28:勘違いしてる男

 



 ジュリアがリディオを訴えた翌日。

 昼食の時間に、ジュリアの教室をリディオが訪れていた。

 当たり前だが、ジュリア本人と共に周りの生徒の目が冷たい。

 特にいつも一緒に居るビビアナとクラウディアは、害虫でも見るような目でリディオを見ていた。


「俺は、話をしたいだけなんだ」

 無視をして歩くジュリア達の後ろを、リディオはずっと付いて歩いていた。

「婚約者だったんだから、少しは譲歩しても良いだろう?」

 リディオの言葉に、ジュリアはクルリと振り返った。


 満面の笑みになったリディオに向けられたのは、永久凍土のような冷たさの、表情の削げ落ちたジュリアの顔だった。



「貴方が私の話を聞いた事が有りますか?」

 抑揚の無い静かな声だった。

「婚約者として、一緒に過ごした事が有りますか?」

 それは怒りなどでは無く、ただの確認だった。


「それは!貧乏だと誤解していたからだ!」

 リディオの言い分に、ジュリアより周りが殺気立つ。

「相手が貧乏だったら、ないがしろにして良いと?」

 淡々と質問するジュリアに、リディオは怒っていないのだと安心して話を続ける。


「そもそも伯爵家と子爵家で家格が違う上に、相手が貧乏だったら結婚する利点など無いだろ?」

 言っている事は、貴族として間違ってはいない。

「ですが、既に婚約は結ばれていたのですよ?」

 ジュリアの問いに、リディオは鼻で笑う。

「だから婚約破棄をせずに、我慢してやってたんだ。まぁ、俺の勘違いだったから、そこは別に良い」



「何様よ」

 ジュリアに制止されていなければ、多分ビビアナは殴り掛かっていただろう。

 周りの野次馬の中にも、アンドレオッティ大財閥関係者は多数いる。

 皆、ビビアナと同じ気持ちに違い無い。


「これからは一緒に過ごしてやるし、昼も一緒に食べてやる。婚約破棄の書類は一昨日届いたんだ。俺は破棄になった事を昨日知ったんだよ」


「だからなんです?」


「お前と婚約を結び直してやるって言ってるんだ。俺がお前の家が貧乏だと誤解していたから、婚約破棄したんだろう?お前が望んだ婚約じゃないか!戻れて嬉しいだろう?」

 リディオは、なぜか得意気に言い放った。



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