31:根本は変わらないもの

 



『明日から昼食は我慢するか、誰かに奢って貰うように。』

 アレから数日後。そんな屈辱的な手紙がリディオの元に届いた。

『それか、学園を退学して就職しても良い。自分の人生だから、好きにすると良い。』

 そう締めくくられていた。


 婿入りは絶望的だという事だった。

 男爵家どころか準男爵家まで婿入り先を探したが、全て断られていた。

 普通は上の立場の者に申し込まれれば、男爵や準男爵なら断れないだろう。


 しかし今回のリディオの起こした事件は、結婚相手に該当する年齢の令嬢が居る家は皆が知っており、「アンドレオッティ子爵家に訴えられた男」という事実は、充分に断る理由になっていた。




 空腹を我慢する為に水を飲み、中庭のベンチに座ってぼうっとしていたリディオの目の前に、玉子のサンドウィッチが差し出された。

 もしや誰か優しい令嬢が!?と思って顔を向けたリディオだったが、相手を見てチッと舌打ちをする。


「何だ。玉子サンドは嫌いだった?」

 差し出した玉子サンドを引っ込めて、マルツィオは苦笑する。

 そう。かつて同室だったマルツィオだった。



ほどこしは受けない」

「前にクラスの女子からクッキー貰ってなかった?」

「あれは差し入れだ」

 マルツィオは口をつぐむ。

 あのクッキーは、令嬢から男性にお菓子の贈り物をする日に誰からもクッキーを貰えない可哀想な男子生徒への、女子有志からの、それこそ施しだった。


 マルツィオは数学が得意だったので、クラスの女子数人とテスト勉強をした事があり、その時のお礼にとお菓子を貰っていた。

 マルツィオが渡される時に、丁度リディオも渡されており、それを見た女子生徒が有志の話を教えてくれたのだった。


「勘違いされても困るから、ちゃんと義理だと説明されてたはずなのに。相変わらず思い込みが激しいんだね」

 ポツリと呟いたマルツィオの声は、リディオには聞こえていない。

 声量の問題では無く、自分に都合の良い事しかリディオは聞いていないからだ。



「それじゃ、僕は向こうで食べるから」

 マルツィオはリディオに挨拶をして去って行った。

 その後ろ姿に、リディオはまた舌打ちをする。


「何だよ。もう1回勧められたら受け取ったのによ」

 自分で断っておいて、玉子サンドを渡さなかったマルツィオをリディオは責めた。



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