ、六等分ね」
「ありがとう。ボクお家は少し大きめがいいなあ」
「お金もいっぱいあるし、豪邸でもいいんじゃないか?」
あれ? みんな一緒の家に住むの?
「ルミィ甘いよ。大きすぎると掃除が大変だし、使わない部屋とかあるともったいないよ」
「私はち、小さい家がいいかも……。狭い家で毎日え、ええええっちなこと……」
ごくり、と喉が鳴る音がした気がする。
……これ下手に意見したりごねると
「うーん、それもいいと思いますけど、生活に支障がでるのは問題ですので、わたくしはルカの案に賛成ですねぇ」
「アルも賛成! お金はどれだけ使っても無くならないくらいあるから、別荘とか買ってもいいかもねー」
わいわい、と盛り上がっている最中に、俺はこっそり逃亡する。
俺に好意が向いてるの魔王の呪いのせいもあるだろうし、やっぱり自由に生きたいし六人でいる未来が俺には見えない。
申し訳ないが、魔王討伐で培った能力をフル活用して逃げさせてもらう。
ごめん! 落ち着いたと思ったら会いに行くから!
そうして街を走り抜け、気がつけば他とどこか違う雰囲気の通りに来ていた。
「あれ、ここって……」
男が多く、お店から出てきた露出の多い女の人が彼らに声をかけて店に同伴していっている。
もしかしなくてもそういう通りなのだろう。
「……よし、やめよーー」
「捕まえたぞ」
その低い声が聞こえたときには、両手を後手で押さえられ、首に腕を回されていた。
「る、ルミナリア……!」
「逃げるとはいい度胸じゃないか」
パーティで一番身体能力の高い剣聖ルミナリアの声は怒気を孕んでいる。
「もう私はシロがいないと生きていけないんだ。あんな私を見て、責任を取らないなんて許さないぞ?」
あのとろとろルミナリアのことだろう。
「う……」
言えない。強引にキスされて勝手にとろ顔を曝け出しておいて何の責任を取れっていうんだなんて言えないっ。
遅れて他のメンバーも到着する。
「あー、いたいた!」
「……同棲が恥ずかしかったんだよね?」
「ど、どうせい……♡」
ルカがサラリと告げた"同棲"にカエデは頬を染める。
そして、何かに気づいたマリアが笑みを深くする。
「これはお仕置きしないと……ってあらぁ? こここは……。シロくん、そういうことがしたくなっちゃったから、黙って居なくなったんですねぇ?」
「そうなのか?」
「ボクに言ってくれればいいのに……」
「若いね!」
「は、はわわわ」
四者四様な反応を見せるが、その誰もが肯定的な様子を見せた。
「ち、ちがう!!! そんなつもりじゃーー」
「宿に、行こうか」
低音ボイスの囁きに身体が跳ねる。
「とりあえず追跡と一定距離以上離れられない魔法掛けとくね」
アルマダの魔法は俺に腕輪と首にチョーカーを生まれさせた。
もちろん魔法でアルマダに勝てない俺にはそれを解除できない。
「おいっ、外せこれ! なんかペットみたいで嫌だ!!」
「……所有物感があっていいな、これ」
ルミナリアが首のチョーカーをなぞる。
「もろちん外さないよ! 諦めてね」
「は、早く行こう!」
珍しく興奮した様子のルカの声にみんなが頷き、俺はSPに囲まれる著名人のような形で強制的に連行された。
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