08 ラフィルのエイス
コンフィオルの老神官イストアールは
彼の曾祖父と父は
彼は(半)
彼もまた大戦を終結させた英雄の一人。
そして、当然のように、その報復に人神派の人族から命を狙われた。
彼は何度も刺客に襲われ、過去に二度絶体絶命の窮地に陥った。
だが、その二度とも龍人により救われた。
一度目はオルカ・ギィ・リート。
そして、二度目はアルス・ギィ・リート。
オルカはアルスの曾祖父。
アルスがイストアールを知るのは、その事件を通してのことだ。
今、このイストアールがクレム聖泉のあるコンフィオルの聖堂に神官として勤めている。
これは偶然ではない。
二人のリートから受けた恩義に報いるため、彼は自らの意思でここにやって来た。
アルスにかけられた最凶の封印術を解くために、彼は余生の全てをその研究に投じてきたのだ。
**
クレム聖泉の底に沈む龍人アルスの肉体は、静かにゆっくりと変化していた。
それはアルスからエイスへの変化。
肉体の方は、龍人アルスからエイスへの最適化が進行していた。
これは、エイスが計画的に起こしたもの。
エイスは龍人ではなく、(半)
彼は遺伝子情報を遡りながら、太古の聖守族から龍人族への進化を解析していった。
この情報を参考にしながら、龍人族よりも聖守族に近い体形に変化させていった。
彼には過去の自身に関する記憶がない。
医師であったことも、ゲノム解析の研究者であったことの記憶も持たない。
そうであるにもかかわらず、彼は龍人の脳力を駆使して、自らの遺伝子を操作し、肉体を最適化していく。
────同時に、さらなる強化も加えた。
眼球に始まり、中枢神経、末梢神経、骨質と骨密度、肌肉繊維に至るまで、再構成と最適化が可能な全ての部位に手を入れた。
この泉底からの脱出は最初の一歩にすぎない。
その後の未来はエイスが自身の独力で切り開いていかなければならないのだ。
結果的に、龍人だった肉体は守人族の体形に近づいたが、肉体は高次元の進化を遂げていた。
これには、当のアルスも驚愕させられた。
アルスに肉体を変化させるようなことはできなかった。
そもそも、彼はそんなことを考えたこともなかった。
おそらく過去にそれ成し得た龍人はいないはず。
エイスはまだ脳力の半分ほどしか使えないにもかかわらず、龍人としての潜在能力を最大まで引き出そうとしていた。もしかすると、それは限界領域を超える次元のものなのかもしれない。
アルスはエイスの作業を静観しながらも、内心では多少なり興奮していた。
(これは、さすがに想像もしていなかったな……。
おれはお前がこれからどうなっていくのかを見させてもらおう。
ふっ、ふふっ……、こいつは楽しみだ)
エイスの身長は約195cm。
5cm程度伸び、体形的には守人に非常に近くなった。
地球的な感覚では、
龍人族もかなりスリムだが、守人族はそこからもう一段階スリム。
そうは言っても、彼は龍人である。超絶的な筋力とバネを持つ。
普段は線の細い二の腕が、力を入れた瞬間に四倍以上もの大きさに膨らむ。
当然だが、顔も変えた。
この理由は簡単である。変えなければアルスであることがバレてしまうからだ。
ただ、小顔だけはさすがに変えられなかった。
髪はブラウンからブロンドに。非常に濃く美しい黄金色。
そして、小顔で、長い睫毛、キラキラのブルーアイ。
守人族系のイケメン。少し女性的な美しさだ。
地球人的には16歳くらいに見間違えるほど、若く美しい貴公子。
男装の麗人……ではないが、芸術的な美しさ。
ほとんど犯罪的な美男子になっていた。
200歳を超える年齢でありながら、少年のように艶やかで美しい。
ただ、耳の長さだけは龍人族と守人族の中間くらい。
いかにも龍人族的な少しいかつい二枚目のアルス。
────は、もうそこにいなかった。
元のアルスのファンが見たら、石を投げられそうな変化だ。
エイスが美形好みで、その方向にわざわざ振ったわけではない。
守人族はそもそも美形。美男美女ばかり。
エイスは古の遺伝子情報を参考にして、彼流の(半)
その結果として、偶然的に超美男子が誕生してしまっただけのことなのだが。
これは蛇足なのだが────龍人族の女性はかなりの美形。
男性も別にブサメンではないのだが、彫が深く、わりと濃い顔が多い。
……簡単に言えば、少し怖いのだ。
良く言えば、いかつい系の二枚目が多い。
目付きがかなり鋭い(悪い)ので、そう見えてしまうのだが──。
それが狙いだ。体形を守人似にしたこともあり、遠目にはまず龍人に見えない。
遺伝子配列から変えたため、たとえアルスの血縁者が見ても別人にしか見えない。
アルスとは全くの別人。
そこが最重要点である。
超絶美男子化してしまったのは、単にその結果だ。
龍人を完全モブ化することなど、そもそも不可能。
エイスをアルスと龍人の
姿は、龍人から守人似に。
そして、いかつかったアルスの顔もまるで別人に変わった。
これら二つだけでも十二分にハーフモブ化が達成されたことになる。
一瞥には「守人」、実は「(半)
*
エイスが唯一扱いに苦心したのが、左腕の聖龍腕輪だった。
腕輪はアルスの肉体を自動防御してくれる。
だが、エイスのものとなった体まで守護してくれるかどうかは未知数だ。
腕輪は、精神体がエイスに入れ替わったことを認識しているようなのだが、呼びかけに一切応答しない。
問題は、(半)
第三者から腕輪が見えてしまえば、一目で龍人だとバレてしまう。
この腕輪が──半モブ計画──最大の障害になった。
アルスによると、腕輪は彼の指示にさえ基本的には従わないらしい。
腕輪は常に自立的に行動するからだ。
一筋縄にはいかぬ、なかなか面倒な腕輪なのだ。
アルスが腕輪に対して不可視化できないかを問いかけてみたが、腕輪は返事さえしない。
予想通り、腕輪はアルスの命令にも従わなかった。
そこで、エイスは遺伝子情報中にそれに近い機能か術がないかを解析していった。
それはかなり面倒で複雑な解析だった。
そして、聖守族の遺伝子情報をさらに遡った中にこれに該当する箇所を発見した。
その遺伝子配列の変更は非常に複雑な上に、龍人に対してはそれが既に機能しなくなっていた。
エイスは仕方なく、それらを再構成しながら、本来の配列よりもさらに最適化していった。
結果的に、聖守族よりも以前の遺伝子情報を大幅に書き換えることになった。
彼もそれを全て解析しきれたわけではなかったが、その最適化に全力を尽くした。
そして、その遺伝子情報の変更を全身に反映させていった。
全て作業を終えてから、エイスは聖龍腕輪に対して、左腕中に同化するように伝えた。
すると、返事などは一切ないまま、聖龍腕輪は静かに左腕の中に消えていった。
『おい……エイス、これって左腕と同化したんだろう。
もう二度と聖龍腕輪に戻せないんじゃないか?』
『そうかもしれない』
聖竜腕輪として二度と働いてくれないかもしれない。
アルスはそう考えて、少し不安に感じた。
『そうかもしれないって……。また他人事みたいな。
防御機能まで全て失うのはまずくないか?』
『龍人武具が使えないのは少し惜しい気もするけど……
おれはそれでいいと思っている。
機能するかどうかが分からないのなら、別に機能しなくてもいいさ。
古の聖守族の祖先は腕輪と左腕が一体化していたようなんだ。
それに……だ。
お互いに一度は死んだ身なんだ。
死ぬのを怖れるのはもう卒業しないか?
その時は潔く土に帰ろうぜ‼』
アルスの声が瞬間的に聞こえなくなった。
その二秒後にアルスの爆笑する声が頭に響いた。
アルスはエイスのその考えに100%同意した。
これにより、少なくとも第三者に腕輪を見られることはなくなった。
────腕輪は永久的に消え去ったのかもしれない。
しかし、二人にとってはそれならそれで構わなかった。
**
こうして、クレム聖泉からの脱出準備は一応整った。
ここから、エイスは次のフェーズに移行していく。
────これから、アルスの立案・演出の脱出劇の幕が上がる。
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