第10話 面接の準備
次の日、私はアーダルベルト伯爵の門を叩いた。
「メイドの面接にお伺いしました」
「面接は15時からになっています。時間まで待機室でお待ちになりますか?それとも一旦家にお戻りになりますか?」
私の家はゾンダークでもかなり郊外にあるので、アーダルベルト伯爵の屋敷まで徒歩で1時間程度かかる。今は13時なので帰るのも面倒だったので、待機室で待つことにした。
「待機室で待たせてもらってよろしいでしょうか?」
「わかりました。担当の者をお呼びしますので、少々お待ちくださいませ」
門兵が屋敷の中へ入って行った。
しばらくすると、門兵と一緒に身なりの良い髭を生やした中年の男性が現れた。
「お前がメイドの面接に来た小娘か。1人で来たのか?」
「はい」
「身分証を見せろ」
身分証とは、町ごとに発行される身分を証明するものである。家畜は身分証を持つ必要がないので身分証はないが、平民奴隷・平民・貴族は身分証を持っている。平民奴隷と平民は、貴族の所有物になっていることが多いので、身分証を確認をしてトラブルを防ぐのである。貴族は階級や『称号』などが記載されている。
「アルカナ・レイフォール 16歳 女 『称号』治癒師 治癒院を経営しているのか・・・身分も外見も問題ない。よし、待機室まで案内してやる」
「はい。お願いします」
私は髭のおっさんの後をついていき屋敷に向かった。門から屋敷までは100mほどあり、屋敷までは緑豊かな庭がある。しかし、庭には大きな番犬を従えている兵士が数名いて、屋敷に侵入する者を警戒しているというよりも屋敷から出る者を監視しているような雰囲気に感じた。
「この古屋で待っていろ」
私が案内されたのは大きな立派な屋敷でなく、屋敷の離れにある古屋であった。古屋に入ると私以外にも4人の女性と3名の男性がいた。古屋の中は意外と綺麗で清潔感があり、大きな木製のテーブルに10脚の椅子が用意されていた。そして、黒のメイド服を来た20代くらいの女性が笑顔で出迎えてくれた。
「あらかわいいお嬢さんね。面接まではしばらく時間があるからここでゆっくりと休んでいてね。今、ジュースを用意するわね」
私は丁寧な対応にびっくりしたが、テーブルを見て少し納得をした。私の他に7名の面接予定者がいるが、飲み物が用意されているのは1名だけである。そして、他の6名は椅子にも座らずに立たされていた。
「ありがとうございます」
私はメイドにお礼を言ってジュースを静かに飲み干した。この国に来て私は10年になるので、このような光景は見慣れていた。でも、以前なら見慣れた光景でも憤りを感じていたが今は何も感じない。私の頭にあるのはソルシエールの復讐だけであり、それ以外には無関心になっていた。
「時間になりました。アルカナさん、カルリーヌさんと他6名の方は私について来てくださいね」
私たちはメイドの女性に案内されて、アーダルベルト伯爵の屋敷内に入っていく。屋敷はとても大きくて3階建てになっている。私たちはロビーのような広い空間を抜けると、長い通路を3分ほど歩いた突き当たりにある大広間に案内された。その大広間は100名ほど収容できるスペースで、大広間の奥には舞台がありそこに私たちは案内された。
「アルカナさんとカルリーヌさんは椅子に腰掛けてお待ちください」
私とカルリーヌは椅子に座った。他の6名は背筋を伸ばして綺麗に直立不動している。みんな自分の身分を弁えているのである。
私たちは舞台の上で1時間ほど待たされていた。椅子に座っている私とカルリーヌには待ち時間の間に飲み物などが用意されたが、他6名は少し体を震わせながらじっと姿勢を崩さずに待っている。舞台に案内されて2時間が経過した頃、やっと大広間の扉が開いて、護衛の兵士と思われる5名の軽装の兵士と髭のおっさんが入ってきた。
「今から伯爵様が面接にお越しになれる。全員全裸になってお出迎えをしろ」
髭のおっさんんが大声で怒鳴り上げた。そして、兵士たちがニヤニヤと嬉しそうに笑っている。
平民だと思われる男女6名は恥じらいを見せながらも衣服を脱いでいく。カルリーヌは服は脱いだが、恥ずかしくて下着を脱ぐことに躊躇している。私は躊躇なく全ての衣服・下着を脱ぎ捨てた。
いち早く全裸になった私は胸も下も隠すことなく堂々と仁王立ちして、まだ姿を見せないアーダルベルトを来るのを虎視眈々と待っている。ようやく全裸になったカルリーヌと他の6名は女性は手で胸や下を隠し、男性は下だけを隠して俯いて待っていた。
私はこれまでいろんな凄惨な現場や目を背けたくなる光景を見てきた。全裸になって体を商品のように見られることに抵抗はないとは言い切れないが、ソルシエールの復讐を成し遂げるためなら、何でもする覚悟はできたいた。
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