第9話 アルカナの決意
アーダルベルト伯爵は感情がなく性欲もない。なので独身である。彼は、他人の性交、苦しみ、憎しみ、悲しみを見ると心が落ち着くかなり変わった人物である。しかし、このような性格になったのは父からの暴力、強姦、など様々な苦痛をうけてきたからである。
アーダルベルト伯爵は多数の平民奴隷の男女を使用人として雇っている。アーダルベルト伯爵は他人の性交を見ると心が安らぐので、使用人同士を性交させている。平民奴隷が子供を出産すると家畜として国に没収されるが、アーダルベルト伯爵は平民奴隷同士が性交をして生まれてきた子供を国へ渡さずに、食事として平民奴隷に差し出していた。アーダルベルト伯爵は、亜人奴隷も購入していて、オークの男2名を両足を切断した状態で、両手を縛り上げてサンドバッグとして監禁している。
このような非道な行為を、眉一つ動かすことなく淡々とやってのける様を見た貴族たちはアーダルベルト伯爵のことを『失感情伯爵』と呼ぶようになったのである。
「アルカナさん、勝手に動かれては困るのだ。頼む俺の言う通りにしてくれないか」
「あなたには迷惑をかけないわよ!もう出て行って」
私はソルシエールを失って冷静な判断が出来なくなっていたのかもしれない。でも、もしかしたら、モルカナがソルシエールを嵌めた犯人の可能性もあるのかもしれないと、心のどこかで思っていたので、誰も信じられない状態でもあった。
「ルティア、お前はどうする?」
「ごめんなさいアルカナちゃん。私はお父さんの意見を尊重したい。ソルシエールさんの仇を取りたい気持ちもあるけど、慎重にことを運びたいと思っているわ」
「私は一人でもソルママの無念を晴らしてみせるわ」
モルカナとルティアは地下室に戻って地下通路を使って私の家から出て行った。一人残された私は肉の塊を抱きしめたまま眠ってしまった。今はこれ以上何も考えたくないのであった。
その後、夜中に目を覚ました私は2階の窓から見える月を見ながらぼんやりとしていた。今日は一生分の涙を全て出し切っていたので、もう涙は枯れ果てて出ることはないが、泣きすぎたせいか目がいつもの倍は腫れている感じがした。いつもは賑やかな家だったが、今は物音一つ聴こえてこない。
「みんないなくなってしまったよ・・・シェダルちゃん助けてよ」
私はデンメルンク王国の時に母親のように育ててくれたシェダルのことを思い出していた。シェダルはデンメルンク王国を支える護衛メイド『五芒星』の一人であり、私の護衛兼教育係をしていた女性である。シェダルは私の母の護衛役でもあったので、母のことも教えてくれたことがあった。母は双子の私たちを出産後体調を壊してずっと寝込んでいたが、体調を取り戻した後、とある事情で城から追放されたと聞いている。私は母とは一度もあったこともないので、シェダルの話でしか母の思い出はない。
「随分大きくなったのね」
私の耳元に誰かの声が聞こえた。
「え!シェダルちゃんなの?」
私はシェダルが助けに来てくれたと思って周りを見渡すが誰もいない。
「私はフィーネよ。あなたと直接対面するのは初めてかもね」
「フィーネ?聞いたことないわ」
「そうね。私はあなたのことならなんでも知っているけど、あなたは私のことを何も知らないわね」
「何を言っているの?意味がわからないわ。それに、フィーネちゃんはどこにいるの?」
「私はここにいるわよ」
私の目の前に急に一人の少女が姿を見せた。少女は12歳くらいで銀色の長い髪に銀色の瞳で、黒のローブを羽織っている。外見は私の幼い時の姿にそっくりだと感じた。しかし、その少女の頭には2本のツノがあり、背中には悪魔のような翼が生えていた。
「ソルシエールを嵌めた犯人を探しているのね?」
「ソルママのことを知っているの?」
「詳しくは知らないわ。でも、私にはある程度のことは推測できるわ」
「フィーネちゃんは何を知っているの。ソルママを嵌めた犯人を知っているなら教えてよ」
「犯人を知りたいのならアーダルベルト伯爵に会うのが1番の近道よ」
「やっぱりアーダルベルト伯爵が犯人だったのね」
「って思うわよね。でも、真相は違う可能性もあるのよ。だから、真相を確かめる為に、アーダルベルト伯爵のメイドとして働くことを勧めるわ」
アーダルベルト伯爵邸では随時メイドの募集をしている。平民奴隷は強制的に毎月10名ほど連行されているが、平民、下級貴族のメイドは面接によって採用される。このメイド募集の張り紙によると賃金はかなりの高額だが、一度メイドとして採用されると2度と家にも戻ってこれないと噂になっているので、お金に困った平民や貧乏貴族が、人身売買を行う形で成立していると推測されている。
私はソルシエールを罠に嵌めた犯人を見つける為にはどんな手段も使用する覚悟はしている。それは、自分の命を引き換えにしてでもある。ソルシエールは自分の命を差し出して私を守ってくれた。その期待に応えるには、生きてソルシエールを安心させることだと他の人は思うだろう。しかし、私にはソルシエールに酷い仕打ちをして殺した犯人とソルシエールを嵌めた犯人は命をかけてでも探し出し復讐したいのである。私はフィーネという少女の言葉を信じてアーダルベルト伯爵のメイドとして働くことを決意した。
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