第5話 最後の贈り物

先生との練習もかなりこなしたある日の事。


いつものように先生の元に向かう。

すると、先生は少し焦っている様子だった。


「おはようございます」

「シロナ君。ちょっと大変かもしれない」

「何かあったんですか?」


珍しいな先生が焦っているなんて。

いつも冷静な先生には珍しい顔だ。


「実は今この街の近くに盗賊団がいるらしい」

「なるほど……それで?」

「その盗賊団の首領がとんでもない強さらしい」

「なるほど……」


先生にそこまで言わせるほどの盗賊がこの世界にいるのか?

俺はブルっと身震いした。


「だからもし戦うことになったら、全力で逃げて欲しい」

「わかりました」

「まぁそんなことにはならないように祈るしかないけどね」

「ですね……」


「じゃあ早速始めるか。今日は草原に出てみよう。そほそろ実戦を交えて方がいいと思うんだ」

「はい!」


そこから2時間ほど草原で魔法の練習をして、終わろうとした時だった。

遠くの方から爆発音が聞こえてきた。


「何の音だ?」

「わからない。とにかく一旦街に戻るぞ」

「はい」


俺達は急いで街に戻った。

その時また爆発音。

これは……魔法か?


「シロナ君!無事かい!?」

「はい!大丈夫です」

「良かった……。一体何があったんだろうな」

「そういえば、盗賊団が近くにいるって……」

「まさか……な……」


いや、でもこのタイミングでこの爆発音ならば盗賊くらいしか可能性がない気もするが。

そうこうしているうちに街の門に着いた。


「よし。じゃあギルドに行ってみようか」

「はい」


俺達はギルドに向かった。


「リコさん。これは……」

「ああ。恐らく盗賊団が攻め込んできたんだろう」

「どうしましょう?」

「ひとまず様子を見てこよう。もしかしたらまだ間に合うかもしれない」

「はい」


俺達はまだギリギリ街の中にいた人達に声をかけながら、走った。


「おい!そこのお前ら止まれ!!」


ギルドに辿り着いたら俺達の目の前にいかにも悪そうな顔をした男が現れた。


「なんだ?」

「なんだ?じゃねぇよ!ここは俺らのアジトだ!出ていけ!盗賊団のボスの俺の言うことだ。聞いておけ」

「アジトだって?どこが?」


このギルドのことか?


「黙れ!死にたくなければ大人しくしろ!」


そう言うと男は剣を抜いて斬りかかってきた。

俺は咄嵯に魔法を唱えた。


「アイシクルランス」


氷の槍が飛んでいき、男の胸に突き刺さった。


「ぐっ……クソガキがァァァァァァァァァ!!!」

「死ね」


俺はファイアソードを使い、首を斬った。


倒れる盗賊のボス。

想像していた通りの強さではなかったな。


盗賊の仲間も先生が始末してくれていたようだった。


「このままここにいたら厄介事に巻き込まれる可能性がある。誰にも目撃されていないうちに家に戻ろう」


俺は先生の言葉に頷いた。


「ただいまー」

「おかえりなさいませ。ご主人様」


メイドが出迎える。


「シロナ様。街で何かあったみたいですがお怪我はありませんか?」

「うん。大丈夫だよ」

「それは良かったです」


「ところでお父様に会えないかな?」

「旦那様なら書斎にいると思います」

「ありがとう」

「いえ。それでは失礼します」


俺は書斎に向かった。

コンコン


「入れ」

「失礼します」


俺はドアを開け、中に入る。


「おお。シロナか」

「はい」


俺は頭を下げた。


「して、今日は何用かね?」

「実は今日街が盗賊に襲われたのです」

「なんと……それで?」

「このシロナが事件を解決しました」

「ほう。流石我が息子だ。素晴らしい。正直四男のお前には期待していなかったが、いい働きだぞ」

「そこでお願いがあるのですが」

「言ってみなさい」

「俺はこのまま冒険者を目指そうと思います。その許可をいただきたいのです」

「ふむ。私は別に構わんと思うが?母さんには話してあるのか?」


母さんや他の兄弟達には皆に話してあることだった。

この家の功績などは全て長男や次男に委ねられている。


だから俺に反対する者はいなかった。


「はい。既に許可を得ています」

「そうか。ならば良いだろう。頑張りなさい」

「はい。頑張らせて頂きます」

「うむ。話は以上だ。下がりなさい」

「はい。失礼します」


俺は部屋を出た。

そして自室に戻り、眠りについた。



翌朝。


いつものように朝ご飯を食べ、準備を整え、家を出る。

すると、いつものように先生がいた。


「おはようございます」

「おはよう。今日だが、君にあるものを渡したいと思っている」


そう言って渡してきたのは腕輪だった。


「魔導王の腕輪さ。古の魔法道具で、この中には数千種類とも言われる魔法が収められている。これがあれば君は私に頼らなくても魔法を練習できるだろう?」


そんなものを俺にくれると言う先生。


「えっと……いいんですか?」

「ああ。君に持っていて欲しい」

「わかりました。大切に使わせて貰います」

「うん。頑張ってくれ」

「はい!」


俺は答えて視線を下に向けて大事に腕輪をアイテムポーチにしまった。


「これで私はもうお役御免、というわけか。冒険者生活頑張ってね。待ってるよ、君が来るのを」

「え?」


俺が顔を上げた時そこに先生はもういなかった。

まるで最初からいなかったかのように消えていた。


「先生?どこへ?」


俺は探し回った。

家中を探し回ったけど何処にもいなかった。


「グリーズ兄さん。リコ先生を知らないか?」

「あ?先生?知らねぇよ。どっかほっつき歩いてんだろ」


そう返してくるけどどこにもいなかった。


「それよりさぁ、我が弟よ」


チョイチョイと俺を手招きしてくるグリーズ兄さんに俺は近寄った。


「俺も魔法使えるようになったんだぜ」


そう言って


「ウィンド!」


とグリーズ兄さんが魔法を唱えた。

すると前にいたメイドのスカートがめくれた。


「ぐ、グリーズ様?!」

「おっと、わりぃわりぃ」


悪びれることも無く謝るグリーズ兄さん。


「ほら、今から俺と一緒にパンチラパラダイスしにいこうぜ」


そう言って誘ってくる兄さんの誘いを断った。


「おいおい。パンチラパラダイスしたくねぇのかよ」


リコ先生はどこかへ行っちゃったみたいだな。


もう俺には自分が必要ないと思ったのかもしれない。

それか何時までも頼っていると俺が成長しないと思い突き放したのかもしれないが。


でも、お礼くらい言わせて欲しかったな。


「先生、俺1人でもやってみせるよ」


俺は先生に貰った腕輪にそう誓うのであった。

明日からは頑張らないとな、練習。


先生が急にいなくなったことを父上に報告すると新しい家庭教師を雇ってくれるようになったが、試用段階で俺の魔法を一目見て逃げ出してしまった。何も教えることなんてないと言って。



そんな日が続いたある日のこと。

普段は冒険者として世界を飛び回っているパージ兄さんが帰ってきた。


「リコの奴が消えたと聞いて帰ってきた、が」


庭で練習していた俺に声をかけてくるパージ兄さんは現在18歳。

飛躍的な成長速度でSランクまで上り詰めた天才剣士。


「シロナ。俺と模擬戦をしろ」

「どうしてさ?」

「俺の都合だ。悪いが全力で叩きのめす」


そう言って何故始まったのかも分からない模擬戦。

俺は負けた。


俺はこの日初めて手加減なしのSランクの実力というものを見た。

俺の全てを見切っているような動きで迫り来る兄さんに追い付けなかった。


「たしかに才能は認めよう。しかしそれだけで生きていけるほどこの世界は甘くない。兄弟としてアドバイスだ。数年、才能に甘えず修行できたらお前は化けるだろう」


そう言って去っていく兄さん。


俺はその日以来一人でも本気で練習した。


時間はある分だけ最大限使う。



【あとがき】

とりあえずこれで修行編は終わりです。


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