05:顔合わせ sideジュリア

 



 サンテデスキ伯爵家のリディオ様は、アンドレオッティ邸に来た時から、ずっと不機嫌でした。

 馬車から降りて屋敷を見上げ、態とらしく大きな溜め息を吐いてました。

 現在国内で建てられる最高の技術と材料を使って建てられたタウンハウスです。

 商談にも使われるので、一切の手抜きはありません。


 何の溜め息でしょうか。

 感嘆の溜め息ならば今まで何度も聞いておりますが、明らかにそれとは違いました。


 エントランスホールに入って来て周りを見回して、今度は舌打ちされました。

 両親は伯爵ご夫妻を会話していて気付いておりませんが、他人の家に招かれて舌打ちするこの方は大丈夫なのでしょうか?

 常識を疑ってしまいます。


「小さい家だな」

 応接室まで向かう途中でも、まだ我が邸を貶します。

 この方には貴族としての知識が無いのでしょうか?

 タウンハウスの大きさは、爵位で決まっておりますのに。



 サンテデスキ伯爵であるおじ様には、小さい頃からお会いしていました。

 お調子者で、姑息な方という印象があります。

 子育てもそうなのでしょうか?


 そもそも私とこのリディオ様の婚約も、斜陽な領地経営の一時凌ぎで結ばれた感が強いです。

 主な産業がアンドレオッティ財閥の下請け業しかないのですから、発展のしようもないですわよね。



 リディオ様はまともな挨拶もされず、ずっと無礼な態度を取り続けていました。

 それも「思春期だから」で済ませられてしまいました。

 サンテデスキ伯爵家の姑息な所がよく出ておりますわね。


 婚約は、公表せずに書面だけ交わす事になりました。

 そして、リディオ様が不貞行為をされた場合、問答無用で婚約破棄になる事も契約書には書かれております。

 婿入り前提ですから当たり前ですね。


 更に、アンドレオッティ子爵家がリディオ様を当家に相応しくないと判断した場合も、婚約は解消されます。

 この一文は、本日リディオ様とお会いしてから追加されました。



 リディオ様は、私と、私の両親からの信頼を得て、婚約を継続する事は出来るのでしょうか?

 今のリディオ様とは、正直、婚約者としての交流もしたくありません。


 本当に照れているだけで、実は優しい人である事を願いましょう。



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