第7話 ソルシエールの判断
一瞬意識を失って倒れた執事は、白目の状態でゆっくりと立ち上がり、厳しい訓練を受けた兵士のように直立不当して指示を待っている。
「ロワルド男爵は何をしているの」
「ロワルド男爵は、地下室に監禁しているオークの女と性行を楽しんでいます」
「すぐに、ロワルド男爵のいる地下室に案内するのよ」
「わかりました」
『女王の魅了』に虜にされた執事は、私たちは地下室に案内した。
「ここが地下室の入り口になります。合鍵は私が持っていますので、すぐに扉を開きます」
玄関のすぐ近くの物置部屋の床に頑丈な扉があり、その扉は鍵で施錠されているので、執事は合鍵を使って地下室に通じる扉を開けた。
ルティアは扉が開くとすぐに地下室の部屋に通じる階段を駆け降りていく。
「・・・」
ルティアは予想外の光景を見て言葉が出ない。
「ここで何があったの?なぜ ロワルド男爵が死んでいるの?」
地下室を開けるとオークの女の子の姿はなく、全身をバラバラに切り裂かれたロワルド男爵がいた。
「危ないかもしれないわ」
「ソルママ、どういうこと?」
「私たちは誰かにはめられた可能性があるわ。すぐにこの屋敷から逃げた方がいいわ」
私たちはすぐに地下室から玄関の方に向かった。
『ドンドン・ドンドン』
玄関から激しく扉を叩く音がする。
『すぐに玄関の扉を開けろ!不審者がロワルド男爵邸に侵入したと通報があった』
私たちは玄関から出ることは不可能だと判断して屋敷の2階に移動した。
「アルカナちゃん、このままでは私たちがロワルド男爵を殺した犯人にされてしまうわ」
「私たちは殺していないわ。ソルママ、どうしたらいいの」
「私のスキルで兵士たちを魅了しましょう」
「ルティアちゃん、おそらく屋敷の周りにも兵士を待機させている可能性があるわ。あなたの魅了は10m圏内のみ、全ての兵士を魅了するのは不可能よ」
「ソルママ、兵士に私たちの犯行ではないときちんと説明しましょ」
「アルカナちゃん、無理よ。さっきも言ったけど、これは計画された罠だったのよ。おそらく、『不滅の欲望』を探っていることがバレたのかも知れないわ」
「戦いましょう。私たちならこの町の兵士くらい倒すことは可能だわ」
「ルティアちゃんだめよ。ここにいる兵士たちを倒すことができても、救援要請を出されたら、アーダルベルト伯爵が動き出すわ。おそらく私たちを罠に嵌めたのはアーダルベルト伯爵。確実に私たちを捕らえる為の計画を用意しているはずよ」
「どうしたらいいの?ソルママ」
「私に任せて!」
ソルシエールはルティアに近寄り、私に聞こえないように耳打ちをする。
「そんなの無理よ」
「アルカナちゃんを守るためにはこれしかないのよ」
「でも」
「お願いよ」
ソルシエールは執事と一緒に2階から降りて行った。
「ソルママ、何をするの」
私は嫌な予感がしたのでソルシエールと追いかけようとした。しかし、ルティアが私を羽交い締めにして抑え込む。
「アルカナちゃん、私たちはここで待機するのよ」
「でも、ソルママが・・・ソルママが・・・」
「ソルシエールさんの意思を無駄にしないで」
私はルティアを払いのけてソルシエールを追いかけに行きたいが、背中につたわるルティアの涙が、ソルシエールとルティアの決意を感じて、私はルティアを払いのけることはできなかった。
しばらくすると、兵士の声は聞こえなくなって屋敷は静かさを取り戻した。
「ルティアちゃん、ソルママは私たちを助けるために1人で罪を背負ったの?」
「そうです。ソルシエールは、この場を乗り切るために自らを犠牲にしたのです。ソルシエールは、執事にロワルド男爵を殺したのは、ソルシエールだと供述するように命令を出すように言ったのよ」
「ソルママ・・・」
「アルカナちゃん、ごめんね。私のせいでソルシエールが捕まってしまったわ」
「ルティアちゃんは何も悪くないよ。私のために辛い判断をしてくれてありがとう」
私は、ソルシエールを犠牲にした罪の重さに苦しんでいるルティアを強く抱き締めた。
「絶対にソルママを助けようね。私たちを嵌めた犯人を見つけ出そうね」
「もちろんよ。父にも協力を要請して、みんなでソルシエールを助けるわよ」
次の日
私は家に戻ったけどその日はソルシエールのことが気になって一睡もできなかった。ソルシエールを助け出す猶予2日間である。
この町で罪を犯すと神判所で罪を裁かれる。神判所は領主であるアーダベルト伯爵もしくは代理人が、罪人の供述や目撃者の供述など一切考慮せずに独断で判断するので、すぐに判決は下される。しかし、週に1度にまとめて判決を下すので、ソルシエールに刑が下るのは2日後なのである。
そして、平民であるソルシエールが貴族を殺したとなると死刑は確実である。当然であるが簡単に殺すことはしない。平民が貴族を殺すとどのような目にあうのかわからせるために、平民たちを処刑場に集めさせて、7日間かけて様々な拷問と治癒を繰り返して、2度と貴族に反発できないように見せしめにする。
「アルカナちゃん、父に連絡を取ってくるわ」
私の家の地下には町から抜ける秘密の地下通路がある。この通路はモルカナと連絡を取るために、町の門を抜けずに外へ出るための通路である。ソルシエールとルティアは、町を1人ででる事はできない。町を出るには貴族以外の者はアーダルベルト伯爵の許可が必要なのである。
ルティアは地下の通路を使いモルカナの元へ向かった。
「ソルママ・・・ソルママ・・・私どうしたらいいの」
すぐにソルシエールを助けにいけないもどかしさに、私は涙を抑えて体を震わせていた。
『ドン』
玄関の方で何か物を投げつけた音がした。私は何か嫌な予感がしたのですぐに玄関の扉を開けた。
「・・・」
玄関を開けると、そこには丸い肉の塊が転がっていた。青黒い肉の塊には血と思える液体が付着しており、丸い団子が複数重なりあって大きな丸い肉の塊になったような歪な形をしていた。そして、丸い肉の塊の頭頂部には赤い髪が生えていた。
「ソルママァァーーーー」
その丸い肉の塊はソルシエールの頭だった。
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