20:追い詰める

 



「あら?バーバラ様なら、私、パーティーでお会いしましたわ。でもお家はシャッリーノ伯爵でしたわね」

 ジュリアが首を傾げる。

「ジュリアの誕生日には、離縁出来たから参加したと笑顔で話しているのを見たよ」

 ノルベルトの説明に、ジュリアは納得した。


 サンテデスキ伯爵家と関係が有るなら、ジュリアの誕生日パーティーに参加出来るわけがないのだ。


「そちらは、元正妻のバーバラ様。今、サンテデスキ伯爵家に居るのが、愛人のバーバラ男爵令嬢。伯爵夫人のフリをして、娼婦のように貢がせている毒婦だね」

 ミケーレがノルベルトの説明を補足した。



母上を愚弄するな!今屋敷に居るのが正妻で、俺の母だ!離婚した方が愛人で、ラッザロ長男の母だ!」

 リディオは、かなりの大声で叫んだ。

 何事かと周りに集まっていた生徒だけでなく、通り過ぎようとした生徒も、思わず足を止める程の大声だった。


 ミケーレがニヤリと笑う。

 それほど血は近くないはずなのに、自分の父親の悪い笑顔とそっくりだな、とジュリアは一人、ほっこりとしていた。



「君は、今、家に居るバーバラ様の子供だと、そう言うんだな?」

 ゆっくりと聞き取りやすく、ミケーレはリディオに確認する。

「しつこいぞ!俺は正妻の子だ!」

 ミケーレはリディオの返事を聞いて、チッと小さく舌打ちする。


「聞き方を変えよう。今、サンテデスキ伯爵邸に居るのが、正妻だと君は言うんだな?」

「何度もそう言っている!今居るのが俺の母で、正妻だと!」


 ミケーレとノルベルトは、大袈裟に、大声で、リディオを嘲笑った。

「君はおかしな事を言うね。結婚をしていないから愛人と言うのだよ」

「離婚をしたと言う事は、結婚をしていたんだろ?そちらが正妻だ」


「では、ラッザロ様のお母様のバーバラ・シャッリーノ伯爵令嬢が、正妻だったという事ですね!」

 両手をパンと胸の前で打ち、ジュリアが言う。

 ジュリアは謎が解けて嬉しかっただけなのだが、リディオを追い詰めるのを後押ししていた。



「お前!婚約者なら俺に味方するべきだろう!」

 リディオがジュリアを指差し叫んだ。


 ジュリアの顔から笑顔が消えた。

 今まで見た事の無い冷たい表情を、リディオに向ける。


「いつまで私の婚約者だといつわるのです。これ以上は看過かんか出来ません。法的手段に訴えさせていただきますね」


 表情以上に冷たい声が、リディオをその場にくずおれさせた。



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