24:真実を知る時 前編

 



「入学式にエスコートしていない?」

 邸に戻って来たリディオに話を聞いたドメニコは、信じられないモノを見るように息子を見つめた。

 馬車まで手配しておいたのに、寝坊して迎えに行かなかったと言うのだ。


「勿論、翌日ジュリア嬢に謝ったのだろう?」

「はぁ?何で伯爵家の俺が、子爵家のアイツに謝るんですか?」

 本気でそう思っているのだろう。

 リディオの顔には嫌悪が滲んでいる。


「学園では、ちゃんと婚約者として交流していたのだよな?」

 ドメニコが問うと、リディオは「当たり前です」と胸を張る。

 ホッとしたのも束の間、その内容を聞いてドメニコは目の前が真っ暗になった。


「アイツは貧乏だからと、恥ずかしげもなく同級の格上貴族に昼食をたかってたので、婚約者として注意してやりました!」

「お前は、何を言って……?」


 リディオがニヤリと笑う。

「貧乏なら、人にたからず昼食を我慢しろと言ってやりましたよ!躾です」

 本気で言っているのは、その表情で判った。

 根本的に間違っている事にリディオが気付いていないのだと、この時初めてドメニコは知った。



「婚約者と昼食を共にしていなかった、という事だね」

 ドメニコは小さく呟く。

「当たり前です!貧乏人と一緒にいたら、全部払ってやらなきゃいけないじゃないですか!勿体無い」

 リディオの狭量に、ドメニコは悲しくなった。

 そもそも相手が貧乏だろうが関係無く、婚約者の食事代を男性側が出すのは、貴族としての当然のマナーだった。


 相手がアンドレオッティ大財閥ほどの金持ちになれば、また話は別だろうが。

 そう、そこで既に違うのだ。


「アンドレオッティ子爵家は、貧乏では無い」

 ドメニコの言葉に、リディオは馬鹿にしたように笑う。

「父上!庇ってやる必要は無いですよ!だって、あんな小さなタウンハウスしか建てられない家ですよ?」

「は?」

 これ以上驚く事は無いと思っていたのに、ドメニコは目を見開いて驚いた。



「タウンハウスの大きさは、爵位で決まっている。そんな事も知らないのか?だから他の事にお金を掛けるんだ。アンドレオッティ子爵家は、おそらく王都内一の金が掛けられたタウンハウスだ」

 あまりにも何も知らない息子に、ドメニコの不安は最高潮に達する。


 その時、ノックもせずに扉が開かれた。

「ねぇ、ドメニコ~。ドレスを買いに行ったら、お店に「前の支払いが済んでから」って断られたわよ!どうなってんの?」

 バーバラだった。



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