42:見舞い客

 



 精密検査で脳に異常が無い事が判明したマルツィオは、早々に授業復帰……出来なかった。

 脳に異常が無くても、身体的には異常だらけである。

 そもそも立位りついどころか、座位ざいを自力で保持する事も出来ないのだ。

 授業など受けられるはずもない。


「入院費はサンテデスキ伯爵家持ちですからね。好きなだけ居ると良いですよ」

 マルツィオの担当医が笑顔で処置をする。

 運び込まれた当初、マルツィオの状態のあまりの酷さに、しかるるべき機関に彼が速攻で連絡した事を、意識消失していたマルツィオは知らない。

 そのお陰で、リディオの罪が通常より早く決定した事も。



「勉強が遅れちゃうな」

 マルツィオは、家族に頼んで持って来てもらった教科書を開いた。

 何となくは予習出来るが、きちんと教えられたのとは違う。

 今回はマルツィオに非が一切無い事は学園側も認めているし、無償で補習してもらえる。

 しかし、同級生に遅れを取ってしまう事は、伯爵家三男で就職しなくてはいけないマルツィオには、かなりの重圧に感じた。


「こんにちは」

 空気の入れ替えの為にと開け放たれた入口の扉をノックする音と共に、可愛らしい声が室内に響いた。

 マルツィオが顔を向けると、そこに居たのはジュリア・アンドレオッティ子爵令嬢だった。

 手には、また良い匂いのするバスケットを持っている。


「美味しい物を食べたら、早く治るらしいので」

 持っていたバスケットを目線の高さに持ち上げたジュリアが、悪戯っぽく笑った。



 本日は、ジュリアだけでなく友人で有るビビアナとクラウディアも一緒だった。

 更にその護衛も居るので、そこそこの人数が訪ねて来ていた。

「大人数でごめんなさい。落ち着きませんわね」

 ジュリアが申し訳無さそうに微笑む。


 婚約破棄した上に、元婚約者が起こした事件の被害者への見舞いである。

 変な噂が立たないようにとの配慮だと、マルツィオは大人数での見舞いをこころよく了承した。



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