第14話 神判所
「アルカナちゃん。あなたのお仕事を簡単に説明します。伯爵の執事ということは、この屋敷では3番目に高い地位に就任したと思ってください。1番はもちろん伯爵様ですが、2番目は兵士長のクローヴィス子爵です。彼には気をつけてください。実質この屋敷を裏で支配しているのはクローヴィス子爵です」
「私にそのような情報を言っても良かったのですか?」
「アルカナちゃんは、初めて伯爵様が関心を示した貴重な存在です。伯爵様をひどく言う方はたくさんいらっしゃいますが、そのような人物像に仕上げたのはクローヴィス子爵です。本当は伯爵様は誠実で真面目な方だと私は知っています」
「ロリポップさんは伯爵様のことを詳しく知っているのですね」
「はい。私は10歳の時からこの屋敷にメイドとして仕えています。なので、先代のクライファート伯爵のことも詳しく存じ上げています。アーダルベルト伯爵はクライファート伯爵からひどい暴行や性行為を強要されて自我を失ってしまい、人形のような抜け殻になってしまいました。ユスティーツ国の戦争によりクライファート伯爵が亡くなり、アーダルベルト伯爵が領主を引き継ぐ事になりましたが、感情を失い自分では何も判断できないアーダルベルト伯爵に力を貸したのが、クライファート伯爵の執事であったクローヴィス子爵です。クローヴィス子爵は、アーダルベルト伯爵が何も判断できないことをいい事に、町を自分の好きなように管理して、欲望を満たしていたのです。今は兵士長となって政務はハーロルト子爵にやらせて、別の何かを企てているようです。なので、噂で聞くような全てのことはクローヴィス子爵が行ったのであり、アーダルベルト伯爵は何もしていません」
「それは本当なのですか?」
「信じるか信じないかはこれからあなたの目で確かめてください。今回の面接の件でもご理解いただけたと思いますが、アーダルベルト伯爵様は女性へ興味はありません。なので、女性の裸を見て興奮するようなことはないので、あのような面接をする必要はないのですが、勝手に兵士たちが面接に来た者達を全裸にして楽しんでいるのです」
「それならなぜ?アーダルベルト伯爵はそれを止めないのでしょうか?」
「それは、感情を失っているからです。兵士たちの行動に怒りを感じる事がないのです。いつもはハーロルト子爵の好き勝手にやらせていましたが、今回は違いました」
「どういうことかしら?」
「予定にはないことをしたのです」
「予定にはないこと?」
「あなたを執事に任命して、ハーロルト子爵をクビにしたことです」
「予定にはなかったことなの?」
「あなたも用紙を見たと思いますが、執事の募集などしていないのです。今までクライファート子爵の言いなりだったアーダルベルト伯爵が自分の意思で判断したのです。これは前代未聞の出来事なんです」
「なぜ?伯爵様はそのようなことしたのでしょうか」
「私にはわかりません。しかし、私はあなたがこの屋敷・・・いえ、この町を救ってくれる救世主だと感じたのです。なので、私はあなたに全面的に協力をすると誓います」
「私に期待されても何もできません。私は平凡な治癒師ですので・・・」
私はなぜ、アーダルベルト伯爵に気に入られたのかはわからない。しかし、私にはやるべきことがあるので、それ以外には関心がない。
「ロリポップ、アルカナさんに仕事の内容を伝えてくれましたか?」
「はい、旦那様。簡単なことは説明したので問題はありません」
「アルカナさん、それなら今から神判所に行きましょう」
「はい。伯爵様」
神判所はアーダルベルト邸の敷地内にある。私はアーダルベルト伯爵の後を追いかけながら神判所に向かう。
「アルカナちゃん、これが今日行われる神判所の資料です。きちんと目を通してください」
私はロリポップから資料を渡された。資料に目を通すと今日は4件の判決を下す予定である。1つ目はブルクハルト騎士とクリスハルト騎士とのトラブルである。2人は平民のダニエラを見初めてしまい、どちらがダニエラを愛人とするか争っているので、どちらの言い分が正しいのかを裁決する。2つ目は平民奴隷を無断で家畜所から盗んだエーレンフリート子爵の罪を問うかの裁決をする。3つ目は髭のおっさんのアーダルベルト伯爵に対する行動が不敬罪にあたるかの裁決をする。4つ目はアーダルベルト伯爵邸でおしっこを漏らした平民男性の行動が不敬罪にあたるか裁決をする。
「さっきの出来事も今日裁かれるのですね」
「そうです。今日は神判の日なので全ての争いを1日で片付けます」
「きちんと事件やトラブルの内容を精査した上で神判を行うことをしないのですか?」
「アルカナちゃんも知っているよね。神判所がどういうところか」
「噂には聞いたことがありますが、関係者以外は立ち入り禁止なので詳しいことまではわかりません」
「神判所では身分の高い者が正義です。なので、当事者間の言い分や、被害者、加害者の供述内容などどうでもいいのです。神判所で1番身分が高いのは誰でしょうか?」
「伯爵様です」
「そうですね。でも、伯爵様は神判所には関心がありません。なので、いつもはハーロルト子爵が好きなように裁決を下してきました。でも、ハーロルト子爵はクビになったので、もういませんね。私が言いたいことは理解できましたよね」
私はアーダルベルト伯爵の代わりに神判所で裁決を下すことになってしまった。
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