27:前向き過ぎる男

 



 婚約破棄と、アンドレオッティ子爵家の事実を知ったリディオは、寮に戻って来ていた。

 夕食もしっかりと食べ、湯浴みも済ませて、今はベッドの中である。

「アンドレオッティ大財閥か……」

 リディオは、どこか夢見心地で呟く。


「まずは明日、教室まで行って貧乏人と言った事を謝ろう」

 天井に向けて開いた五本指の親指を折る。

「次に婚約破棄の書類がこちらに届いたばかりだと説明しよう」

 次に人差し指を折る。これで2つ。

「そして、もう一度婚約を結びなおす提案だな」

 中指を折り曲げた。


「あの女が俺に一目惚れして結ばれた婚約だからな!謝ってちょっと優しくしてやれば、またすぐに婚約だ!」

 残りの二本の指を折り曲げたリディオは、拳を握り天井へと突き上げた。




 リディオは、父親と同じ……いや、それ以上に酷い勘違いをしていた。

 父親のドメニコは『婚約の打診をしたら、顔合わせでジュリアがリディオを気に入った』と思っていた。

 リディオは『ジュリアの希望で、アンドレオッティ子爵家が婚約を申込んで来た』と思い込んでいた。


 自分に惚れているジュリアは、今は拗ねているだけで、謝れば全て許してくれると、本気で思っていた。



 これからは、婚約者として昼食を一緒に食べてやろう。

 あっちは大財閥なんだから、金を払うのは当然あの女だ。

 今までも一緒に食べてやれば良かった。

 そんな自分勝手な事を考え、リディオはベッドの中でニヤニヤしていた。


 そこで、ふと気付いた。

「あの女の名前は何だ?ジュリエット?ジュリエッタ?」

 リディオは、婚約者であったジュリアの名前も真面に覚えていなかった。

「まぁ良いか。ジュリが付くのは確かだから、愛称のジュリーで」


 せめてここで父親からの手紙を確認し、名前を確かめる程度の常識があれば良かったのだが、貴族の教育を受けていない上に、元々の性質が短慮たんりょだった。





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