第4話 俺には時間がある


次の日の朝、いつものように先生のところに向かうと先生は既にいた。


「先生。おはようございます」

「やあ。シロナ君。今日の調子はどうだい?」

「はい。バッチリですよ」


「それは良かった。私も安心したよ」

「先生のお陰でここまで強くなれました」

「そう言ってもらえるとありがたいよ」


そうしてから先生は今日の練習について口を開いた。


「じゃ、今日は土魔法の練習をしてみようか。土魔法に適正があるのは100万人に1人って言われてるよ。大地に干渉するから本当に限られた人にしかできない。前提として人並み外れた魔力量が必要だ」


100万人に1人か……。


「はい。やってみます」

「うん。頑張ってね」


そう言われたので俺は早速地面に向かって魔力を放出した。

勉強はしてある。土魔法がどんなイメージなのかは何となく理解出来ている。


すると、足元の地面にヒビが入り、隆起しだした。


「うわっ!?」


俺はバランスを失い、転んでしまった。

でも魔力のコントロールが甘くて俺の意思を無視して続こうとしていた魔法を先生が抑えてくれた。


「大丈夫かい?シロナ君」

「はい……すみません……」


先生に迷惑をかけてしまったかな。


「謝ることはないよ。初めてなんだから仕方ないさ」

「でも……」

「気にしないで」

「はい」


そう言われて俺は少し休むことにした。

土魔法、ほんとに難しいな。


今のところうまく使えないようだ。

アドバイスくらいは聞いてみようか。


「あの先生、質問いいですか?」

「もちろんだよ。なんでも聞いとくれ」

「ありがとうございます。えっと、どうすればいいんですかね?」


「んー。そうだねぇ。イメージが大事だと思うんだよ」

「なるほど。具体的にはどんな感じなんでしょうか」


「例えば、火なら炎、水は氷とか、そんなふうに具体的なものを思い浮かべる。土なら盛り上がったり、ひび割れたり、だね」


なるほど、ひび割れたり、か。


「分かりました。やって見ます」

「うん。頑張って」


それから俺はひたすらに土魔法を使い続けた。

しかし、一向に上達する気配はない。


初めのように地面が隆起する気配すらない。


ここでやっとグリーズ兄さんの気持ちが理解出来た。

あの人はこの気持ちを何年も味わってきて、俺が心を折ってしまったんだな……。


「先生、全然ダメです」

「まぁ、焦らないでいこうよ」

「はい」


「それか今日はもう終わりにして、明日また挑戦してみてもいいかもよ。焦ってもいいことなんてないからね。幸い君はまだ12歳。時間なんてまだあるよ」

「そうですね。そうします」


そして俺達は解散することにした。


「今日もありがとうございました」

「こちらこそ。また明日も頑張ろう」

「はい!」


そして俺も家に帰ることにした。

この日の夜、俺は寝ながら必死に強くイメージを持つことにした。

色んな土のイメージを。


次の日、朝起きてすぐに先生の所に向かった。


「先生!おはようございます!」

「おはよう。今日は早いんだね」

「はい!」

「じゃあ早速始めようか」


そこから2時間ほど土魔法の練習をした。


すると、ぼこっと今度は狙った場所がひび割れてくれる。


「おぉ!!それをもっと広げていくイメージだよ」


俺は力をキリキリと込めていきそのひび割れを大きくしていく。

やがて地面はひび割れなんてレベルでは収まらずに裂けていく。


だが、


「力の制御ができない……」


まずい。このままじゃ大きな割れ目がここにできてしまう。

こういう時どうするんだっけ?!そうだ!魔力の供給を止めるんだ!


俺は慌てて魔力の供給をやめるが。

もう遅かった!


「ふぅ……危なかった」


リコ先生がこれ以上地面が避けるのを抑えてくれた。

俺よりも圧倒的に強い魔法を使って。


「それにしても相変わらず凄まじい魔力量だね。普通は力が制御できなくてもこんな風にはならないよ。どちらかと言えば不発に終わるんだ」

「制御出来ずごめんなさい」

「謝らなくていいさ。今は私がいる。今のうちに好きなだけ練習しなよ」


そうしてもう1度同じことをやった。

結果は同じだった。


「やっぱりまだ力の調整が難しいみたいだね。それにしても何度も何度もぱっくり地面を裂けさせようとするのはすごいよ。魔力量だけならSランク冒険者と同じくらいだろうね」

「まだまだ難しいです」

「とりあえず、力の加減をできるようにならないとね」

「頑張ります」

「うん。今日は終わりにしよう。時間を開けたほうが上手くいくこともあるしね」


力の調節か。なかなか難しそうだな。


次の日から毎日のように練習を続けた。

そしてある日のこと、先生がトイレに、と席を外している間のことだった。


「よし。こんなもんかな」


俺は今、魔法で開いたひび割れを元に戻そうしとしていた。

しかし


「あれ?」


おかしい。全く元に戻らないぞ。

魔法を拒絶しているようだ。


「どうしてだ?これじゃあまるで……地面が生きているような……」


そこで俺はある結論に至った。

物に魔力で鑑賞し過ぎると魔物化という現象が起きて魔物が発生してしまうことがある、と。


「まさか……これが魔物化なのか?」


もしそうならこれはやばいかもしれない。

早く先生に伝えないと。


そう思った時、目の前で地面が盛り上がり、ゴーレムが現れた。

初めて見たゴーレムにパニックになった。


「なっ!?」


まずい。

さて、どうしよう。


正直勝てる気がしないが。

その時先生が来てくれた。


「シロナ君!大丈夫かい?」

「はい。大丈夫です」

「そうか。なら私が倒してあげよう」


そういうと先生はファイアソードを構える。

一瞬で間合いに入り込み、斬撃を放つ。


「はあっ!」


すると、見事に真っ二つになった。


「すごい……」


やっぱりまだまだ先生には敵わないな。


「ま、ざっとこんなもんだよ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」


その時ゴーレムの破片が動き出した。


「フリーズ」


俺が唱えると地面ごと凍るゴーレム。


「助けられてしまったね」


やっと、俺は先生のフォローに回れた、見守られるだけの存在ではなくなった。

自分の成長を実感する。


そのあとも俺は先生に見てもらいながらまた、土魔法の練習をしていく。


それから、やっと力の制御ができてきた。

裂け目を自分の意志でコントロールできるようになってきた。


「流石だね。土魔法の地割れは私でも1年はかかったのにこれだけの短期間で習得するなんて。悔しいがこれが才能なんだろうね」


「先生の教え方が上手だからですよ」

「そんなことないよ。それにしてもこの調子だとすぐに追いつかれそうだなぁ」

「そんなことないと思いますけどね」


「いーや、絶対に抜かれるね。まあ、負けるつもりはないんだけどね」

「でもいつかは俺だって絶対に追いつきます」

「楽しみにしてるね」


それからも俺達はずっと練習を続けていた。

やがて俺は土魔法を使えるようになっていった。

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