与作とオオカミ少年


「オオカミが来たぞ」という声が聞こえた。

(うるせえなあ)と少年の与作は思った。

団地なので騒ぎ声がよく響くのである。


騒いでいるのは茂作という少年だった。

与作と茂作は同じ寺子屋の同じクラス、つまりは同級生だった。

教室では物静かな茂作。しかし、団地に帰ってくると母親をババア呼ばわりし、野良猫をいじめるという典型的な内弁慶なのであった。


茂作は団地では有名人だった。

このところ、22時を過ぎる頃に、

「オオカミが来たぞ!」と騒いで団地内のドアをランダムにたたいて廻るのだった。


あまりに茂作が泣き叫ぶものだから、団地の人々も(え?マジでオオカミ?)と思い、玄関を開けてみたりなどしてみるのだが、やはりオオカミはいない。というか、絶滅しているのでいるわけもないのだ。

茂作は頭のおかしな子として団地内で知らない人はなかった。


そんなことが三ヶ月続いたある日、茂作の声がピタリとやんだ。与作は日中、寺子屋のマラソン大会があったのを思い出した。

茂作のやつ、疲れて寝ているな。

与作は復讐のときだと思った。

どうせなら団地のみんなで復讐しよう。

みんなで与作の家に行ってドアをガンガンしてやろう。


与作は団地を駆け回って、ピンポンをおした。

「茂作が寝ているぞ!茂作が寝ているぞ!」


ふと、与作は肩をつかまれた。

警察だった。

「君だね、オオカミ少年は」

与作は署へと連行され、その後の裁判で禁固刑が確定した。茂作はこたつで寝落ちしていた。

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