26:真実を知る時 後編

 



「婚約破棄の取り消しを」

 リディオが訴えるが、ドメニコは首を振る。

「異議申し立て期間の3ヶ月は過ぎている。例え過ぎていなくても、間違い無く棄却ききゃくされているだろう」


「学園での交流は、アイツの方から来なかったのが悪い!」

 ドメニコはバーバラを一度睨み付けてから、リディオを見つめた。

「女性側から男性へ積極的に行くのは、はしたないとされている。婚約者が相手でもだ。そんな事は、子供の頃の家庭教師に習っているだろう?」


 リディオは、バーバラを見つめたまま口を開く。

「家庭教師とは、俺に本を渡してどこかへ行ってしまっていたあの男の事ですか?」

 リディオは、最低限必要な貴族のルールも習っていなかった。

 幼い子供が、渡された難しい本を読むはずなど無いのだから。



 ラッザロの家庭教師は、正妻だったバーバラが雇った初老の男性だったので、バーバラの毒牙にかからず、ちゃんとした教育を施せたのだろう。

 ラッザロはバーバラを嫌悪し、学園を卒業した後もサンテデスキ伯爵邸には帰って来ていない。


 何かとリディオを気に掛けていたラッザロも、リディオの「汚らわしい」発言の後は、一切関わらなくなった。

 見限ったのだろう。

 この頃はまだ、ラッザロも成人前の子供である。

 弟を見限った事を、責める事は出来ない。




「アンドレオッティ子爵家が大財閥だと知らなかったのか……」

 ドメニコが頭を抱える。

 その時、開け放たれたままの扉をノックする音が部屋に響いた。

 全員の視線が、手紙を持った執事へと向く。


「貴族院からお手紙でございます」

 恭しく差し出された手紙の宛名は、リディオ・サンテデスキとなっていた。

 貴族院とは、貴族同士の揉め事などを第三者の立場で判断し、裁く場所である。


「そういえばあの女に、法的に訴えると言われた」

 受け取った手紙を手に、リディオは震える。

「何をしたんだ!?」

 ドメニコはリディオの手から手紙を奪い、執事から渡されたペーパーナイフで封を開ける。



 勝手に婚約者を名乗った事への詐欺罪。

 公衆の面前で娼婦呼ばわりした事への名誉毀損罪。

 2つの罪で、リディオはジュリアに訴えられていた。



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