07 亡国の戦士
大陸最強の生命体は、竜族と龍人族。
とは言っても、大陸東部の龍人の総数は多く見積もっても三千人ほど。
平均的な寿命は千年以上とも言われるが、その総数はほとんど変化していない。
大陸最強とは言っても、圧倒的な少数種族なのである。
龍人の大多数は父系家族。
親族以外の龍人族同士が群れることはまずない。
大陸には二つの龍人の国が存在する。
だが、そのいずれの国でも龍人が群れているわけではない。
最古の龍人の国「ミクリス龍王国」であっても、決して龍人が多いわけではない。
『アルス、ミクリス龍王国に行ったことはあるのか?』
『いや、ない。
戦時下だし、そこまで行く時間もなかった』
『最古の龍人の国なんだろう?』
『そう言われているが、爺さんの話だと、さらに遡ると別の国だったらしい』
『別の国?』
『おれも詳しくは知らないんだ。
あくまで爺さんが話してたことで、うろ覚えだ。
ただ、それでもあの国の龍人人口は九百ほどにすぎない。
その詳しい話は竜族にでも聞くしかない』
『九百?
それはまた少ないな』
『少ないか?
おれはそう思わないがな』
ミクリス龍王国とレミロレゾン龍神国の二国以外では、龍人が家族単位で居住域に住む。
龍人が新たに定着した場所には、龍人族を崇める守人族と獣人族が周辺に集まる。
あるいは、守人族や獣人族の町や村の近くに龍人族が居を構える。
龍人はいかなる争いにも中立的な立場をとり、原則介入しない。
ただし、この中立性には唯一例外がある。
それは、その居住地域が攻撃を受けた時。あるいは、その安全が脅かされた時。
『とは言っても、龍人の居住域を攻撃しようなんてやつはいないけどな』
アルスは笑いながらエイスにそう話した。
龍人の居住域を攻撃した敵が組織レベルの場合には、周辺に住む他の龍人家族も報復攻撃に加わる。
そうなれば、その相手が小国程度の規模なら簡単に滅ぼされてしまう。
実際に龍人の居住域に手を出して滅んだ国は過去にいくつもあるのだ。
このため、どの国の軍兵も龍人の居住域に近づかないように厳命を受けている。
龍人の居住域の周辺に守人族や獣人族が集まるのは、それも理由の一つである。
**
龍人族の人口が増えにくいのには、もう一つ理由がある。
龍人は守人族と一部の獣人種族とも交配可能であるため、必ずしも龍人同士が家族を形成するわけではない。
実は、龍人との子供を最も生むのは守人族、次いで獣人族。
龍人が増えない最大の理由は、その血脈と能力の継承の問題にある。
龍人は、龍人の男女の間からしか生まれない。
また、龍人同士間の子供であっても、生まれた子供が龍人とはかぎらないのだ。
その確率は約40%。
そして、その生まれてきた龍人の二人に一人は、(半)
(半)
だが、龍人の証となる「聖龍腕輪」とともに生まれてこない。
腕輪の有無。それが唯一の違い。
──だが、それは重大な違いでもある。
『これは本当に難しい問題なんだ。
龍人の子のできやすさには、男女の先天的な体質が関係しているようなんだ。
同じ男女から多数の龍人の子供が生まれることもあれば、その逆もある。
おれの知り合いは、二人の龍人女性から生まれた十人の子供が全て
これはおそらく男の方の問題だろうな』
アルスは遺伝子の知識を持たない。
それでも、伝承や経験則からそれを「血脈」の関係として捉えていた。
そして、それはあながち間違いではなかった。
龍人は聖守族の進化種であるため、龍人同士の子供であっても、五人に三人は守人が生まれる。
その三人中の二人は、
簡単に言えば、上位種の守人である。
身体能力と脳力の高い守人であり、守人術の術力に特に秀でる。
『上位医術師の大多数は
守人族のお偉いさんはほとんど
アルスによると、
それもあって、
さらに、龍人と
最上位の守人である。
肉体的にはかなり龍人に近い守人。
一部の龍人術を使えるが、そのためなのか、守人術がやや不得手。
出生確率は、やはり20%。
ただ、
守人の中でも珍しい武闘派であり、電撃剣と電磁体盾の術力を有する者が多い。
高名な武人には
このように、龍人同士の子供であっても、その約六割は守人なのである。
そして、残る四割が龍人と(半)
*
(半)
平均寿命も龍人と同次元。
それもあって、以前は龍人と(半)
また、(半)
町や村のリーダーや長には(半)
過去に(半)
それは既に亡国なのだが──。
龍人と(半)
先述したように、(半)
龍人は聖龍腕輪とともに生まるが、(半)
だが、聖龍腕輪こそが龍人の証。
地球の竜種が宝珠を手に握るように、龍人は聖龍腕輪とともに誕生する。
その腕輪は龍人にしか授けられない。
ゆえに、(半)
『龍人専用の武具があるみたいだが、剣だけなのか?』
『剣もその一つだ。
基本的には剣、槍、盾、矛の四種類だ』
『普通の武具との違いは?』
『それは武具によっていろいろさ。
一つとして同じモノはないからなぁ。
どの武具も特徴や扱い方が異なるんだ。
槍から雷撃弾が撃てたり、火炎剣を発動できたりする』
『はぁ⁉ 遠距離攻撃のできる槍があるのか?』
『ああ、あるぞ。
おれの使っていた槍は最大射程300mで雷撃砲が撃てた』
これにはエイスも驚かされた。
アルスの説明によると、槍先に雷撃を発動して、砲弾のように標的へ撃ち出せるようだ。
『ただし、この龍人武具は聖龍腕輪を介してでないと使えないぞ』
それについては、遺伝子情報解析からエイスも既に知っていた。
だが、武具に関する詳細な情報までは解析できていなかった。
龍人の聖龍腕輪は、独立生命体。
そして、非常に強力な防御機能を備える。
戦闘時や非常時には、肉体を透明なシールドで包み込む。
無色透明な特殊ボディスーツに包まれるようなものだ。
地球型の銃火器でも、龍人の肉体を傷つけることはできなかった。
龍人は、たとえ幼子でもあっても、この腕輪に守護され、殺すことができない。
非常時には強力な防衛術と治癒術が自動発動され、その命は守られる。
また、腕輪から強力な盾術を発動できる者も少なからずいる。
この盾術は
アルスがクレム聖泉を利用した秘術により封印されたのも、この聖龍腕輪がその理由だった。
龍人を肉体的に殺すことはできない。
この意味において、龍人は不死身。
聖龍腕輪は自立的に動作し、たとえ龍人が意識を失っていても、自動防御機能が肉体を守ってくれる。
ただし、肉体的な寿命はもちろんあるため、龍人は不老不死ではない。
話を(半)
(半)
そして、そのために盾術と龍人武具が使えない。
結果的に、攻撃手段と防御力に著しく劣ることになる。
龍人と半龍人に分けられている理由もそこにある。
『ただ、それはあくまで世間的な龍人の分類だ。
おれたち龍人からすると、別に呼び分ける必要なんてない。
龍人と(半)
違いなんて、本当に腕輪のあるなしだけだ』
アルスはそう説明を加えた。
彼の仲間の中にも、やはり二人の(半)
違いはない──そうアルスは言った。
だが、事実としてアルスはまだ生存し、その二人の(半)
──その悲劇を誰より知るのもまたアルス。
(半)
軍機関も(半)
それもあって、優秀で誠実な(半)
守人族と獣人族に崇められ、その中心的な役割を担うことも珍しくない。
しかし、それが災いにもなった。それは先にも触れた通りだ。
過去には、(半)
その小国の国民は、千人ほどの(半)
しかし、その近隣国に悪魔が舞い降りたのだ。
一人の地球人転生者が現れて、火薬や油を応用した重火器、地雷、火炎放射器等を大量生産した。
そして、それらの兵器や武器を手にした人族の大規模侵攻が始まったのだ。
──地球の兵器と武器による大虐殺の始まりだった。
その転生者は人族の頂点に立ち、覇権国家を築いた。
それがカミロアルバン帝国。
そして、その転生者は大陸の王に君臨しようとした。
帝国が真っ先に狙ったのは、(半)
(半)
二十万の人族の軍勢と地球兵器により、その小国と民は殲滅された。
(半)
カミロアルバン帝国と人族が引き起こした五十年戦争は、
だが、この戦争により多くの獣人族と一般の人族が犠牲になった。
そして、その人々と自然環境を守るべく、多くの守人族も戦い、犠牲になった。
『もう十年早く
アルスは無念そうにそう呟き、その先は言葉にしなかった。
カミロアルバン帝国と戦った国々の主力は守人族と獣人族。
そして、それを支えたのは(半)
龍人族は基本的に中立を保ち、あらゆる紛争から距離を置く。
アルスは守人族や獣人族を庇護した数少ない龍人だった。
そのアルスとともに(半)
結果、この大戦により、(半)
今や大陸全土でも五百人に満たないと噂されるほど、その数は激減した。
それでも龍人が存在する限り、(半)
ただ、今やその総数は龍人よりも少なくなってしまった。
地球なら、全滅危惧種扱いのはず。
その数が千人台を回復するのは遥か先の未来だろう。
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