第6話「底辺の冒険者 side:五十嵐 由紀」

「あ~~っ!もうっ!!なんなのあの雑魚冒険者はっ!」


職場の休憩室で荒れに荒れているのは、隣の3番窓口職員の一味さん。新しく冒険者登録した男の子が、毎日大量のスライムゼリーを持ってくるとかで文句を言っている。


「まぁまぁ、落ち着いて。でもあの量を毎日は非常識よね~。」


周りの職員たちもなだめつつも彼女の意見に同意しているようだった。

私たちのお給料は基本給+成果報酬で、生産性が高ければお給料が増える仕組み。

なので、高額のアイテムや魔石を多く取り扱う窓口の職員はお給料が高いし、安い物が多いとお給料が減ってしまう。


今回の場合は数が多いことで残業になり、時間当たりの生産性が下がってしまうことに文句を言っているようね。残業代は出るけど、下がってしまう生産性と釣り合いが合わないのね。スライムゼリーだし。


(まぁ、気持ちは分からなくないんだけどねぇ。自分の暇な時間を教えてそこで来てもらえばいいのに。)


そんなふうに思いながらも、別の窓口だし関係ないので関わらないようにさっさと帰ったのだけど、数日後に彼女の怒りが爆発していた。



ある日の夕方、そろそろ担当の冒険者達がいつも帰ってくる時間が近くなってきたので、窓口で準備を始めていると隣の窓口でなにか揉めている感じだった。



「本当すみません。これからはゼリー以外も納品できるので…。」


「いえ、結構です!スライムダンジョンですし、どうせ薬草でしょう?また手間が増えるだけじゃないですか、質が悪い!もうこの窓口には来ないで下さいっ!」



(あぁ、一味さんそれはダメでしょうに…)



納品を拒否された男の子は、窓口から少し離れた所でポツンと立ち尽くしてしまっていた。他に誰も声を掛ける様子もないし、見ていて可哀そうだったので私が声をかけてみると、パッと顔を明るくしてこっちに小走りで向かってきた。



「五十嵐 由紀よ。よろしくね。それにしてもすごい言われようだったわね。」


「東城 幸です。よろしくお願いします。やっぱりこの量は非常識だったでしょうか?」



どうやら、本人もこの量に関しては思うところがあったようね。ただ、売らないことには東城君も生活出来ないし仕方がないのか。


数が多いし持ってくるタイミングだけ注意して欲しい事を伝えてあげると、今日また持ってきてもいいかを聞いてきたので、この後の冒険者たちを捌き終わったぐらいの時間を伝えてあげると、本当にその時間に納品に来てくれた。


そして、今回持ってきたのは下級ポーション。ポーション作成スキルを持っているのかとおもったけど、まさかのクラフトスキル持ちだった。クラフトスキル持ちは重宝されるって聞いてたけど、何でソロでスライム狩り?と思っていたら、担当変更手続きをしたときにその謎が判明した。



「えっ、ステータス低っ!」



つい声がでちゃったけど、このステータスじゃ他の同期から敬遠されるのもわかるわね。

基本のステータスも、レベルアップの上昇値もほぼ最底辺レベル。これでは最初はなんとかなっても、難易度の高いダンジョンにはついていけなくなる。だから一人だったのね。


それから東城君は朝と夜にポーションの納品に来て、日当り4000〜5000円ぐらい稼げている感じだったわ。


だけど、数日後には…


「五十嵐さん!見てください!新しいレシピを見つけましたっ!」


「えっ!?エーテルに麻痺治し、解毒ポーションもあるじゃない!」


これには正直驚きを隠せなかったわね。それから買い取り額も増えて行って、東城君も順調にお金を貯めて行ってたみたい。


途中で上の階のネットカフェから苦情がきたり、東城君が追い出されたりしていたみたいだけど、その頃には日当り1万円越えてたから隣のホテルに移れたみたいだった。


4月も終わりに近づいてきたころ、革の防具に鉄の剣を買った東城君が窓口にきてFランクダンジョンについて聞いてきたので、少し思っていたことを言ってみた。


「東城君、ずっとスライム倒してるしスライムキラー狙ってみたらどうかしら?」


称号の事やステータスアップの恩恵を教えてあげると、「スライム狩ってきますっ!」と勢いよく出て行く。


(まぁ、1ヵ月で1万匹なんてなかなかクリアできないんだけどね。)


そう思いながら見送ったのに、4月末に「スライムキラー取れました!」と帰ってきたのはびっくりしたわねぇ。


彼、いい仲間さえ見つかればもっと活躍できそうね。




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