029 騒動を終えて
その後、俺たちの発見したワード『1ヶ月記念(笑)』について日本政府から会見が開かれた。
須藤から事前に聞いていた通り、その内容は事実と大きく異なっていた。
まず、俺たちは無償でワードを提供したことになっている。
政府の発表によると「文明の発展に貢献したいから」などという崇高な理由により、自ら率先して提供を申し出たらしい。
そして、あのダンジョンについては日米が合同で研究を進めることになった。
もちろんそんなものは建前で、実際には米国が独占的に利用していく。
不要になったと判断されたら日本の研究者も使うことが可能になるのだ。
裏事情を知っている身からすると、アメリカはなんて酷い国なんだと思う。
だが須藤によると、こういうのはどこの国でもやっているとのことで、日米の関係自体は表向きのイメージどおり友好的らしい。
この発表が行われるのと時を同じくして、ヨウツベのアカウントが復活した。
アカウンロックの理由について、ヨウツベ運営からは「セキュリティ上の理由」などという嘘丸出しの説明と共に謝罪を受けた。
なかなか踏んだり蹴ったりだが、悪いことばかりではない。
アカウントがロックされている間に、チャンネル登録者数が急増していたのだ。
スペンバーグの時とは違い、異世界人の存在が確認されたことについては連日報道されていた。
おかげで俺のチャンネル登録者数は90万人を突破していた。
皮肉なことに、ロックされている期間のほうがそれまでよりもたくさんの人に登録されたのだ。
実感がないまま大手冒険者系YOTUBERになってしまった。
「さて、久々の配信といくか」
家に着いたらまずは配信だ。
鉄は熱いうちに打てというもので、今だからこその配信を行う。
今回の配信タイトルは決まっている。
S級ゲートワードに関する日本政府とのやり取りについて、だ。
「カスミ、カメラだ! カメラを回せ!」
「はいぃー! ただいま回しますー!」
リビング兼ダイニングとして使っているフロアで配信を開始する。
カスミにカメラを持たせ、俺はソファに座り姿勢を正して話す。
「今もっとも話題沸騰中の冒険者ユウトです! ども!」
「ついでにカスミです!」
カスミがハンディカメラのレンズを自分に向ける。
言い終えると再び俺のほうに戻した。
「一部? いや、世界中で報道されているとおり、俺たちはとんでもないダンジョンを見つけてしまいました! といってもですね、配信を観ていた方は分かると思うんですけど、異世界人がそこまで凄いと思わなかったんですよね。そういうことに疎くて。凄さを知ったのは戻ってから日本政府の人と話してからなんすよ、ハハ」
俺は事前に考えておいた嘘っぱちの物語を話す。
日本政府の会見に沿った内容の話だ。
「ただまぁ、俺の配信を観ている人なら分かると思うんですけど、俺たちって政府が言うほど誉れ高いタイプじゃないんですよね。それでも無償でワードを差し出したのは、やっぱり世界中の人に貢献したいと思ったからなんですよ。どういう風に利用されるかは分からないですけど、俺たちの見つけたダンジョンによって、世界中の貧困問題が改善されたり、回り回って治療不可能と思われていた難病に効く薬が作られたりしたらいいかな、とか思ったんですよ」
カスミは「よくもまぁそこまで嘘がつけるな」と言いたげな顔だ。
俺も我ながらひでぇ嘘つき野郎だと思った。
「ま、そんな感じですわ! 俺たちは今後も頑張って活動していくんで、よろしければ他の配信とかも観てやってください! あと、チャンネル登録と高評価、バシバシ押してやってください! スペチャやコメントを読み上げられなくて申し訳ないですけど、本日の配信はこれにて終了! ばいばい!」
こうして今日の配信が終了した。
配信時間は1時間にも満たなかったが、勢いは過去最高だった。
リアルタイムで300万人が視聴し、チャンネル登録者数は110万人を突破。
配信中だけで20万人がチャンネル登録をしてくれたのだ。
高評価の数は50万を超えており、スペチャも過去最高の950万円を記録した。
コメントも温かい声で埋まっている。
「ふぅ、久々の配信は疲れたな」
「お疲れ様です! ユウト君!」
カスミはカメラを目の前のテーブルに置くと、俺の背後に回ってきた。
そして、優しく俺の肩を揉んでくれる。
彼女の馬鹿デカイ胸が俺の頭にもたれかかってきた。
「あとはお風呂に入っておやすみですね!」
「いや、今日はまだだ」
「そうなんですか?」
「まずはネットの反応を見ておきたい」
俺はスマホを取り出し、エゴサーチを行った。
数ヶ月前まで「金好ユウト」で検索しても同名の別人しか出てこなかったのに、今では俺に関するページでいっぱいだ。
その中でも目に付いたのが、いつもの匿名掲示板だった。
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【金好ユウトとかいう冒険者系YOTUBER】
0001 スレ主:運が良すぎて羨まC
0002 名無し:カスミちゃんかわヨ
0003 名無し:ぜってぇ裏で日本政府から金貰ってるわ
0004 名無し:>>3 カスミちゃんがそんなことするわけないやろ!
0005 スコール:>>3 日本政府はそんなことしない。裏金などありえない。
0006 名無し:>>5 お前の存在は日本国憲法的にNGって答え出たよね
0007 おっぱい伯爵:カスミちゃんのおっぱいは国宝級
0008 名無し:カスミとかいう天使
金好とかいうザコには勿体ない
0009 名無し:>>8 金好はスペンバーグからもらった金をカスミちゃんに分けてやった性格イケメンなんだよなぁ
0010 名無し:>>9 それすげーよな
いくらカスミちゃんがロリ巨乳の天使だからってあっさり1億を分けるとかできねーよ普通
0011 名無し:ぶっちゃけ金好って自分で言うほど金にこだわりねーよな。>>9の件とかまさにそれ
0012 名無し:>>011 見るからにド底辺陰キャだけど性格は良さそうな感じするね
0013 名無し:いうてお前ら冒険者になって3日でボスジャイアントに挑めるか? 俺は無理
0014 名無し:>>13 あれは運よりも実力が光ってたわな
0015 名無し:そういや金好って大学受験失敗したんだよな?
今なら自己推薦入試でどこでも入れるんじゃねぇの?
0016 名無し:>>15 今さら大学いく意味あるか?
スペンバーグとの取り引きだけで1億手に入れて、しかもヨウツベのチャンネル登録者数は100万突破してんだぞ
もう適当に配信してるだけで億万長者や
0017 名無し:>>16 え? チャンネル登録者数100万超えてんの? 数日前に見た時は60万くらいだったけど
0018 名無し:>>17 金好のチャンネル登録者数は加速しとるからな
このペースなら1年後には冒険者系どころか日本最強YOTUBERになるで
0019 名無し:>>18 あんな手抜き配信で日本最強になったら他のYOTUBER腹切って死にたくなるやろ
0020 ベンジャミン:ワイ冒険者系YOTUBER、金好と同じ日にデビューしたのにチャンネル登録者数20人しかいない模様
0021 名無し:>>20 カスミちゃんみたいな天使を見つけるしかねーわ
やっぱり女のおらん汗臭い配信なんか観てられへんで
0022 ベンジャミン:>>21 ワイ、一応女やねんけどな。歳もカスミちゃんと同じやし顔出しもしとるんやが……
0023 名無し:>>22 こん!
0024 名無し:>>22 俺も配信してんでー、今度一緒にコラボ配信せぇへん?
0025 名無し:>>22 どこのギルドで活動してんの? 装備やろか?
0026 名無し:>>22 固定メンバーおらんなら見つけた方がええよ。ウチくる?
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スレを見て安堵した。
叩かれていたらどうしよう、と不安だったのだ。
「さて、と」
エゴサも終わったので次の行動だ。
「お風呂に入って寝ますか! 私、もうおねむですよ!」
カスミがアクビをしながら言う。
外は真っ暗で、眠くなるのも無理ない時間帯だ。
「いいや、ギルドに行くぞ」
「ギルド!? どうしてですか!?」
「ずっと忘れていたが、オークションに出した雷霆石が850万で売れたらしい。報告のメールが入っていた」
「おー!」
「で、それはまぁどうでもいいんだけど」
「いやいや850万ですよ!?」
「たしかにそうなんだけど、それより口座の明細を見ておきたくてな。日本政府から本当にお金が支払われたのかまだ確認していない」
「たしかに」
「あとドラゴンの魔石も換金しねーとな」
「それ忘れていましたー!」
「だろ? そんなわけだから、今日中にサクッと済ませておこう」
「りょーかいです!」
ということで、俺たちは眠気を堪えながらギルドへ向かうのだった。
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