22:良い事じゃないか! sideリディオ

 



 授業を受ける気にもなれず、俺は寮の自室へと戻って来ていた。

 受付で止められる事も無く部屋まで戻れたのは、俺の顔色がそれだけ悪いという事だろう。

 制服も脱がず、ベッドに倒れ込む。


 あの女は、俺を法的に訴えるとまで言っていた。

 そこまで言うのだから、本当に婚約破棄になっているのかもしれない。


 自己主張もしない、おとなしいと言うか内向的な女だと思っていた。

 結婚しても楽しく無さそうだし、貧乏子爵家は正直嫌だが、最近では平民になるよりは良いかと思い始めていた。



 コンコン。


 扉をノックする音がする。

 何か手紙が届いていたようだな。

 ベッドからノソノソと起き上がり、扉を開けた。

「必ず直接手渡すようにとの事なので、ここへ受け取りのサインをお願いします」

 受取表と書かれた紙に自分の名前が有り、その横に線が引いてあった。

 前の人に習い、線の所にサインをする。


「では、こちらです」

 サンテデスキ伯爵家の封蝋の押された手紙を渡された。

「これは……」

 顔を上げると、もう目の前には誰も居なかった。

 扉を閉め、机に向かう。


 引き出しからペーパーナイフを取り出し、封を切った。

 手が震える。

 嫌な予感がしたからだ。



『ジュリア・アンドレオッティ子爵令嬢との婚約が、こちらの有責で破棄されていた。

 婚約者としての義務も果たさず、暴言と暴力が理由との事だった。


 至急、戻り説明するように。


   ドメニコ・サンテデスキ』



 嫌な予感は、大抵当たるんだ!

 何だよ婚約者の義務って。

 学生だから夜会にエスコートなんて出来ないし、恥ずかしく無いように躾ならしてやっただろ?


 貧乏人が身の程も知らずに振る舞う事は、貴族としてとても恥ずかしい事だ。

 子爵家が辺境伯の娘と仲が良いらしいのも烏滸おこがましいが、昼食をたかるなどもってのほかだ。

 それをしっかりと教えてやっただろ?


 伯爵家の俺に礼を尽くさないのも問題なのに、そこは不問にしてやっていたんだ。

 婚約者だからな!

 それで充分だろう?




 途中で馬車を拾い、実家に急いで向かった。

 俺の顔を見て、執事やメイドが顔をしかめる。

 久しぶりに帰って来た当主の息子に対して失礼だろう?


 それに馬車の中で気が付いたんだ。

 俺は正妻の子で、兄のラッザロは愛人の子だ。

 婚約も無くなった事だし、俺がサンテデスキ伯爵家を継いで、ラッザロがどこかに婿に行くべきなんだ。

 今日は、その話もしよう。


 アイツ等は母が愛人だと言っていたが、それならばなぜ、ラッザロの母親は一緒に住んでいない?

 おかしいだろう?

 母は、俺が物心付いた時から一緒に暮らしているんだからな。



「リディオ・サンテデスキ。只今戻りました」

 俺は父の居る執務室の扉を開けた。



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