第15話 公平な神判
神判所は、アーダルベルト伯爵邸の裏側に建てられた教会のような建物である。神判所の中は、奥に3つの席が用意されていて、真ん中の大きな椅子にアーダルベルト伯爵が座り、となりの二つの席に執事の私と執行官とよばれる兵士が座る。神判所の中心には円形の大理石の舞台がありそこに被告人が全裸で十字の板に縛られている。円形の台の左右に被告人の座るイスが用意されて、入り口付近には関係者席が設けられている。
「アルカナちゃん、今日は最悪な結果になりそうです・・・」
ロリポップの顔が急に青ざめた。それは、アーダルベルト伯爵が座る予定の席にクローヴィス兵士長が座っていて、そのとなりにハーロルト子爵が座っていたのである。クローヴィス兵士長は、アーダルベルト伯爵をみると席を立たずに大声をあげた。
※ クローヴィス・バーンスティール子爵 50歳 髪型 白髪の長い髪を後ろで束ねている。顎にも白髪の長い髭を生やしている。眼光は鋭く目は真っ赤に充血している。体つきは50歳とは思えないほど筋肉質であり熊のような体系である。
「伯爵様、勝手なことをされては困りますな。ハーロルト子爵はブラートフィッシュ家からお預かりした大事なご子息様です。彼を首にしてしまったら、私の面目がつぶれてしまいます。今すぐに撤回しなさい!」
「それはできません」
「私の言う事が聞けないのですか?私はあなたの父上であるクライファート様からあなたの面倒をみるように頼まれました。残念ながらあなたには、この町を治める資質がありません。なので、代わりにわたしがこの町を治めているのです。でも、いつまでも私が治めるわけにはいきませんので、私の後任としてハーロルト子爵に着て頂いたのです。それを理解していないのですか?」
「私には町を治める資質はないのかもしれません。なので、アルカナさんにその手伝いをしてもらうことにしたのです」
「伯爵様、そんな小娘に何ができるというのでしょうか?茶番はその辺にしておいてください。伯爵様がその娘が気に入ったのなら好きにしてください。しかし、町の管理はハーロルト子爵に任せるのです」
「それはできません」
「だまれ!おまえはいつものように人形のように座っておけばいいのだ」
クローヴィス兵士長の気迫のある赤い瞳でにらまれたアーダルベルト伯爵は、無機質の人形のように何も言い返すことが出来なくなった。
「神判をはじめるぞ」
クローヴィス兵士長の一声で神判が始まった。
ブルクハルト騎士とクリスハルト騎士が円形の台の左右に座り、ダニエルが全裸で十字の台に縛られている。
「わたしは何もしていません。なぜ?このような仕打ちをうけるのですか?」
ダニエルは大粒の涙を流しながら訴える。この案件は二人の騎士が勝手に平民の女性を好きになり勝手に愛人にしようと争っているだけなので、ダニエルには全く非がない。
「ハーロルト子爵様、あの女を最初に見つけたのは私です。なので、私に所有権があるとおもいます」
「待ってくださいハーロルト子爵様、これを受け取ってください」
クリスハルト騎士は兵士に大金を手渡した。
「私はお金などで神判を下すおろかな者ではないが、せっかくのご好意を無駄にするのも情けを欠く行為になるので受け取ることにしよう。今回は非常に難しい案件だ。しかし、私が神に代わって公平かつ正当な神判を行う」
ハーロルト子爵は1分ほど考えるふりをする。
「神判が決まった!二人の騎士の熱い思いを考慮してダニエルを真っ二つに切り裂いて二等分しろ」
「御意!」
執行官が席から立ち上がり大きな斧を持って大理石の円台にあがる。
「いやぁ~、やめて・・・」
執行官は大きな斧を振り落としてダニエルを真っ二つにした。白の大理石の円台はダニエルの血で真っ赤に染まる。
「公平な判断ありがとうございます」
「良い判断です」
二人の騎士は笑みを浮かべてハーロルト子爵にお礼を言った。
円台は真っ二つにされたダニエルの死体が転がった状態で次の神判がはじまった。2つ目は平民奴隷を無断で家畜所から盗んだエーレンフリート子爵の案件だが、その場で死刑となった。町の資源を盗むのは大罪であると判断されたのである。3っ目の髭のおっさんも4っ目のアーダルベルト邸でおしっこを漏らした平民も死刑になって、神判は終了した。
神判所は、4人の生臭い血の匂いと転がっている残酷な死体で吐き気がするほど異様な雰囲気であるが、クローヴィス子爵たちは笑みを浮かべて楽しそうであった。アーダルベルト伯爵は、最初に見た時の印象のようにまったく感情のない抜け殻のような目でずっと神判をみていた。
「神判は終わりました。伯爵様、書類に判をおしてください」
神判所の判決に、アーダルベルト伯爵がサインを押すことによって、すべての責任がアーダルベルト伯爵のものとなる。こうして、失感情伯爵と呼ばれる冷酷で残忍なイメージが作られるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます