12 黒の絨毯


 エイスらが毒大蛇への対応について話し終えた頃、ミギニヤの群れの第一波が森を抜け、裾野にその姿を現した。

 分かっていたことだが、本物のミギニヤはやはり大きかった。

 それは、まるで足のない超大型のワニかコモドドラゴン。

 8m級や9m級の大型個体は、蛇ではなく恐竜と呼ぶべきなのかもしれない。

 しかも、その丸太のごとき巨大蛇たちが冗談のように俊敏に動く。


『アルス、あいつらの俊敏さ……ちょっと現実離れしてないか?』

『──同感だ。

  あれは不合理だ』


 ミギニヤに足はない。

 それにもかかわらず、透明な足でもついているかのようにミギニヤたちは軽快に動く。この毒大蛇は、強靭な筋力と複雑な動きを組み合わせることにより、その高い運動能力を得ている。

 二人の目にはそのあまりに俊敏な動きが逆に不自然に映った。


 毒大蛇たちはまるで隊列を組むかのように整列してこちらに向かってきている。

 蛇たちが頭を下げて地面すれすれを這っているせいか、遠目にはその集団が動く黒い絨毯に見えてくる。

 そして、驚かされるのはその黒の絨毯の移動速度である。

 エイスの計測で7m/sオーバー。時速25kmを超えている。

 おそらく単独ならもっと速く動けるのだろう。信じがたい運動能力だ。


        *


 ミギニヤの大集団を正面に見据えながら、エイスが静かに歩きだした。

 それとほぼ同時に、白虎人三人にエイスの声が聞こえた。


「おれの後ろ10mくらいの位置にいてくれ!

 アーギミロアを引きずり出すまでは、おれの後ろから離れるな」


 エイスから出された指示に従い、三人は彼の後方へと動く。

 そして、白虎人三人は戦闘に備えてクローを装備する。

 それとは対照的に、エイスは自然体のまま平然と歩いていく。

 近づいてくる大蛇集団に対して、特に警戒する様子も見せない。


『アルス、ダミロディアスは毒霧を吹くようだが、それを見たことはあるか?』

『はっ! 誰に言ってるんだ。

  ──当然だろう。

  あいつと戦う時の注意点は二つだ。


  毒の霧はかなり広範囲にしばらく滞留するから、一度吹かれるとしばらく近寄れなくなる。

  風で吹き飛ばすのが最善手なんだが、風術の発動には距離と時間が必要になる。

  やつに接近しすぎると間に合わなくなるぞ。


  次に、ダミロディアスのあの硬い鱗だ。

  あの鱗ごと斬るか、中身を焼くか。

  その二択なんだが、お前のボロ刀で斬ろうとすると、間違いなく折れる。


  それから、分かっているだろうが、間違っても噛まれないことだ。

  あの牙だ。さすがに痛いではすまないぞ』


『やつの毒への耐性は?』

『安心しろ。あの程度の毒で龍人が死ぬようなことはない。

  それでも内臓に近いところを咬まれると、かなり痺れるだろうな……。

  ただ、目には気つけろ。

  毒で一時的に視界を奪われるぞ』


『──毒霧には要注意ということだな。

  毒を霧状にして吹いてこられるのは少し厄介ではあるな……。

  前動作で毒霧を読めないか?』

『それは読める。

  毒霧を吹く前に後頭部が大きく膨らむ。

  そこに空気をため込んでから吹いてくる。

  ただ、ものすごく細かい霧状にして広範囲に吹いてくるからな。

  あれを風術なしで回避するのは、おまえでも難しいぞ』


 アルスはそう話した後で、実際にダミロディアスが毒霧を吹く短い映像をエイスに見せてくれた。

 その映像では、全長18m級のダミロディアスが四人の守人術師を毒霧で倒した。

 直後にアルスの雷撃が胴体に命中した。ダミロディアスにかなりのダメージを与えたが、それでもまだ生きていた。


『そうかぁ……。本当に霧状なわけだな。

  確かに厄介な相手には違いない……

  だが、それならそれで別の対処法もある。

  ──この情報は助けになる。

  ありがとう』

『ははっ、礼などは必要ない。

  久しぶりに楽しませてもらうぞ』


『アルス、おまえなぁ、楽しいのかい⁉

  まぁ……いいか。

  ──がんばりまーす』


 アルスはどこか楽し気だ。

 それにつられてエイスもそう返してしまった。


        *


 アルスとのやり取りの直後、最前列の30体ほどのミギニヤがエイスの60m圏内に入ってきた。

 これまで体を地面に這わせていたミギニヤたちが一斉に上半身を起こした。

 鎌首をもたげて戦闘態勢をとり、やや速度を落として近づいてくる。


 近づいてくるミギニヤたちのその戦闘態勢を見て、エイスの後方にいるデュルオスたち三人の額に冷汗が浮かぶ。

 尻尾に覇気がないものの、それでも戦闘姿勢をとる。

 ミギニヤは虎人系族にとって遺伝子が警鐘を鳴らす本能的な脅威。普段なら同数でも絶対に戦わない相手だ。


『そう緊張するな!

  ミギニヤが近寄ってきてから対処する。

  ダミロディアスがここに姿を現すまでは我慢してくれ。

  やつに逃げられると面倒だからな』

『わ、わかりました。お任せいたします』


 三人はエイスからの念話での説明で、朧げに作戦がみえてきた。

 それはニルバにとって生まれて初めて念話の体験。精神的に余裕がないにもかかわらず、彼女の口元が微笑んだ。


        *


 先陣を切って最接近してきた約30体のミギニヤたちが40m圏内に入り、威嚇姿勢から攻撃姿勢に変わった。

 20m以内の距離になると、蛇たちは毒唾も吹きとばしてくる。


 ここで、まるでその距離になるのを待っていたかのように、エイスが動く。


 ────高レベルの強火炎ミロム

 先頭集団右側の10m手前辺りにいきなり20m超級の業火の渦が現れた。

 エイスは術の発動点(発生地点)を多少なり操れるのだ。

 発動点から噴き出してくる炎が前方に渦を巻きながらミギニヤへ直進する。

 突然目の前に現れて、そのまま向かってくる火炎渦に大蛇たちは即応できない。


 右から左へ、火炎渦がその先頭集団を舐めるように移動していく。

 ミギニヤの集団が業火に巻かれる。


 その火炎渦が通り過ぎた後には、最接近していた約30体のミギニヤ、そしてその後方に迫っていた約40体が倒れ、横たわっていた。

 その体からは毒々しい黒煙が立ち昇っている。


 強火炎ミロムとはいえ、エイスの火炎攻撃は炎量と炎温が異常に高い。

 間近に迫っていた先頭のミギニヤたちはほぼ消し炭状態。

 その後方の約20体は半焼。さらに後方の20体は蒸し焼き状態の屍になっている。


 その攻撃は時間にして、わずか四秒。

 エイスの火炎攻撃が約70体の毒大蛇たちを葬った。


 それを見て、後続のミギニヤの群れが接近を止めた。

 後続集団はエイスたちから約100mの距離にまで迫っていたが、そこでピタリと止まった。それ以上距離を詰めるのは危険と判断したのだろう。


        *


 後続の蛇たちも整列しながらその場所へ集まってくる。

 エイスたち四人が一か所に集まっていることもあり、そのほぼ正面にミギニヤたちが集結し、大集団を形成していく。

 その数は優に400を超えた。


 100m強の距離からミギニヤたちを観察すると、その脅威を改めて認識できる。

 大型個体が上半身を起こし、鎌首をもたげた戦闘姿勢になると、その体高は3m超級。体高が4mを超えるものもいる。

 その大きさで毒蛇というのは反則だろう──そう言いたくなる。


 顔もニシキヘビやコモドドラゴンのような愛嬌はない。

 足のないカイマン(ワニ)のような顔と姿。

 爬虫類好きのマニア以外がそれを「可愛い」と呼ぶことはまずないだろう。

 そのミギニヤの大集団と正面から対峙するのは、誰にとっても良い気分ではない。


 四人から100mの距離を挟んで、凄まじい数の大蛇たちが鎌首をもたげて四人の様子を窺っている。

 しかも、その数はさらに増えていく。


        *


 その後に、20体ほどのミギニヤが二度襲いかかってきた。

 だが、二度ともエイスの強火炎ミロムに焼かれた。

 強火炎ミロムとは言え、エイスのミロムは最上位級の守人の灼熱火炎ロアルと同等か、それ以上の威力がある。

 しかも、エイスから離れた場所に突如として火炎渦が現れて襲ってくる。

 ミギニヤもその威力を目の当たりにして迂闊には動けなくなっていた。


 無論、エイスならさらに上位の火炎術を使える。雷撃系術も使える。

 だが、それらを実戦使用するにはまだデータが不足している。

 ミギニヤのような強毒性の超大型蛇に対して上位攻撃術を使うためにはリスクも見極めなければならない。単に殲滅すればいいわけではない。

 倒しても、毒血や毒煙が周辺に漏れ出てしまうかもしれない。そうなった場合には、周辺の森や下流の集落への影響が懸念される。

 エイスがあえて強火炎ミロムを使っているのは、不確定要素の排除、そして不測の事態を避けるため。彼は強火炎ミロムを完璧に制御し、自在に操れる。この局面において、彼はその点を最重要視し、強火炎ミロムを選択したのだ。


        *


 エイスたちの正面から100mほど離れた場所に、ほぼ全てのミギニヤが集まった。

 ──その数は500弱。

 それでもまだ500近い数が残っている。


 両者は100mの距離を挟んで、不気味な膠着状態に陥った。

 ────それこそがエイスの狙い。


 それから数分後。

 その後方の裾野の奥、森の中でバキバキと木々がへし折れる音が聞こえてきた。

 その音がだんだんと大きくなる。


『やっと主役のご登場だ。

  ──出てくるぞ!』


 エイスのその念話が白虎人三人の頭に響いた直後に、ダミロディアスがゆっくりと姿を現した。

 この現状を嫌い、状況打破のために出てきたのだ。


 ダミロディアスはミギニヤの集団の後方へゆっくりと進みながら、上半身を静かに起こしていく。コブラのように鎌首をもたげてエイスに対して威嚇の姿勢をとる。


 上半身を起こし戦闘姿勢になったダミロディアスの体高は17m級。

 デュルオスでさえ丸呑みにされかねないほどの大きさだ。


 ミギニヤの大集団を率いているのがこのダミロディアス。

 より正確には、このダミロディアスを操る蛇人アーギミロアが全体を操っている。


 どうやら四人の先頭に立つエイスに対して、超猛毒霧で攻撃するつもりのようだ。

 この蛇人アーギミロアとダミロディアスのコンビは、ミギニヤの群れを操りながら、毒霧を奥の手として使い、ここまで生き延びてきたのだ。

 その毒霧攻撃によりこれまでに多くの守人が葬られてきた。

 つまり、これは言わば「必勝パターン」。

 術技を使ってくる相手に対する鉄板攻撃である。


 そうは言っても、それはあくまでアーギミロアにとっての必勝策にすぎない。

 エイスはあえてダミロディアスが滝下のこの場所まで降りてくるのを待っていた。


『先にミギニヤを片付ける。

  俺の真後ろに三人で順に並んでいろ。

  そうでないと術の影響を受けるぞ!』


 三次元俯瞰視から周辺状況を詳細に確認したうえで、エイスは三人にそう伝えた。

 直後に、エイスの真後ろにデュルオス、ヴァリュオ、ニルバの順で縦に並んだ。



(────悪いが、襲ってきたのはお前たちだ)


 そう襲ってきているのは蛇たちの方。

 ここまでエイスらは防戦に徹してきた。

 ──だが、ここでエイスが攻勢に転じる。



((( 【 脅鳴波ラーダム 】 )))



 シミュレータ演習で威力と効果を高めた脅鳴波ラーダム

 大きく進化したこの術の最高レベルは、今や「9」。

 それをレベル4で広角発動した。


 エイスから強い波動が放たれ、大気が微かに揺れた。


 真後ろに立つデュルオスたち三人にもその余波が襲う。

 エイスの真後ろにいるにもかかわらず、三人の全身の毛が逆立つ。

 体中の神経に電流が流れたかのような衝撃が襲った。


 背筋が凍りつくような恐怖が走り、思わず目を閉じてしまう三人。

 ────それは戦闘中に絶対にやってはならないこと。


        *


 数秒後、三人は周囲の状況を窺うように薄目を開けた。


 120m前方にはダミロディアスが戦闘姿勢のままこちらを睨んでいる。

 その超巨大蛇は舌を隠して口を固く閉じている。

 何度か目を瞬きしたが、それ以外に特に変化は見られない。


 一方で、ミギニヤたちは体が硬直したかのように動きを止めていて、微動だにしない。

 群れ全体がまるで石像のように固まっている。

 白虎人たちは理解しがたい冷たい静寂に包まれた。


(な、なにが起こっているのよ……

 この不気味な静寂はなに?)


 ニルバにはそのわずかな時間が信じられないくらい長く感じられた。


 そこに、ふわりと暖かな微風が吹いた。

 それがまるでなにかの合図であるかのように。


 ────ドドドドッ。

 鎌首をもたげたミギニヤの大集団が雪崩のように一斉に頽れ、倒れていく。


 広範囲を埋めつくしていたミギニヤたちがドミノ倒しのように倒れていった。

 その周辺は、まるで大蛇柄のマットが敷かれたような景色に一変した。


 そこに横たわるミギニヤたちは、目を開いたままピクリとも動かない。

 白虎人三人はただ呆然とその景色を見つめる。


「なにが起こって……いるんだ?」


 デュルオスはその状況をまだ理解できないでいる。

 だが、全てのミギニヤたちが絶命していることだけは本能的に分かった。


        *


 それでも、さすがにダミロディアスだけは脅鳴波ラーダムで倒せなかった。

 レベル9の脅鳴波ラーダムを使っていたとしても、結果は変わらなかっただろう。

 これは、ダミロディアスの知能が高いということ。そして、その鋼のような鱗が脅鳴波ラーダムの効果を弱めた。この二つが主要因である。

 術の影響により瞬間的に体が硬直したようだが、ダメージは負っていない。

 ダミロディアスの動きを少し鈍くする程度の効果しか得られなかった。


 だが、それはエイスにとって想定内のこと。それだけで十分な効果だった。

 彼はそのわずかな硬直を見逃さず、ダミロディアスの全身をスキャンし、その体構造を掌握した。


『いくぞ。

  次はダミロディアスとアーギミロアの番だ!』


 白虎人三人の頭にエイスの念話が響いた。


 目の前に立つダミロディアスを攻略すれば、蛇人アーギミロアは表に出てくる。

 エイスが前へと歩きだし、それを追うようにしてデュルオスたち三人も進んでいく。

 エイスの歩速が上がり、小走りに変わる。

 白虎人三人もその真後ろから彼を追う。


 ゆっくりと前進していくエイスとダミロディアスの距離が約50mまで縮まった。

 このタイミングでダミロディアスもミギニヤの屍の上を越えながら、ゆっくりと前に出てきた。

 その移動中にダミロディアスの頭部後方が少し膨らんだ。


 エイスはその変化を見逃さない。

 エイスの身体が溶けるように消え、一気に15mほど先へ移動した。


 その瞬間移動に驚いたダミロディアスが慌てて猛毒霧を吹こうとする。

 だが、エイスは既に強火炎ミロムの発動準備を終えていた。


 ダミロディアスの目の前に火炎渦が出現する。


 ダミロディアスの口から猛毒霧が吹き出したところに、猛熱の火炎渦が衝突した。

 拡散する前の猛毒霧が火炎と熱風に晒され、熱による化学反応が起こる。


 ────バブォーン。


 鈍い低爆音が鳴り響いた。

 直後にダミロディアスの頭部が炎に包まれた。口の中も燃えている。


「おおっ!」「やった」「うわっ!」


 その光景に勇気づけられた白虎人三人の声が響いた。

 三人は前方に瞬間移動したエイスの後を追う。


 頭部が一気に燃え上がり、口と目を焼かれたダミロディアスが「ギィ―」という悲鳴を何度も上げる。

 頭部を激しく動かして痛がる。


 エイスは、最初からダミロディアスが猛毒霧を吹く瞬間を狙っていたのだ。

 それは、圧縮したガスのように最も燃焼しやすい状態。発火温度に達すれば、そのガスが小ナパーム弾に変わる。



 直後に、後頭部から蛇人アーギミロアが這い出てきた。

 ダミロディアスの口から入った炎と熱風が背中の呼吸口にも伝搬したのだ。

 蒸し焼きにされそうになり、後頭部の陰から出てきたのだ。


 アーギミロアはそのままダミロディアスの下へと転がり落ちた。

 そして、ふらふらの状態で山の方へ歩き出した。


 四人はダミロディアスとの距離を一気に詰めていく。


『あいつはお前たちに任せるぞ!』

『『『御意!』』』


 一度燃え上がったダミロディアスの頭から火が消えていく。

 それに合わせて、エイスはダミロディアスの下へ瞬間移動し、胴体へジャンプする。

 三人は落ちたアーギミロアのところへと向かう。

 よろよろしながら逃げる蛇人を三人が追う。


 ダミロディアスの胴体下部へ片足で着地したエイスは、そこからさらに再度ジャンプする。

 そして、さらにもう一度胴体上部を蹴ってジャンプした。


 次の着地点はダミロディアスの頭部。

 エイスはその間に頭部を再度透視し、脳の位置を精確に捉える。

 空中で大太刀を抜くと、ダミロディアスへと着地するのに合わせて、真上からその脳を狙う。


 ガギギィー────という嫌な金属音が響いた。


 ダミロディアスの頭頂部後方にエイスの大太刀の刀身が突き刺さっている。

 ダミロディアスの動きが止まり、そのまま硬直した。

 ──その状態のまま絶命した。


 ダミロディアスの鋼の鱗はやはり硬かった。

 その衝撃でエイスの大太刀の刀身は柄から折れてしまった。

 正に根元からポキリと折れてしまっていた。


 アルスから「ボロ刀」扱いされた太刀はその衝撃に耐えられなかった。

 まぁコンフィオルの衛兵所の倉庫に置いてあった程度のもの。粗悪品ではないが、エイスの実用に耐え得る出来のものではなかったのだ。

 ダミロディアスの頭部に立つエイスの右手には、その柄だけが握られていた。


 そこから50mほど離れた場所では、白虎人の三人がクロー攻撃と蹴りでアーギミロアをボコボコにしていた。

 ──文字通りにボコボコ。

 あちこち骨折し、クロー攻撃を受けた穴から大量に出血している。

 それでも死んではいない。

 なかなか打たれ強い獣人のようだ。


        **


 山荘から滝下を見下ろすと、山側の砂地は正に惨劇。

 その周辺は目を開けたまま絶命したミギニヤの屍に埋め尽くされている。


 ダミロディアス、そして毒大蛇の群れとの戦いは終わった。

 敵で生き残ったのは、ボコボコにされて縛り上げられた蛇人アーギミロアのみ。

 事の真相を聞き出すためにその蛇人は拘束され、エイスの術で眠らされている。

 この後に先ず尋問し、その処分について話し合うことになるだろう。


 こうして白虎人三人は絶体絶命の危機から脱した。

 エイスの助力がなければ、三人は生きていなかっただろう。

 デュルオス、ヴァリュオ、ニルバの三人は、ひれ伏してエイスに感謝した。


「──礼などは必要ない。

 おまえたち三人に非はない。無事ならそれでいい」


 そう伝えてから、エイスはひれ伏した三人をすぐに立たせた。

 エイスとアルスには白虎人たちを助けたという意識さえなかった。

 単に降りかかる火の粉を払っただけのこと。

 二人はその程度にしか考えていなかった。


        *


 戦いを終えたエイスの頭にアルスの声が響く。


『おれの記憶が役に立ったじゃないか。

  それにしても、あの毒霧を逆手に取る攻撃をよく思いついたな。

  まぁ……でも、この戦いでいろいろと課題も見つかったけどな』


 アルスは笑いながらエイスにそう声をかけた。


 それを聞いたエイスは一人微笑む。

 それがアルス流のねぎらいと賛辞であることを誰よりも知っているからだ。

 

『確かに……。

  課題もたくさん見つかったな』

『──だろう!?

  また見直し作業だな』


 まるで今日の事件などなかったかのように、二人はいつもの調子で話しだした。


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