06:入学式当日

 



 ジュリアの学園入学当日、屋敷の前に公爵家の馬車が停まり、学園の制服に身を包んだ美丈夫が降りて来た。

「おはようございます」

 にこやかに挨拶をしてきたのは、アンドレオッティ子爵家の分家筋に当たるパウジーニ公爵家のミケーレである。

 彼は学園の3年生に在席していた。


「今日は我らが姫をエスコートしようと思いまして」

 ジュリアに手を差し出す様は、完璧な紳士だ。

「でも、サーラお姉様に悪いわ」

 ジュリアはミケーレの手を取らず、戸惑いを浮かべる。

 サーラとは、ミケーレの婚約者である侯爵令嬢である。


「婚約者がいるからこそ、私が選ばれたのですよ。サーラからもしっかり守るように言われてます」

 ミケーレが爽やかに笑う。

 エスコートをしても親戚だからと周りを納得させられて、婚約者がいるので誤解もされない。

 公爵家令息なので、不埒な輩を牽制するのにも良いだろう。


「ミケーレ殿にお願いしようか」

 父であるカルミネが了承してしまったら、ジュリアは頷くしかない。

「はい。宜しくお願いします、ミケーレお兄様」

 ミケーレの手を取り、ジュリアは学園へと向かった。



 ジュリアとミケーレを見送ったアンドレオッティ子爵家玄関では、馬車が見えなくなった瞬間に、見送っていた全員の顔から表情が消えた。

 両親は勿論の事、執事だけでなく侍女もメイドもフットマンも全てである。


「まさか、婚約者のくせに入学式にも迎えに来ないとはな」

 カルミネが呆れた声で呟く。

「きっとサンテデスキ伯爵に問い合わせても「寮に入ってるから」とか言い訳するのでしょうね」

 ジュリアの母親であるマリアンナも、夫と同じような声を出した。




 学園に到着し、ミケーレにエスコートされながら馬車を降りたジュリアは、皆からの注目の的だった。

 ミケーレ公爵令息がエスコートしているせいもあるが、アンドレオッティ子爵令嬢だからというのもあった。


 高位、下位関係無く、後継者教育を受ける者が最初にする事は、アンドレオッティについて学ぶ事だ。

 まかり間違って敵認定されてしまったら、自分だけでなく家ごと潰されてしまうだろうからだ。


「ミケーレお兄様、後でサーラお姉様にもお会いできますか?お礼を申し上げたいの」

 ジュリアが横のミケーレを見上げる。

「勿論!サーラも喜ぶよ。他の皆も会いたがっていたから、サロンで少しお茶してから帰るかい?親戚全員だと多過ぎるから、外戚系はやめとくか」

 予定をツラツラと話すミケーレを、ジュリアは不思議そうに見上げる。


「そんなに多いのですか?」

「多いね~。例えば、ジュリア嬢はお祖母様の姉妹の嫁ぎ先までは知らないだろうけど、アンドレオッティ財閥には含まれてるんだよ」

「辺境にある貿易会社と隣国の製糸会社ですか?」

「お!知ってたか!辺境の娘がジュリア嬢と同い年だよ。それに、もっと遠い親戚もいるからね」


 財閥に含まれる会社までは頑張って覚えたジュリアだが、そこの家族関係まではまだ知らされていない。

「今日は、ミケーレお兄様にお任せしますわ」

 頼りになる親戚に、全てを任せる事にしたジュリアだった。



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