第16話 傀儡
「伯爵様、サインを押す必要はありません。神判を下したのはハーロルト子爵です」
私は無機質にサインをしよとしたアーダルベルト伯爵の手を止めさした。
「邪魔をしないでくださいアルカナさん」
クローヴィス兵士長の体から真っ黒のオーラが発生し私の体を覆い尽くした。この黒いオーラは私にしか見えていない。私は咄嗟に光のオーラを発して防御体制を張って、黒のオーラを通じてクローヴィス兵士長を診断した。
私の診断スキルは、誰でも簡単に診断することはできない。診断するには相手を触れ続けなければいけない。一瞬でも相手との接触を遮断されれば診断は中止される。今回は黒のオーラが私の光のオーラに接触をしているので診断が可能なのである。
クローヴィス・ヴァーンスティール子爵(50歳) 身長190cm 体重120kg 『称号 傀儡師 Sランク 』 スキル傀儡 見えない黒いオーラを発生させ相手の体に侵入させて相手を洗脳させる。洗脳期間は1時間程度。傀儡は黒魔法であるので白魔法『治癒魔法』で効果を無効化できるが、Sランク相当の白魔法使いである必要がある。スキル傀儡V 2 口移しで他者に黒い塊を押し込むことで他者の体を強化して傀儡する事ができる。白魔法で効果を消す事はできない。
私の診断のスキルは私の望む情報を相手から抜き出すことができる。しかし、一回に抜き出せる情報量は限られている。
今回はクローヴィス兵士長の黒のオーラの正体を知りたかったので、このような診断になったのである。
「伯爵様、サインをしてはいけません」
私はアーダルベルト伯爵に光のオーラを放って傀儡のスキルを無効化した。アーダルベルト伯爵はサインを押す手を止めて正気に戻った。
「何をしている!すぐに書類にサインをするのだ」
クローヴィス兵士長は黒のオーラをアーダルベルト伯爵に放つが、私の光のオーラがアーダルベルト伯爵を守っているので傀儡のスキルが発動できない。
「このような書類にサインをすることはできません。神判所の裁決をするのは私の権限です。私に無断で4名の人間を殺した罪であなた方2人を拘束します」
「待て!なぜ俺の傀儡が効かないのだ・・・」
「傀儡?どういうことですか?クローヴィス」
「いや、違う。4人を殺したのは俺じゃない。ハーロルトだ。俺は何もしていないぞ」
「そんな・・・私はクローヴィス様の命に従っただけです」
「人のせいにするな!お前が勝手に神判したのだろ。ここにいる全員がお前が1人でやったことを証明するはずだ」
「お見苦しいですよ、クローヴィス。兵士さん、2人を牢屋に閉じ込めておいてください」
「ふざけるな!俺がいたからお前は平和に暮らすことができたのだぞ。俺がいなくなればどうなるかわかっているのか」
クローヴィス兵士長は大声を張り上げて騒ぐが兵士に取り押さえられて牢屋に連行されていく。
「私はどうしてあのような男の言いなりになっていたのでしょうか?」
アーダルベルト伯爵が私の方を見て呟いた。
「おそらくは洗脳のような魔法を使っていたのでしょう。私は治癒学の勉強をしていましたので、多少の知識はあります」
私のスキルを知られるわけにはいかないので、最小限の内容だけ教えることにした。私はソルシエールをはめた犯人を見つけるためにアーダルベルト伯爵に近づいた。しかし、アーダルベルト伯爵でなくクローヴィス兵士長のが何か事情を把握しているのではないかと考えていた。
「洗脳魔法ですか・・・詳しく教えてもらえないでしょうか?」
「いえ、まだ憶測の段階なので、きちんと裏が取れてから説明したいと思います。なので、クローヴィス兵士長の取り調べをさせてもらえないでしょうか?もし、彼が洗脳魔法が得意であれば、すぐに兵士を洗脳して屋敷から逃げ出す恐れもありますので」
「わかりました。後の処理は私の方でしますので、アルカナさんはすぐにクローヴィスの元へ向かってください。ロリポップ、あなたはアルカナさんの警護をお願いします。代わりにカルリーヌさんが私のお手伝いをしてください」
「わかりました」
「わかりました」
私はできるだけ1人で行動をしたかったが、変に怪しまれるのも面倒なのでロリポップと一緒に牢屋に向かうことにした。
「アルカナちゃん、あなたは何者なの?クローヴィスの支配下にあった伯爵様を意図も簡単に解放してくれたわ。どんな魔法を使ったの?」
「私はただの治癒師です。しかし、治癒学の知識には精通していますので、上手く洗脳を解除することが出来たのです」
「本当にすごいわ」
「偶然です。次はうまく行くかはわかりませんので気をつけてください」
私の予想ではクローヴィス兵士長は傀儡を使用して屋敷から出ることはしていないはずである。クローヴィス兵士長が本気を出せば、あの場にいた全員を傀儡して逃げ出すことは可能であった。しかし、私とアーダルベルト伯爵に傀儡が通用しなかったことで、危機を感じ傀儡をするのを躊躇ったはずである。だから、おとなしく牢屋に連行されて次の策を講じる時間を設けることにしたのであろうと私は考えていた。
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