第30話

 Eランクのウルフダンジョンと、Fランクのゴブリンダンジョンを交互に行き来し、半月ほどが過ぎた頃、クランハウス内の納品窓口で魔石の納品を済ませると五十嵐さんに呼び止められた。


 「あなたたち、ちょっと待ってもらえる?確定申告の書類が完成してるから、確認だけして欲しいの。」


 そう言ってタブレットを3枚差し出され、収支記録の書かれたデータなどを確認するように言われた。


 「あなたたちは、収入がギルドだけだから金額に間違いは無いと思うけど念のためね。まぁ、自分で管理してる冒険者なんて稀なのだけど。」


 収入の記録を見ていくと、魔石の納品代、ポーションの納品代などが書かれており、支出の記録には装備代やメンテナンス代、ネットカフェ代やホテル代などが書かれており、最後に1年間の所得額が書かれていた。


 さらにページをめくっていくと、所得額、控除額が書かれており、最後の課税所得の欄には「0」と書かれていた。


 「なんか、私たちの所得0になってるんですけど…。」


 望月さんが五十嵐さんに質問すると、五十嵐さんが説明してくれた。


 「それは課税所得ね。あなた達の所得額は、収入から経費が引かれたこの金額よ。冒険者はホテル代とかも経費に入っちゃうから、この時点でかなり少なくなるんだけど、そこから基礎控除と申告控除と冒険者控除があって、課税所得が決まるの。この課税所得から所得税が計算されるのよ。」


 「じゃぁ、俺たちは今年の所得税は0ってことですか?」


 「そうなるわね。次はちゃんと税金納められるように頑張って稼いでね♪」


 税金を払わなくていいのは助かるが、この「0」っていう数字を見るといかに稼げていないかがわかるな…。稼いだお金の殆どがホテル代や武器代になっているので、それが経費となっているのもあるが。

 今年はホテル代がなくなったし、Eランクでいい感じに戦えるようになれば収入も増えるはずなので、きっと所得も増えるだろう。


 一通り確認が終わると、最後にサインをして五十嵐さんにタブレットを返却する。あとはギルド側で申告書を提出しておいてくれるらしい。


 「あ、あと東城君はFランクに昇格の連絡がギルド本部から来たわ。おめでとう!」


 「「おめでとう!」」


 「これで私たちと同じランクだね♪」


 「来年は一緒にEランクに上がれるように頑張ろうね!」


 一緒に昇格の話を聞いていた望月さんと南さんもお祝いしてくれた。

 やっぱ仲間がいるっていいなぁと思い、来年は一緒にEランクになれるように頑張ろうと気合が入った。



 そのあとは三人でポーション作りとアイテム作りだ。

 二人も慣れたもので、俺の部屋のクローゼットからスライムゼリー・ポーション瓶を出し、南さんが今日取ってきた薬草を取り出して並べる。そして俺が作ったポーションを箱に詰めていく。完全なライン作業が出来上がっていた。


 一通りポーションを作り終えると、今度はアイテム作りに入った。南さんが木の棒と腰布を取り出し、俺が松明を作り、望月さんが箱詰めする。


  南さんが錆びた短剣と石ころを取り出し、俺がゴブリンダガーを作り、望月さんが箱詰めする。


 ゴブリンのダンジョンに行った日はここまでが一通りの流れになっていて、作り終えると五十嵐さんの所へ持っていき、ポーションと松明は納品され、一部はクラン倉庫へ回される。ゴブリンダガーやゴブリンソードに関しては、武器をメンテナンスに出している間に自分たちで使っている。耐久性も低く、すぐに悪くなってしまうのでほぼ使い捨てだ。


 アイテムの納品が終わり、空箱を持って部屋へ帰ろうとすると、仁さんがやってきた。


 「コウ、うちのメンバーの弓が壊れちまって、作ってもらいたいんだが。お願いできるか?」


 「ごめんなさい、ちょうど今魔力使い切った所で…明日でもいいですか?でも、弓だと俺らの手持ち素材じゃ作れないですよ?」


 「今日大量にスパイダーを狩ってきたから糸はあるんだ。木はコウ達が使い切れてないのがあるだろ?」


 「うーん、Dランクダンジョンの糸にFランクダンジョンの木はちょっと勿体なくないですか…?耐久性のいい物にするなら、ランクの高い素材のがいいと思いますよ?」


 「あぁ、とりあえずは間に合わせでいいんだ。さっき蓮のパーティに頼んで、明日から遠征でトレント狩りに行ってもらうことになったから、本格的なのは蓮が帰ってきてからだな。蓮たちが帰ってくるまで使えればいい。」


 「わかりました。じゃぁ明日の朝作っておきますね。」


 「頼んだ。間に合わせの弓の製作費は持ち込みの糸の分は引かなくていいからな。そのまま弓の値段で請求してくれ。」


 仁さんはそう言って、糸を一巻置いてから亜紀さんの方へと歩いて行った。来月に俺のスキルを育てる為の素材を取りにあちこちへ遠征に行くらしく、これからその準備を亜紀さんするんだとか。


 スキルレベルは高くなれば上がりにくくなるので、出来るだけ様々な種類のアイテムを作り、どんな種類の物でも低い魔力消費で作れるようになるのが理想らしい。


 仁さん曰く、俺が最初に獲得した「2個同時作製」はいい物だそうだ。消耗品を沢山作るときは時短になるし、魔力消費が奇数のアイテムの時に2個同時に作れば魔力の無駄が無くなると言っていた。


 そして、うちのクランのパーティーは地味に消耗品を使うことが多いらしく、いずれは色々量産して欲しいとのことだ。


 言われてみれば仁さん達はダンジョンの性質上、松明、麻痺治し、解毒ポーションをよく持っていくし、亜紀さん達は亜紀さん以外の3人が魔法職なので魔力ポーションをよく持っていく。蓮さん達はポーション以外はあまり消耗品を使ってるイメージはないけど、何かを使っているんだろうか?


 来月からクラン総出で素材集めをするらしいので、俺もレベルを上げて魔力総量を増やしていかないと、捌ききれなくなるだろう…。

 俺の魔力量が増えるのが早いか、クランの倉庫が素材まみれになるのが早いか。あの人たちが本気になったら、素材を集めるスピードのが圧倒的に早いだろうなと頭を抱えそうになったが、作れば作るだけ稼ぎは増えるのでありがたい悲鳴でもある。

 まずはEランクダンジョンの上昇上限のレベル20を目指していこう。


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